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15歳編
一年後の世界(2)
しおりを挟むそして俺が今日、研究塔に来ていたのはこれだ。
聖撒水機……もといスプリンクラー。
石晶巨兵の技術を応用した、結晶病予防の力がある魔道具。
定期的に聖女が近くで歌うことで結界を強化し、増幅させることで結晶化した大地の拡大を完全防止することが目的。
水を撒くために水道も建設中だし、晶魔獣で鉄をたくさん稼げたのがよかった。
製鉄所は大忙しで、規模を大きくする計画も出ている。
ミドレ公国ももう少し土地が増えたら製鉄所や新しい街を建設して、畑も増やしていく予定だ。
それと同時にギギとメメに独立AIロボットのデータを提供してもらい、人手不足を補う。
やることが、やることが多い!
技術者と職人の募集も教育も追いつかない!
「そうそう、ヒューバート殿下が考案した縦型建物の食糧生産場ですが、野菜と果物はかなり上手くいっていますよ。耐久性が心配でしたが、特に果物はいいですね。温室管理も自動ですし、季節関係なく採れるのがいい」
「あ、よかった」
「特に綿や麻は好評です。これで糸と、服の生産ができるようになります。新品の服は出回りが停止していましたから、革命に近い。殿下の評価は鰻登りになりますよ~」
「い、いや。病院を優先してもらうよ。シーツとか布団とか、かなり汚れていたからな」
なのだ。
特に綿なのだが、生産をかなり急がせている。
病院の布団やシーツがえげつない使い回しをされていて、きったねええぇったらねええぇってなってたから。
衛生的に、そして心情的にちょっとね。
デュラハンも顔を顰めてたし。
まあ、あの人根っから医者っぽいからそりゃ俺が消毒液を病院に置くよう広めたことを褒められるよ。
「あとは労働者用の食堂だな。冷蔵庫や冷凍庫もビル型のものを建てよう。食糧の備蓄は多ければ多いほどいい。それから紙だな。紙が足りない。リーンズ先輩、紙に適している木材の量産って急げませんかね?」
「うーん、難しいね。木は水魔法と土魔法と風魔法の複合魔法でないと、なかなか育たない。それに魔法で急速に生育すると土の栄養がごっそりと持っていかれてしまう。結晶化した大地から戻ったばかりの土にはその力がない」
「ってことは肥料になる作物を育てた土地に、紙用の森を作るしかありませんね。あ、水脈探しと用水路、下水路も急いで作らないと……うう、土地が広くなると晶魔獣対策も取りづらいし……あぁっ、家畜! 家畜も急いで増やさないと……」
やることが!
やることが多すぎる!
「帝国もこのくらい忙しかったら、戦争ぶっかけてこないかもねぇ~」
「それはどうでしょうね。国王陛下は帝国との隣接する区域に、巨大な壁や砦を建設中というではありませんか。相手を煽ることになるような気もしますが、あれが完成すれば情報戦的にもわが国が有利でしょうね」
「帝国からは難民も増えてるんだっけ?」
「はい」
と、リーンズ先輩が花の頭をこくんと振る。
実は半年ほど前から、帝国国民の一部がぞろぞろうちの国に入り込むようになっているのだ。
石晶巨兵のことがバレたのかと思ったがそういうわけではなく、単純に内紛がいよいよ本格化しているらしい。
本当に武力衝突に発展する前に、男手が徴兵される前に逃げようと唯一陸続きのうちの国に難民が歩いてくるのは必然というか。
それもあり、父上は外壁の建設を決めたし、砦も三つ、建設を決定した。
難民に混じって帝国の間者が入り込むのは、目に見えている。
ただ、父上は石晶巨兵が結晶化した大地の治癒に効果を持つとわかったその翌日からすでに壁の建設を決定し、着工していた。
情報が漏れるのは時間の問題だし、俺が石晶巨兵を平和的に使いたいと言っていたのを理解し、尊重してくれたからだ。
本当に父上は素晴らしい国王だと毎回尊敬する。
決断も早いし、痒い所に手が届くというか。
それに比べて俺は、先を見通す能力がまるでド下手。
まだまだまだまだである。
いや、もう、あんな立派な王に……なれる自信もないというか。
「はぁーーー」
「お疲れですね。量産機のことはこちらでやっておきますから殿下はお休みください」
「そうだよ、ヒューバート。目の下にクマができてるよ~? ちゃんと寝ないと! 成長期なんだから、背が大きくならないよ」
「ぐううえっ! ……ね、寝るよぅ……」
ジェラルドの発言の破壊力がやばい。
はい、寝ます。
最近仕事が溜まりすぎてて……というか減る気配がないというか、やった側から増えるというか……。
若いからと三時間睡眠が続いている。
寝ます! 今夜から!
チビのままはイヤ!
最近ようやくレナとの身長差も開いてきて、サルヴェイションの鐙に足が完全に届くようになってきたというのに!
……いや、サルヴェイションはさ……180センチあるデュラハンの身長に設定してあるんだと思うんだよ。
それに足が……まあ、かろうじて届くようになった? だけでも? すごくない?
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