リスナーは壁〜超陽キャのVtuberがド隠キャVtuberに恋をした〜

古森きり

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明星ヒナタ、デビュー

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「どーもー。明星ヒナタです。『りゅうせいぐん☆』新人バーチャルライバー、『Starsスターズ』の片割れでーす。はっじめましてー」
 
 やる気のない、いかにもダウナー系口調で本日二人目の初配信が始まった。
 二人目は『Starsスターズ』の片割れ明星ヒナタ。
 後ろから見える細い首筋からはちょっと想像ができないほどに「さっきは相方がマジウザいこと言ってて、あいつの枠から来てくれた人ごめん」と重々しい声が配信に乗る。
 初手の閲覧者数も織星よりも少なく、やはりかなりの人数流れてきてはいるものの、好みが割れている感が閲覧者人数から伺えた。
 しかし、織星よりも淡々と、事前情報通りのスムーズな進行にスタッフ側は胸を撫で下ろす。
 
「――っていうカンジ。おれがミックスと演奏した歌みたはこのあとハルトのチャンネルで流れるし、公式チャンネルでおれらの公式番組の第一回目が二十時からプレミアム公開されるから、観に来て。第一回目からマージ飛ばしまくっっててホンットウザいんだよね。……え? あー、別に仲悪くないよ。相方って言ってるけど、こう見えておれとハルト、双子の兄弟だから」
 
 そんなこと言ってたね、と思い出していたら、突然の肉親カミングアウトにチャット欄が「マ!?」「それで同じママなんだ!?」「ママが同じっていう意味じゃなくガチで双子!?」「兄弟ライバー初めてみた!」「チャンネル登録しました」「突然のてぇてぇ」とものすごい勢いで流れが速くなった。
 言われてみると確かにガチ兄弟ライバーは俺も初めて見たかも。
 
「でもアイツめっちゃ陽キャじゃん。色々しんどい時もあるんだよ。だから相方ってことでデビューしてるの。おれがやだったんだよ、兄弟ライバーとしてデビューするの。隠すつもりもないけどさ……え? 私生活も一緒に暮らしてるのって? まあ、そうだけど……」
 
 チャット欄の流れが速すぎて、俺も拾えない。
 閲覧者数もめっちゃ伸びてる。
 兄弟ライバーが珍しく、しかも同じ事務所、ユニットとして同日デビューが余程リスナーの琴線に引っかかったらしい。
 登録者数も鰻登りだ。
 
「ああ……さっきの初配信ね。おれも見たよ。おれだって初配信でめっちゃ緊張してたのに、なんか、ぶっ飛んだわ」
 
 と、心底面倒臭そうに言う。
 リスナーたちは興味津々。
 織星がアマリに公開告白したのを相方の明星が知らなかったことを聞いて、野次馬魂に火がついたようだ。
 次々流れていく質問。
 その流れに明星は「え、待って、おれ、陰キャだし、今日初配信だからコメント追い切れない……えっと、待って……」ともたもたしながら応えようと一生懸命になる。
 
「えっと、あー……そうね、甘梨先輩に一目惚れしたのはマジだよ。生まれた時から一緒にいるけど、あんなの初めて見たし。あ、甘梨先輩に鳩やめてよね。……っていうか、ハルトのアレって許されるの?」
 
 ストレートにリスナーに聞いちゃったよ。
 俺もあれはリスナー的に許されるのか知りたいよ。
 金谷と思わず顔を見合わせてしまう。
 すると、コメントは「あり」「びっくりしたけど頑張ってほしい」「甘梨先輩可愛いから仕方ない」「応援するよ!」「ヒナタくんにも反対しないでほしい」など、思いもよらない流れ。
 マジか。
 いいのか。許されるのか。
 
「え、いいんだ? 『ライバーからの恋愛相談とかレア』……あーなるほどね。確かに普通禁忌っぽいもんね。でも逆に頼られると嬉しい……か。それは確かに」
 
 初対面であっても、やはり頼られるのは人として悪い気はしないのだろう。
 しかもガチ恋勢が現れがちなこの業界で。
 ……そのガチ恋勢が、ガチ恋される側のライバーで、その相手が同じ事務所の先輩とくれば……。
 
「え? 『壁として誇らしい』? なにそれ……よくわからないけど……ハルトの恋バナ、エンターテイメントとして楽しんでるってこと? アイツ、本気って言ってるのにそれでいいのかな……?」
 
 初配信なのに重くない?
 ハッとして時計を指差した俺に対して、明星は「うわあ!」と本気で驚いてしまう。
 リスナーたちが「どうした!?」「大丈夫!?」「!?」と明星を心配する。
 俺もまさかこんなに驚かれると思わず口パクで「ごめん」と謝った。
 しかし、明星はすぐに「あ、違う……ごめんなさい、ありがとうございます……時間やばいって、スタッフさんが教えてくれたの。俺が大袈裟にびっくりしちゃっただけ……」とリスナーに現状を説明する。
 あと一分なんだよね。
 
「あ、っと……そ、その、このあと、歌みたがハルトのチャンネルで、あがるから……聞いてくれると、嬉しい。えっと、おれの予定は、ツブヤキッターで予定表あげる、けど、チャンネル登録と高評価、歌みたと公式番組、よろしく……そ、それじゃあ」
 
 まだあと三十秒くらい話せたけれど、明星は配信を終わらせてしまう。
 そして、俺から離れるように慌てて立ち上がり、ソファーのところまで駆けて行ってしまった。
 え、えーーー?
 
「ヒナタくん? 大丈夫ですか?」
「ご、ごめ、ちが、だ、大丈夫……です。あの、きゅ、急に……椎名さんが、顔、近くて……その……」
「ごめんなさい!」
 
 俺のせい!
 そういえばかなりの人見知りだと聞いていた。
 もしかしたら、アマリのような対人恐怖症気味なのかもしれない。
 仕事とはいえ酷いことをしてしまった。
 
「い、いえ……あの……そ、そうじゃなくて……ぼく……あの……」
 
 振り返った明星は、顔を真っ赤にしている。
 口をぱくぱくさせて、繰り返し「ちがうんです」となにかを弁解しようとしていた。
 よくわからないが――。
 
「驚かせて申し訳ない……」
「いえ、そ、そうじゃなくて……ウッ……」
「あー、まあ、とりあえず……今日は残りプレミアム公開ですから、お疲れ様です?」
「あ、そうだな。お疲れ様、明星。初配信よかったよ」
「っ……!」
 
 金谷とともに明星に労りの言葉を贈る。
 なんにしても、今月の新人デビューは無事に……無事に? 終わった。


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