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18歳編
君と休み(2)
しおりを挟む日曜日? いつだっけ?
今月クソのように忙しかったんだよね。
誕生日と結婚式のために特例として一週目の日曜日は潰して仕事してたし、二週目の日曜日は代表団対応のために損害賠償関係の資料集めと法律の勉強してたな。
三週目の代表団対応でステファリーに皇帝の箱を渡してたし、四週目の日曜日はハニュレオの外交官対応で昼から呼び出されて……。
「……………………」
「ヒューバート様! 日曜日は絶対にお休みしてくださいって言ってるではありませんか!」
「いやいや! レナだって休んでないじゃん!」
「わたしは待機時間が多いので暇な時間が多いぐらいです! 移動時間が長いだけですから!」
「う」
対する俺、書類仕事が終わらない。
「日曜日は絶対にお休みしてくださいって、国王陛下からもきつく言われていたではないですかっ」
「いや、それは、でも、今月は本当に忙しくて」
「それはわかっておりますけれど、だからこそ一日くらいきちんと休んでください!」
「ひぇ」
レナが強くなってしまっている……!
主に俺の休日に関して特攻持ちになってませんか!?
「もう! 今日はこのままお休みください!」
「え、でも」
「ダメです! わたしの方から執務室に連絡しておくので寝てください! 目の下にくまができています。徹夜もなさっていますね?」
「ぐっ」
くま!? そんなのまでできてたぁ?
身支度は侍女に任せていたから、鏡とか見てなかった。
「さあ、お部屋に戻りますよ!」
「いやでも、全然キリがよくないところで終わらせてきちゃったから——!」
「ダメです」
手を掴まれ、部屋の中に連れて行かれる。
ベッドに寝かされ、レナがドアの前の衛兵に執務室への伝言を頼み、戻ってきた。
そして、俺の頭の側に腰かけると自分の膝を叩く。
「どうぞ」
「どうぞ?」
「わたしの膝を枕にお使いください」
「え! そ、それは!」
膝枕!? え、い、いいの!?
ドキドキしながらも、レナが再度ドヤ顔で「どうぞ」と言うのでお言葉に甘えることにした。
「重くなったら、ちゃんと言ってね?」
「はい。大丈夫ですよ」
微笑みかけられて、胸が急速にポカポカと温かくなる。
自分が思った以上に寂しがっていたのか、と驚くと同時に……幸せで死にそう。
「……ヒューバート様、あの、だ、大丈夫ですか?」
「え」
急にレナに心配そうな顔をされる。
同時に目元を冷たい感触がじわりじわりと広がった。
目元に触れると涙。
え、あれ、なんでだ?
「あ、大丈夫……ああ、レナに会いたかったんだなぁって……」
「っ」
自分が思っていたよりも、俺はレナのことを本当に好きだったんだろう。
それに、多分マジで疲れていた。
悩むところも多いし、セドルコ帝国でステファリーの戴冠式と正式な終戦宣言、ルオートニスとの和平条約の締結、セドルコ帝国の解散と新国の設立が大々的に宣言されればひと段落つく。
世界から戦争がなくなる。
どれほどの保てるかわからない平和ではあるが、誰も知らないであろう、地上で一切の戦争が行われない世界がもう目の前。
たとえ多くの問題が山積みであったとしても。
『俺はお前が一番可哀想』
脳にずっと、残っている。
デュレオのあの哀れみの視線。
優しくて、穏やかな声色。
前世のことを思い出すと、あの時ほどの憤りや未練は感じなくなっている。
今は忙しくて、充実感があるからだろうか。
いや、それだけではなくて……死にたくない、と格好悪く泣く俺に、レナが寄り添ってくれたから。
「わたしも、ヒューバート様にずっと会いたかったです」
手を伸ばすと、眩しいほどに優しい笑顔がある。
前世では知らなかったけれど、多分……これが——
「あのさ、レナに……というか、誰にも、今まで話したことなかったんだけどさ……」
「はい?」
「俺、前世の記憶があるんだよね」
「……前世……ですか?」
「うん、信じてもらわなくてもいいんだけど」
そう前置きしてから、俺は前世の自分の話をした。
誰にも——父上にも母上にも、誰にもしたことのない前世の自分。
そういえば、18歳になって前世より長生きになったんだなぁ。
「ずっと許せなかったんだ。俺が死ぬきっかけになったやつのこと。俺でこれなら戦争で大事な人を意図的に殺された人たちは、本当に一生許せないんだろうなぁ」
「ヒューバート様……」
「まあ、最近忙しくてふとした思い出しもなかったんだけどね。仕事してるとさ、不意に思い出すってこともないんだ。前世の死んだ年齢も超えちゃったし、あと、一つ覚悟みたいなのができたっていうか」
「覚悟、ですか?」
目を閉じる。
心地のいい陽気とレナの声、空気、香り。
落ち着く。
一気に眠気が襲ってくる。
でもこれだけは、レナに伝えておきたい。
「うん……俺は前世子どものまま死んだから、恋人もなく……でも今は、レナがいるだろう? なんかさ……レナが……レナになら、俺は……きっと殺されてもいいし……許すと思うんだ」
「え……」
「命を預けてもいいって思うほど、俺は君を愛してる」
息を呑む気配。
ああ、ダメだな。
心地よくて、もう——寝る……。
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