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ハニュレオ編
蠢くもの(1)
しおりを挟む翌日。
早速城に召集された技術者に話を聞くことができた。
シズフさんが吐いた結晶魔石はジェラルドと研究するつもりなので、今はまだ俺たちだけの秘密である。
必要なら相談するつもりだけど、今日のところは必要ないだろう、多分。
「石晶巨兵を拝見してもいいですかね?」
「ではどこか広い場所に……」
「あ、あの……ヒューバートでんか……」
「マロヌ姫」
城の広間で技術者たちと合流したところに、マロヌ姫を抱っこしたオズが現れた。
相変わらずオズの口元には妖しい笑み。
まあ、この人をラウトに見せるつもりだったから好都合だが。
「姫も石晶巨兵を見学してくださるのですか? 石晶巨兵に興味を持っていただけて嬉しいです!」
「は、はい、あの、えーと……」
「マロヌ姫様も聖女候補であらせられますので、可能でしたら結晶化した大地を治癒するところを拝見したい、とのことです」
「なるほど」
コクコクとオズの言葉に頷く姫。
うーん、一応傀儡になっている感じではないのか?
姫の方はオズを完全に信用している様子だが。
オズが怪しすぎるんだよなぁ!
「そうだ、姫様に私の仲間を紹介したいのですが、よろしいですか?」
「?」
「ヒューバート殿下のお友達を、姫様にご紹介くださるそうですよ」
「!」
やや口下手なのかな?
オズが通訳してくれているのが地味にありがたい。
俺の友達、と言われて姫様がにこりと笑ってコクコク頷くのが、大変に可愛らしいです。
「懐かしい……俺とレナが出会ったのもマロヌ姫ぐらいの頃だったな。あの時の衝撃はいまだに忘れられない。あんなに可愛い女の子が、この世にいるのかとびっくらこいたもんだ。かわいい、しか言葉が出てこなかったもんなぁ。まあ、レナは今でも世界一可愛いけど」
「も、もう、ヒューバート様っ」
まあ、どうせなら結晶化した大地国境まで一緒に来てもらえると助かるな。
とはいえ、お姫様を勝手に王都から連れ出すわけにはいくまいて。
ハニュレオはミドレほど国土が狭くなってるわけではないので、国境まで丸一日ほどかかる。
土地が結構残ってる方だが、一日で国境につくのは千年前に世界の三分の一を支配した超大国カネス・ヴィナティキ帝国の流れを汲む国として考えると、結晶化した大地にかなり喰われたんだろう。
「ランディとジェラルド、それからルオートニス王国の守護神、戦神ラウトです」
「初めまして、マロヌ姫様。ランディ・アダムスと申します」
「ぼくはジェラルド・ミラーです~。よろしくお願いしま~す」
ちら、とオズの反応を見てみる。
相変わらずの笑み。
ラウトの方を見ると、不愉快そうな表情。
……どういう意味で不愉快になってるんだ?
「あれ、ラウト、シズフさんは?」
「機体の中で寝てる」
「わぁお……」
本当によく寝る人だぁ……。
千年寝てて、まだ寝足りないんだろうか。
「それよりどう? オズ」
「……そうだな、奇妙な感覚は覚える。知っているような、知らないような」
「仮面つけてるし、やっぱりわからないか」
「仮面はあまり関係はないが……確かに、そうだな……俺とディアス……いや、ナルミに近いなにかを感じる」
「ナルミさん?」
ジェラルドやシズフさんとかではなく?
うんん?
それって、つまりどういうこと?
「つまりあの男の性根はグズグズに腐りきっているということだ」
「そんなんわかるかい」
わざわざ説明していただいてなんだけど、さっきの説明でその詳細が俺に通じると思ったら大間違いだぞ、さすがに!
っていうか俺以外でも通じんよ、それ!
真顔で自信満々に言うことかな!
「っていうか性根がグズグズに腐ってるって……えぇ~?」
「あの手の手合いは腐るほど見てきた。間違いない」
「……せ、説得力ぅ……」
ラウトが言うと威力があるなぁ。
でも、そうなるともう少し警戒した方がいいだろうか?
マロヌ姫がかなり懐いているみたいだから、穏やかなお付き合いをしたいものなんだが——。
「あ?」
「どうした?」
「俺の[索敵]に反応多数……え? なんだこれ? どんどん増える……」
「なんだと?」
マロヌ姫はレナがパティとマリヤを紹介中。
技術者たちも幼女と聖女の微笑ましいやりとりに、孫を眺めるじいさんみたいな顔になっている。
実に緊張感とは無縁の光景。
だが、俺が常時展開している[索敵]魔法に『殺意』と『敵意』が引っかかる。
ただ、量が尋常じゃないぐらいどんどん増えていくのだ。
なんだこれ、どうなってる?
辺りを見回してみるが、石晶巨兵とギア・フィーネ二機——二号機は城門前の広場でシズフさんが寝てるから動かせない——を、騎士団の敷地内に移動してきたばかり。
当然クソ広い。
この広さで、この数の『殺意』と『敵意』を持つ人間を、見逃すはずがないのだ。
でも、俺たち以外に誰もいない。
まだ距離はあるし、騎士団の敷地を囲う壁に阻まれて見えないだけか?
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