終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

文字の大きさ
368 / 385
世界再生編

番外編 幸せな世界

しおりを挟む
 
「改めて——レオナルド、マリヤ、結婚おめでとう。お前たちの幸せを願っているよ」
「あ、ありがとうございます! ディアス様」
 
 ヒューバートがしれっとレナを連れ、会場を去ったあと仕切り直しとばかりにディアスがレオナルドとマリヤに挨拶を行った。
 他の四人は祝いの言葉を贈るようなタイプではない。
 かろうじてシズフが「幸せにな」くらいは言うが、表情が死んでいるので祝われている気はしないだろう。
 
「それにしてもやはりヒューバート様は器が違いますな」
「うむ。我らとは見ている場所が違う。この世界の未来を見ておられる。明日の会議は我らもそれを意識して考えねばならんな」
「ご家族が危険に晒されても堂々たる立ち居振る舞いも凛々しかったですわ」
「それを言えば神のご加護があるとはいえ、まったく動じた様子のなかったルオートニス王家の方々もすごかった。いや、しかしやはり王家の方々を囮のようにするのはいかがなものかと……」
 
 会場の中がゆっくりと会話が増え始める。
 昨日丸一日結婚で晒し者にされていたレオナルドとマリヤは、会場の話題を完全に掻っ攫っていってくれた事態に胸を撫で下ろす。
 今日一日の話題は先ほどの件で持ちきりになるだろう。
 兄の言ったとおりに。
 
「ヒューバートめ、話題作りに使うと言ったが大物を使いすぎではないか?」
 
 などと言いつつクックックッと楽しげに笑う父に、レオナルドも眉尻を下げる。
 笑うところではない。
 
(確かに兄上は『大丈夫大丈夫』とおっしゃっていたが……)
 
 さすがに肝が冷えた。
 マリヤを見ると彼女もホッと息を吐いている。
 王家籍に入った翌日にこんな目に遭わせてしまって申し訳ない。
 
「マ、マリヤ、大丈夫かい? 怖い目に遭わせてすまない」
「え? あ、いいえ。大丈夫です。ヒューバート様が事前に説明してくださっておりましたから」
「え」
「ハニュレオで結晶化津波の報を聞いた時の方が怖かったくらいですよ。大丈夫です。ご心配ありがとうございます、レオナルド様」
「そ……そうか……」
 
 妻となった女性は意外にも修羅場慣れしておられた。
 いや、よくよく考えればマリヤは兄の妻、レナの侍女であったのだ。
 レナもまたヒューバートとともに他国に赴き、それなりに危険な目にも遭っている。
 彼女を守る役目も担う侍女が逃げ出すことなどあり得ないので、もう腹を括っているのだろう。
 
(もしかして、僕の方が危険に不慣れ……?)
 
 両親も聖殿派の嫌がらせで、宇宙の代表者たちの態度にはなにも感じている様子はない。
 レオナルドぐらいだろう、ムッとしたのは。
 会場の貴族たちが言うとおり、あまりにも器が違う。
 改めて自分の温室育ちっぷりが目立つ。
 
「さあ、つまらない余興もそれなりに楽しんでもらえたようだし、あれが前座なのは俺も思うところはあるけれど……レオナルドにお祝いに歌を贈ると言ったから、今からは俺のライブの時間だよ人間ども」
「お、おお! 美と芸術の神、デュレオ様の歌唱を直にお聞きする機会に恵まれるとは!」
「すごい、わたくし初めてよ……!」
「聖女の力も持つと言われる歌の神か」
 
 会場のど真ん中。
 ダンスを行っていた者たちを押し退けて、[空間倉庫]から小さな箱を取り出した。
 それをカチカチと二回素早く押して、マイクという音声拡張機を取り出す。
 かの神の歌声を聴くのは、二年ぶりだろうか?
 各地で慰安ライブなるものを開催しているとは聞いているし、聖殿で抱える聖女たちに指南している時軽く歌っている姿は目にしたことがあるが。
 本当に、彼がステージで歌うことになるとそれはもう別格だ。
 
「~~♪」
 
 始まりの一言目で、もうすべて持っていかれる。
 視線も集中力も心もなにもかも。
 今まで嗜んでいた“音楽”を根本から覆される。
 テンポの激しい音楽が、あの小さな箱から流れ始めて魔法で拡張されて会場中を支配してしまう。
 曲調に合わせて踊りも始まり、踊りながら歌まで歌うのだ。
 体を動かしたら歌など歌えないと思うのだが、彼の場合はそんなことはない。
 踊り子は歌うことなく、歌は歌い手が担当するのがレオナルドたちの知っている芸事だ。
 だが彼は踊りながら歌うし、その歌は胸が熱く煮えるように激しい。
 歌もまた吟遊詩人が歌うようなものではなく、語るものでも届けるものでもない、まるで押しつけるようなもの。
 いや、突き刺してくるようなものだろう。
 深く深く突き刺さり、絶対に抜けないのだ。
 今日、この会場に来た者たちは貴賤問わず全員があの神の歌と踊りになにかを奪われる。
 誰一人言葉など発することはなく、あの神が歌い終えるまで微動だにすることもない。
 曲が終わってから、父と母が拍手すると会場が割れんばかりの拍手と称賛の声で満たされる。
 
「歌は嫌いじゃねぇんだよなぁ」
「忌々しいがな」
「うむ。歌はよくわからないが、デュレオが世界的に人気の歌手だったのは知っている」
「お、お前は少し黙った方がいいぞ、ディアス・ロス」
「な、なぜだ、ラウト」
 
 ファントムとラウトがわかりづらい捻くれた賞賛を行う中、なかなかにずれた評価をするディアス。
 多分彼は芸術と相性が悪い。
 そんな中、一曲だけで会場を虜にしたデュレオが帰ってきた。
 
「なにー? なんか悪口みたいなのが聞こえたんだけど」
「デュレオ・ビドロはそういえば歌手だったな、と言ったらラウトに黙っていろと言われた」
「な、なんで自白するんだ貴様はっ」
 
 本当にそのとおりである。
 せっかくラウトが黙っているように助言したと言うのに、全部喋ってしまった。
 ここまで来ると逆に狂気すら感じてしまう。
 
「歌手ねぇ……」
 
 しかし、デュレオが思いの外神妙に答えるから、彼らも不思議そうにしている。
 怒るわけでもなく、ただ、彼自身も確認するかのようだ。
 
「まあ、王子サマが世界を本当に救済してクレアを連れ帰ってきてくれたら、しばらく普通の歌手として歌をただ楽しむ生活も悪くないかもねぇ」
「ああ、いいのではないか? ラウトも最近町に出かけて楽しそうだしな」
「べ、別に。町には視察で出かけているだけだ」
「戦争のない世界は俺も初めて見る……」
「あー、なるほど、そういう」
「やかましい」
 
 神々が楽しそうなので、レオナルドもマリヤを見る。
 彼女も目を細めて彼らを見ていた。
 それはどこか姉のような、母のような眼差しだ。
 守護神をそんな目で見るとは、本当に懐の深い女性だと思う。
 
(幸せにしよう)

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

処理中です...