終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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18歳編

将来の話をしよう(1)

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「…………」

 それでも、国民の暮らしがあの頃より確実に豊かになっている。
 それは嬉しい。
 純粋に、自分が関わってきたことの結果、努力が身を結んだように思う。
 実際自分の目で見て実感する。
 よかった……。
 政治家なんて俺には絶対無理ーって思ったけど、これほど充足感と達成感が得られるなんて。
 いや、もちろんこんなところで満足してはいけないんだろうけど。

「あ、あそこの売店で売ってるの、見たことない」
「本当ですね? 赤い、ハンバーガーでしょうか?」
「食べてみようか」
「はい」

 食文化が豊かになるのも素晴らしい。
 紙で包まれた、赤いソースに漬け込まれた謎の物体。
 匂いは甘辛いし、見た感じ肉っぽいけど……まだ家畜の繁殖は途中のはず。
 庶民に肉は高級品なんじゃないのかな?

「え? 肉? うまぁ……!」
「本当です! 甘辛いソースが濃厚で、ずっと食べていられそう」
「これなんの肉だろう?」

 ひき肉だけど、豚かな?
 でも、豚にしては旨みが強くて筋張った感じがするんだが。

「それはラックって生き物の肉だよ。鳴き声は鶏なんだが、豚みたいな大きさで牛みたいな味の肉なんだが猪みたいに凶暴で強いそうだ。ハニュレオから輸入されるようになってきてな。とはいえ良い部位はお貴族様が持ってっちまうから、庶民は残ってる部位を挽肉にして使うのさ」
「まあ、そうなのですね」
「なるほど、この甘味の強いソースには香草も使われているのか。臭みや苦味をソースでごまかしているんだな。いや、しかしソースでごまかせるまでに臭みや苦味を抑え込めるということは、かなり念入りに下処理しているんじゃないか? ひき肉ってことは塩と胡椒と香草を細かくして混ぜてそうだな。ソースは果汁とトマトと砂糖を煮込んだデミグラスベースっぽい。使われているのはバジルかな」
「……す、すげぇ、当たってる……」

 あ、いかん。
 趣味の料理が出てしまった。
 でもラックかぁ。

「あれだな、ち——父さんが爆ハマりして俺の分まで食べられて、結局今に至るまで食べてないから初めて食べたな」
「あ、あははは~」

 レナは俺と父上の仁義がなさすぎるその戦いを知っているので、この微妙な表情だ。
 あの人たまに、自分の好物にだけやたらと執着を見せて子どもになる時あるんだわ。
 そのもっともたるのが母上なのだが、両親の仲がいいのはいいことだよね。
 ただ、自分の欲望のために駄々こねてるだけなのに「王たるもの譲れないものの一つ二つあって当然であろう!」とか王道を諭すような言い方するのほんっと腹立つんだよなぁ!
 言ってることは一部その通りだと思いますけどねぇ?
 やってることが息子の分のハンバーグの皿を奪い取ってるってとこなんですよぉ!
 俺だけじゃなくてレオナルドの皿まで奪ってったから、本当に大人気ないんですよねあの人ぉ!

「これは料理しがいがありそうな肉だな。買って帰ろうか」
「そうですね……」
「え? な、なに?」
「い、いいえ。料理を……バードさんが自分でなさるのは、仕方ないことだと思っております。でも、なんだか最近……わ、わたしよりお料理がお上手で……!」
「え! そんなことないでしょ」
「そんなことあります! ソースの素材から作り方にまで……! 学校のお勉強もわたしより少ない時間で首位をキープなさって!」
「レ、レーナさん、シー、シーっ! 声が大きいよ」

 平民も聖殿の支援で王立学院に入学できるから、この程度の会話で俺たちの正体がバレることはないと思うけど……!
 言い過ぎですよ、レナさん!

「あ、も、申し訳ありません」
「ううん。でも、俺も一応頑張って勉強してるから」

 これはマジよ?
 いくら前世の記憶があっても、王侯貴族の学ぶ内容って中学高校と全然違うからな?
 経済だけでなく物理学や魔法学、剣と弓と槍まであるからな?
 ……思えば前世の義務教育って本当にゆるかったんだなぁ。
 この世界の学校って貴族以外は入れないのが普通だし、貴族は貴族でばちぼこに成績で将来決まるからおふざけ妥協一切なし。
 ある意味とてもシビア。
 将来ルオートニス王国の人口数百万人——これから土地が増えるし、ミドレ公国が降下するからもっと増えるだろう——の生活を背負うと思うと手も抜けない。
 こんな平凡な俺が、王様なんてって、今でも思う。
 多分一生そう思うだろう。
 その不安を少しでも払拭するために、死に物狂いで勉強した。

「はい! 存じております!」
「俺もレーナがすごく頑張ってるの知ってるよ」
「あ……ありがとうございます。でも、思ったように成績も伸びませんし……」
「レーナは大器晩成型なんじゃないかな」
「たいきばんせ……?」
「最初は伸び悩むけど、あとから一気に開花するタイプ!ってこと! 誰よりも努力しているから、きっとそういうタイプなんだよ」
「そ、そうでしょうか……?」
「うん、そうだよ」

 だって誰よりも頑張っているレナが、努力不足なわけがない。
 今芳しくなくても、いつかきっと報われる。

「あ、俺さ」
「は、はい」
「レーナと、具体的な将来の話を、してこなかったと思ってさ」
「将来の話、ですか?」
「うん」

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