終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

文字の大きさ
346 / 385
18歳編

人を辞める(3)

しおりを挟む

「ゆ、許してくれ、頼むよ! 俺、就職決まってさ! 今の彼女、俺の子ども妊娠してるんだ! もうすぐ出産でさ! 今めちゃくちゃ大事な時期なんだよ! なあ! 頼むって! 金は、これから子どもにたくさんかかっちまうから払えないけどさ! 自首……そ、そう! 自首すっから! 二度とキックボードにも乗らない! 捨てる! 約束するから! 成仏してくれよ! 頼むよ! 頼む!」
「…………」
 
 見下ろす。
 子ども。彼女。就職。
 自首したところで刑期が確定している俺の事故は、こいつの人生にもうなんの関係もない。
 犯人にも人生があり、反省したら赦すべき。
 そうだね、俺もそう思うよ。
 でもこいつ、なにか償ってる?
 一歩近づき、怯える男の首に手をかける。
 
「ゆ! 許してくれよ!」
「いやだ。許さない。俺だって、生きたかった。学校卒業したかった。父さんと母さんをあんなふうに泣かせたくなかった。あの車の運転手だって、俺を殺したかったわけじゃない。俺だって大学に行ってみたかった。彼女もほしかった。好きな女の子と結婚して、働いて、子どもを育てて、父さんと母さんに孫を抱かせてあげたかった。もっと生きていたかった——!」
「ひ、ゆ、ゆるし、許して……なんでもするから! 許してくれよ! 助けてくれてええ! 助けてぇ!」
「なんでお前の望みだけ叶えられるんだよ。俺を殺したのは——お前だろ!」
 
 乗り越えた、呑み込んだと思った感情が溢れかえる。
 俺の中に溜まっていただけで、なに一つ減ったわけでも消えたわけでもなかったらしい。
 首を持つ手に力がこもこると、ワンルームの部屋は真っ黒に染まる。
 男の後ろに真っ白な少女のような少年の巨大な影が現れ、手を伸ばす。
 茶色い長い髪のそれは、唇を開く。
 
『ヒューバートお兄さん、これは食べていい?』
「ヒィィィィイイイィ! 許して! 助けて! 殺さないでくれ! なんでもする! 謝るから! 謝るからァァァァァア!」 
「…………食べて、いいよ。クレア」
 
 持っていた首を、離す。
 直接でなくても、これは俺が殺す命。
 突き飛ばして、クレアの中へと吸収されていく肉と魂。
 
『未登録ノ霊魂ヲ補足。補修素材トシテ確保シマス』
「ごふぶぶぶ……ぶぁ! いや、だ! だすげ、だすげてぇ……!」
『データ化ヲ開始。———データ化処理完了シマシタ。惑星修復素材化ニ成功。終了シマス』
『たったの一つかよ。もっと持ってきてもよかったんだぜ?』
 
 俺の耳元で王苑寺ギアンが楽しげに囁く。
 そうだね。
 でも——
 
「お前の思い通りにならないよ。これ以上の犠牲を出さなくていいように、俺は神様もやめていつか人に戻るから」
「ふーーーん」
『急いでください。せめて人口が増えれば、人間の感情による魔力の生産体制が整えることもできます。ギアンは人口が増えればエネルギー変換用の素材が増える、としか思わないでしょうけれど……』
「うん、わかってる。絶対迎えに来るよ。デュレオと約束したしね」
『え……』
 
 目を閉じる。
 奇妙な感覚だ。
 ギア4の時よりも全能感があり、色々なことが短時間で理解できる。
 他の登録者の思考も、なんとなくわかる感じ。
 あと、多分物理的にも精神的にも魔法的にも死なない。
 寿命もなく、体の成長は自由自在。
 ゆっくり老けていくこともできるが、一定以上老いることはない。
 水の中も、多分宇宙空間でも呼吸しなくても死ぬことはない。
 デュレオのようにすぐに再生することができるし、肉体が消滅しても霊魂体アストラルだけで生きられる。
 すごいな、これが『神』。
 ディアスやラウト、シズフさんの隣に並び立つには、俺はあまりにも凡人だけど……。
 
「ヒューバート様!?」
「っ! ……あ……? ごめん、大丈夫。どうなった?」
 
 頭を抱えて起き上がる。
 操縦席で意識を失っていたっぽい。
 しかし、敵機はすでに沈黙して地面に倒れていた
 宙に浮いたままのイノセント・ゼロ。
 不可思議な感覚だ。
 イノセント・ゼロには菫色の蝶の羽の形をした光を背に生やし、数百キロ間が朝焼けのような青とも紫ともわからない曖昧な色に染め上げられている。
 
「レナの瞳の色みたいだ」
「ヒューバート様、大丈夫ですか? ギア・マレディツィオーネの一号機を倒してから、急に意識を失われて……」
「そ、そうだったのか。でも大丈夫。……どのくらい意識を失ってた?」
「三分ほどかと」
「そう。……問題なく神格化と神鎧化したみたいだ。ありがとう、レナ」
「そう、ですか」
 
 複雑そうなレナ。
 まあ、複雑だよね。
 見た目はなにも変わらない。
 でも、間違いなく自分が別の存在になった。
 自分の手のひらを眺めて、握る。
 ——大義名分で殺したんじゃない。私怨で殺した。
 でも、俺にとっては……。
 目を閉じて、外を見上げる。
 操縦桿を握り、町の広場へと戻りながらギア・フィーネから放たれるら光を停止させた。
 この光、そういえばなんだろうなぁ?
 
「仕上げしてくるよ」
「はい」
 
 壇上後ろに直立させたままコクピットを開く。
 貴族と聴衆、セラフィを映したままのモニター、両方に見えるようにマントを翻す。
 なぜか黄色い悲鳴が混じった歓声が上がる。
 
「セラフィ・セドルコ、あなたの罪は新国の貴族と民に処罰を任せます。これ以上うちの守護神たちを刺激しないでくださいね。これ以上は多分抑えられませんよ」
『っ! ッッッッ! ふざけるな! 妾はセドルコ帝国、第一皇女ぞ! 小国の王太子風情が生意気な! 生意気に! ううう!』
 
 町の外に着地してきた船を見る。
 中型船だな。武装もしている。
 着地の衝撃に呻くセラフィは、まだこちらを睨んでいた。
 レナを横抱きにして連れてコクピットから降りて、貴族たちの方を見る。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

処理中です...