102 / 385
14歳編
旅立ちの決意(1)
しおりを挟む「ジェラルド、地尖で先行して父上に報告をしてくれ」
『了解~!』
「みんな帰還する! ランディはリーンズ先輩と騎士たちを頼む。デュラハンさん、また必ず来ます!」
「ああ、トニスを影としてつけよう。来る時はトニスに伝えるといい。トニス、いいな?」
「了解です!」
石晶巨兵は魔力——燃費の問題を含め、改善点はまだまだ山積み。
しかし、結晶化した大地への干渉と治療が叶ったことは、世界の運命を覆す。
デュラハンとトニスのおっさんが言っていたことは、もちろん考慮しなければならない。
戦争への、加担。
もしそうなったら、俺は——。
「帰りましょう、ヒューバート様」
「ああ!」
俺とレナは来た時同様サルヴェイションに乗り込み、ランディの光炎に他のみんなを乗せ、帰還開始。
一度通った道は位置情報をサルヴェイションが記録しているので、ギギを通して光炎と地尖に共有する。
だいぶ扱いやすくなってるけど、操縦席も大人用にしたり、操作方法も簡略化できるようAIの詰める演算機もほしい。
演算機に関しては素材が足りないから、ギギと……デュラハンにも相談しよう。
ああ、久しぶりに胸が躍る。
これはもはや、破滅エンドを完全に回避したと言えるのではないだろうか!
俺は、人類は——もうすぐ結晶化した大地を克服するのだ!
「父上!」
「ヒューバート! 帰ったか!」
城に着くなり、数名の近衛騎士が出迎えに現れ、そのまま父のところへ猛ダッシュ。
執務室にはジェラルドがいたし、俺が入ると机を叩く勢いで立ち上がる父。
その表情は期待と不安で、しかし瞳が輝いている。
「ヒューバート、本当なのか!? ジェラルドから報告を受けたが……本当に!」
「はい、確認しました。もちろん、まだたった一回です。しかし、今日会いに行った魔道具師はサルヴェイションの本来の持ち主。とても有意義な話をたくさん聞けまして、彼との会話からもしやと思って試した結果が土の大地なのです。父上、可能なら今からでも国境へ参りますか? 俺もまだ興奮冷めやらぬといいますか」
「おお、おお、そうだな! すぐに行こう! ああ、しかし、レナ嬢は大丈夫なのだろうか?」
「レナも喜んでついてきてくれますよ」
父のテンションがこれほど高いところは見たことがないな。
いや、周りの近衛騎士も瞳が期待に満ちている。
すごいソワソワしている父上、なんか可愛いおっさんだな。
「よし、すぐに行こう」
「ジェラルド、父上を地尖に乗せてくれ。あ、魔力は大丈夫か?」
「走らなければ大丈夫かな。帰りはラウトに頼めばいいと思うし」
「そうか。よし、ランディたちと合流しよう。……燃費の問題は早めになんとかした方がいいなぁ」
「そうだねぇ」
「なにをしておる、ヒューバート! 急ぐぞ!」
「は、はいー!」
ワクワクしている父上を連れて、再び王都から国境へと向かう。
かなりの強行だが、早く父上にもあの光景を見せてやりたい。
結界の外へと地尖、光炎が出て、レナが結界の中から『聖女の魔法』を奏でると——あの白い光が大地から鱗のように剥がれて上昇していく。
何度見ても、美しい。
「…………土の大地だ」
誰かが呟く。
父上が俺の隣で涙を流し、その場に座り込んだ。
「ああ……奇跡だ。こんな奇跡が……ヒューバート、ああ……ヒューバートよ! お前は、神の子だ! この世界に希望をもたらした……ヒューバート!」
「っ……」
立ち上がった父上に抱き締められる。
何年振りだろうか、父に抱き締められるのは。
思い切り抱き締め返して、思う。
前世の父のこと。
ゴルフ行って、雨降って、俺が迎えに行ったら事故って死んで、きっとゴルフなんて行かなければって自分を責めてるんだろうなって。
母さんも、あの時俺に父さんの迎えになんて行かせなけりゃって自分を責めてるんじゃないかな。
腸が煮えくり返りそうなんだ。
父さんも母さんも悪くない。
あれは、電動キックボードで歩道を走ってたやつが悪い。
ある意味俺を轢き殺した車だって被害者だ。
……でも、デュラハンは言っていたな。
『なにもかも全部、ラウトが悪いとは思わない』
誰かにとっての悪や罪も、他人が定めるもの。
誰も正しくない。
誰も間違えていない。
その人の選択を、尊重する。
だからこそ理不尽で、悲しい結末も当たり前のこととして受け止める。
彼のような強さは俺にはないかもしれない。
だってあの電動キックボードの運転手を、今だって許せない。
けど、あの日死ななければ転生してヒューバートになってない。
ヒューバートになったからレナに出会えたし、レナに出会えたからジェラルドを救えた。
ジェラルドを救えたから、石晶巨兵は完成したし、みんながいたから今日、この瞬間がある。
だからもし、もしも石晶巨兵が戦争に利用されたら?
俺は、どうする?
そもそも利用できないようにする?
それとも?
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる