118 / 385
ミドレ公国編
庇われるということ
しおりを挟む神々しいと言われれば確かに神々しい。
見るからに重装備の近距離タイプ。
ん? 胸のところ、穴? 砲口?
いやいや、あんなでかい砲口、ヤバすぎだろ。
でもギア・フィーネならありえる、のか?
ありえそう。
サルヴェイションを見たあとだと、なんでもありな気がする。
「この国の守り神であると言い伝えられておる。貴殿が乗ってきたものと、大きさなどが似ている気がするのだが」
「そうですね……」
「なにかの参考になりそうか?」
「もう少し近くでご覧になった方がいいのでは?」
「え? あ、は、い?」
大公閣下ではなく、ハルオン殿下が俺を促す。
え? 待って?
[索敵]魔法にめちゃくちゃ引っかかってるよ? ハルオン殿下。
俺にだけ向けられる悪意、敵意、殺意。
顔は笑っているけど、俺には通じないんだよなぁ!
どうしよう? 仕掛けてくるかな?
ミドレ公国にとって俺とことを構える利点は、一つもないんだが。
ランディの方を振り返ると、ランディの方の[索敵]にも感知されているっぽい。
「ヒューバート王子?」
「あ、いえ。そうですね……確かに我が国の“遺物”に、とてもよく似ていますね」
「石晶巨兵は“遺物”を参考にしているのではないのか?」
「いえ、確かに構造は手本にしております。我が国に残っていた設計図をもとに、内部は特に手を加えていますね。今後も操作性などは“遺物”を参考にしていくつもりです。ですので、こちらの“遺物”を見せていただいたのは非常にありがたい」
「おお、それはよかった!」
大公閣下からは『悪意』『敵意』『殺意』は一切感知できない。
むしろ、その逆——『好意』のようなモノが感じ取れた。
この人とは仲良くやっていけそうなのだが……。
騎士団長の周り——岩陰にも十人ほどの『殺意』が感知できてる。
やばい、囲まれてるな。
『悪意』や『敵意』ならそれほどでもないけど、『殺意』ともなれば実行力が伴う。
散々暗殺未遂されてきたから知ってるんだ。
仕方ないからこっそりバフ盛って体を硬く、防御力高めにしておく。
けれど、もしもこれが俺だけでなく大公閣下や大公妃を巻き添えにしても、構わないという類だとしたら厄介だ。
トニスのおっさんも姿は消してついてきてもらってるけど、伝える術がない。
俺はレナを最優先するが、大公たちはどうやって守るべきか。
[ブラックシールド]は二つしか出せないから、背後に回すか。
「ところで——大公閣下」
「ん? なんだ」
「俺は比較的、狙われることが多いので、この程度で死ぬことはないのですが、大公閣下はいつもどうされているんですか?」
「……なに? どういう——」
「殺せ!」
大公と大公妃は本気でわからないという顔。
つまり、この二人は本当に白。
真横でハルオン殿下が先ほどとは別人のような顔で叫ぶ。
悪意——いや、殺意たっぷりの合図。
向けられた杖からは氷属性の魔力。
宙に氷柱がいくつも浮かび、俺と大公、大公妃のところへと飛んでくる。
驚いたな、自分の父親ごと殺そうっていうのか。
「[ブラックシールド]!」
特大サイズ!
全部防いだが、背後からハルオンの部下が飛び出してきて魔法で攻撃してきた。
それらはランディとラウトが防ぐ。
いつもやっていることと、たいして変わらない。悲しいけれど。
「ランディ、ラウト! 無効化だ!」
「了解いたしまし——殿下!」
「え」
上か!
階段の、天井ギリギリのところから“殺意”。
見上げた時、弓矢を放つ男の姿が見えた。
[ブラックシールド]は二つともハルオンに向けているから、俺が大公たちを守らなければ!
「ヒューバート王子!」
叫んだのは大公妃だろうか。
俺は防御力を爆上げしてるから、ちょっとやそっとのことでは傷つかない。
怪我もしない。
しかし、迫り来る矢は魔力を帯びていた。
多分、貫通魔法が付与されている。
その上、色がえげつない紫。
毒付与!
殺意高すぎだろ。
でも、毒耐性の高い俺なら——!
「っ——」
まあね?
レナの死にそうな表情で、「あー、また無茶してごめんなさい」とは思いましたけども。
目の前には赤い髪。
俺の側近の制服。
大公と大公妃を庇いに前へ出た俺を、ランディがさらに庇ったのだ。
階段の上の方にいた狙撃者は、ミドレ公国の騎士たちに取り押さえられた。
すべては一瞬。
時間にして十秒もないだろう。
逃げようとしたハルオンも騎士に頭と腕を掴まれ、地面に押し倒される。
レナが駆け寄り、前屈みに倒れたランディに[解毒]魔法を施すが、[索敵]魔法で見たランディの毒状態は癒えない。
「そんな、どうして……いつもなら……!」
「俺の時と同じ……? ランディ! しっかりしろ! 大丈夫か! トニスのおっさん! 解毒薬かなにかないか!」
「なんの毒かわからんのに、解毒薬は飲ませられませんよ。逆に悪化したらどうするんです? ちょっとお見せなさい。……[解毒]魔法が通用しないということは、かなり珍しい毒が使われているはず。狙撃者を吐かせた方が早い」
「っ!」
見上げると、騎士たちが頷いて捕らえた狙撃者を連れて降りてくる。
その時間さえも惜しい。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる