ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい

古森きり

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理不尽がいっぱい

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『お前を孫とは認めない』
 
 別にそれはいい。
 お前に認められたいとなんて、思ったことはない。
 けれど、その言葉は言霊となって呪いに変わり、物事の道理がそれなりに理解できるようになった七つの時に母は己の首を括って吊った。
 祖母と祖母を信奉するいわゆる“マザコン”の父は母の遺体を下ろすこともなく『臭い』と言って着物の裾で鼻を覆い、部屋に入ることもなく立ち去る。
 あの時、自分の生まれ育ったこの家――千頭山せんずやま家は腐っているのだと確信した。
 こんなに腐っているのに祈祷師の家系というのだから、この世はシャレが効いている。
 腐敗臭が鼻腔に残り、まともな教育も受けることを許されぬまま父は新しい女を家に連れ込むようになり、私――千頭山真宵せんずやままよいは祖母の“呪具”として現場に連れて行かれるようになった。
 事故物件に残る怨念、無念を体に取り込むよう祖母の祈祷が唱えられる。
 本来人形で行われるはずの『身代わり』。
 負の念を取り込み続けた結果など、決まっている。
 どんなに身を清め続けようが長く持つはずもない。
 私は死ぬ。
 もうすぐ死ぬ。
 “彼女”なら、私を助けてくれるかも知らないと……手を伸ばした時には遅かった。
 私の体から溢れる念は、混ざり合ってどろどろになってもう、呪いを越えたモノになっていたのだ。
 呪いを越えたモノ――祟りに。
 自分の手が溶ける。
 黒く、底の見えない楽しい気持ちに笑いが止まらない。
 そう、もう、私……私が私じゃなくなっているの。
 世界のすべてが真っ黒で綺麗。
 私が私でなくなって、壊れて、溶けて、一つになって……私はこの世界がとても愛おしく憎らしい。
 好き、好き、好き、好き、だぁい好き。
 だからみんなみんな、壊れて消えてほしいの。
 私を愛してくれないこんな世界、私のために私に喰われて消えてちょうだい?
 私が食べたら、私の一部になるよね。
 私のお腹で私の呪いで染め上げたら、私が産んであげる。
 私が全部飲み込んで、全部私のお腹で私にして、私が産んで“お母さん”になるの。
 私は母のように私を置いて行ったりはしない。
 最後まで愛してあげるから、私を愛して支配されろ。
 妬ましい羨ましい。
 人の笑顔を見るのが好き、大好き。
 私が産んだらみんな私に笑顔をむけてくれるよね?
 ねえ、お願いだから――愛して。

 みちる『真宵さん……』
 数珠を手のひらに巻きつける。
 わたしは祟り神になってしまった真宵さんを見上げて
 手を合わせる。
 もう、これ以上真宵さんを苦しめないために
 祈りを込めて祝詞のりとを唱え始めた。
 支離滅裂でも、真宵さんの心が伝わってくる。
 この人はずっと愛して欲しかったんだと……。



「ろくなエンディングがなーーーーい!」

『宵闇の光はラピスラズリの導きで』というスマホゲーム。
 最近ネットで有名なVtuberが声優を務めたとかで、密かに人気になっていた。
 かくいう私もそのVtuber――織星おりほしハルトくんが好きで始めたわけなのだが……ライバル令嬢もとい悪役令嬢の五回目の死。
 なんなら他の攻略対象のルートだと別の攻略対象が死ぬパターンもあるほど基本的に人が死ぬ。
 死にすぎ死にすぎ。
 今時こんなに人が死ぬ乙女ゲームある? ってくらいに死ぬ。
 あーあ、織星くん演じる宇治家真智うじいえまちくんルート、早く追加されないかな~。
 来月には公開ってお知らせが出てたけど……。

「あ、まず。もう十二時じゃん。寝ないと明日起きられないや」

 明日も普通に仕事だし。
 一人暮らしだと家事をする時間が取れないから、明後日の土曜休みは溜まっている家事を一気に片付けて……。
 そんないつもの生活。
 あくびをしながら眠りにつく。
 でも、ゲームのしすぎだったのだろうか?
 真っ暗な道を誰かに背負われている夢を見た。
 臭い。
 何日もお風呂に入っていないような、小汚いおっさんの背中。

「ほら、二十代の……若い女……」
「この女に呪詛を埋め込んで――」

 ほら、なんか『宵闇の光はラピスラズリの導きで』みたいな会話が聞こえてくる。
 しかもなんだか金縛りみたいに体が動かない。
 気持ち悪い。
 なに? 変な……お香?

「そう、こいつ。こいつが職場であたしの邪魔をしている女。小林さんはお前なんかに渡さない」

 聞き覚えのある声に、動かない中でも無理矢理瞼を押し上げる。
 なんか……職場でやたらマウント取ってくる後輩の声が聞こえたような……?
 夢、だよね?
 ゆめ――。

「小林さんはあたしのもの。お前なんか死んじゃえ」
「――――――」

 なんだか暗い部屋。
 真上の電球がやたらと眩しい。
 鬼女の面をつけた、白装束の女が五寸釘を私の胸の上に押し当て、振り上げた金槌を振り下ろすところだった。
 冗談がきつすぎないだろうか?
 夢にしては悪夢すぎないだろうか?

 ――ブツン。

 まるで電源を落とされたかのような、不穏な音。
 そんなことある?
 自分で自分の命が終わったと、なぜだかはっきりとわかったのだ。
 間違いなく、私はあの鬼女面の女に五寸釘を打ち込まれて死んだ。
 小林さんって、職場の既婚者男性?
 確かに長身イケメンでシゴデキだけれど、あの人は私の上司なだけで男女関係はない。
 むしろ、小林さんはお嫁さん一筋。
 お嫁さんの誕生日プレゼントになにがいいのか相談されたことはあるけれど、男女関係を匂わすようなものはなにもない。
 あの後輩、小林さんに興味津々なようだったけれど、まさか――。
 嘘でしょ?
 それが理由で私、殺されたの?
 理不尽すぎない?
 そんなことある?
 絶対納得できないんだけれどーーー!?

「はっ……」

 無理、と叫ぼうとした瞬間、口から出たのは吐息。
 そして目の前には女の人が天井の梁から吊るされている光景。
 衝撃映像のあとに衝撃映像が続くのなんなの?
 なにこれ? ……本当に、なにこれ……?

「臭い」

 背中から聞こえてきた声に振り返る。
 着物の袖の裾で顔の半分を覆いながら、顰めっ面で部屋に入りもせずさっていく初老の女と無表情の男。
 祖母と、父。
 そう、認識した。

「………………嘘でしょ?」

 ついさっき、寝る前に読んだ悪役令嬢、千頭山真宵せんずやままよいの独白そのもの。
 唇が震えた。
 この世にこんな理不尽がゴロゴロしているなんて、誰が想像つくだろうか?


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