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再チャレンジ(1)

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「淳ちゃんが所属できなかったから、星光騎士団は予備部隊すら入団者ゼロだったもんな。言うて他の古参グループ『魔王軍』も『勇士隊』も入団者ゼロだったみたいだけど」
「さすがトップグループだよね。西雲学園芸能科に比べて全体的にレベルが低いとか言われているけど、やっぱり星光騎士団と魔王軍と勇士隊は全国レベル……」
「うんうん。夏の陣と冬の陣までには、やっぱりどっかのグループには所属したいよなぁー。自分たちでグループ作るのもありだろうけれも……」
「一年生だけのグループは本当に一からやらないといけないから、大変だもんな」
 
 いつの間にか、他のクラスメイトが集まってきて、そんな話になって盛り上がる。
 やはり東雲学院芸能科に入学したからには星光騎士団、魔王軍、勇士隊は憧れだ。
 十年ほど前――“グループ”や“ユニット”のシステムができた頃から存在する古参。
 その伝統から、この三グループにはグループの固定ファンがいる。
 歴代メンバーを愛して、メンバーがどんな道を選んでも受け入れ、応援してくれるファンが。
 中でもやはり二年前に卒業した『鶴神コンビ』こと鶴城一晴と神野栄治はいまだに人気が高い。
 ワイチューブチャンネルを開設し、SNSを駆使して知名度を爆上げしたのがまさに彼ら。
 その一年後輩で現在は若手声優の中でも注目株の蔵梨柚子も、声優業界で星光騎士団ファンが継続して応援している。
 そして、現在の星光騎士団第一騎士団唯一のメンバーにして騎士団長、三年生の綾城あやしろはく
 東雲学院入学直後に「彼女がいる」という噂が出回り大炎上。
 誹謗中傷からの自殺未遂。
 現在十九歳の一浪。
 が、誹謗中傷の自殺未遂から復活し、「彼女がいる」というデマを流した女子高生を法的に制裁して星光騎士団に一年生の時点で第一騎士団に迎えられたことで安定。
 今では「デマを流した人ではないですけど、自殺未遂した時に助けてくれた女性と本気で交際しています!」と堂々と宣言してガチ恋勢を一気に突き放した。
 しかし一部では誹謗中傷で自殺未遂していることを心配していたファンにより、「むしろ今時のアイドルっぽい」「命の恩人じゃ仕方ない」「その調子で頑張れ」「幸せならオッケーです」と応援の言葉が集まり受け入れられている。
 こんな話題性がずば抜けている星光騎士団は、おそらく古参の中で今一番世間人気があるだろう。
 だからこそ、新入生の入団希望者が殺到している。
 淳だけではない。
 しかし、受かった者はゼロ。
 古参であり、人気グループだからこそ希望者が多く精査も厳しくなるのだろう。
 
「やっぱ古参の三グループのどれかには所属しておきたい、よなぁ」
「だよなぁ。常設募集ホームから応募しておく?」
「でも、この間オーディションしたばっかりだし」
「だ、だよなぁ」
 
 クラスの空気がまたどんよりとする。
 現実が戻ってきた感じだ。
 
「中堅グループに今から応募してみるか?」
「それもありだな。自分の方向性と合いそうなところ探してみるか」
「中堅は結構あるんだ?」
「三年以内結成グループもあるぞ」
「淳ちゃん、どうする?」
「うーん……」
 
 天皚に覗き込まれ、スマートフォンにまた目を落とす。
 西雲学園とのライブオーディションなるものの開催は三週間後。
 五月に入ってすぐの、ゴールデンウィーク中に都内の大型ショッピングモール内ステージで行われる。
 つまり、一般のお客さんがいるのだ。
 しかも、普段東雲学院の恒例ライブに来るようなファンではなく、芸能科の学生のことなど知らないようなまったくの一般客。
 
「アイドルに興味のない人たちを立ち止まらせるようなパフォーマンス、歌唱力、あるいはトーク力を見る――かぁ……」
「ああ、ライブオーディションの内容?」
「うん。ライブだから“グループ”で、最低でも一曲振付ありで生歌。次のグループへの紹介MCを行う。新入生のみ。エントリー締め切りは一週間後。つまり、練習時間は二週間……」
「ヤベェよぉ~! 二週間で振付と歌詞覚えるとか……!」
「うん。既存曲と最初から振付があるやつじゃないと厳しいよね」
 
 やはり、中堅から新設グループのどれかに加入して、曲や振付を使わせてもらった方がいい。
 そうでなければ、時間的にライブに出るなんて無理だ。
 エントリーを見送るという選択肢ももちろんある。
 だが、募集要項には『事務所所属タレントのオーディション』とはっきり書いてあった。
 西雲学園と違って東雲学院の芸能科生徒は、三年生でも所属タレントになれるのはほんの一握り。
 それになにより――
 
(春日芸能事務所って、神野栄治様の所属事務所~~~~!)
 
 憧れの恩人。
 淳と妹のヒーロー。
 彼の所属事務所が主催のオーディション。
 
(絶対受かりたい。絶対……!)
 
 しかもアイドルを多く採用したい、という理由。
 こんなチャンス、新入生の時点で。
 エントリーを見送るなんて絶対有り得ない。
 
「俺……もう一度星光騎士団の入団試験受けてみる」
「ええ……!? む、無謀じゃない!?」
「ううん! やる!」


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