43 / 132
攻略対象、御愚間英
しおりを挟むリン……とひと鳴らし。
それだけで強い霊力の拡大を肌で感じる。
なにこれ、すごい……!
私の霊力が増えるみたいな感じ。
いや、なんか、こう……波紋が拡がっていく、が正しいだろうか?
どこまでも拡がる。
「信じられない……六歳だろう? これほどの霊力を持つとは……」
「さすがは千頭山家のお嬢様だわ。ひと鳴らしでこれほどの広範囲から霊を退かしてしまうなんて」
「簡易結界になっているぞ」
「きれい……」
最後の言葉が一番嬉しかった。
振り返ると、空を見上げながら瞳をキラキラさせている英が見える。
……あ……そういえば、『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の御愚間英のストーリーは、商売人として実家の家業を手伝う傍ら、本家筋の寺院などで霊能力者としての能力を開花させるべく修行に努めていた。
彼は――ゲーム内の御愚間英は攻略対象の中では一番霊力が低い、一般人寄りの能力しかなく、なおかつ修行しても能力が伸びないことに苦悩していた人物。
霊能力の才能がなくて、実家の商売に必死について行こうとテンション爆上げで頑張って……だから、私生活では寡黙でローテンション。
彼はずっと霊能力者として最前線で戦う人たちに憧れを抱いており、結界の外に一人で、能力者として挑みたいと願っていた。
それが彼の夢で、目標だったのだ。
それはなぜなのか。
彼の家の宗家、御愚間神社の当主が悪霊に襲われた英を助けてくれた。
だが、その当主は結界の外に出て――帰ってこない。
死んだわけではないらしい。
結界の外の拠点を確立させるべく、村を作って結界の外の人々を呼び寄せ、結界の中と同じような生活になるように支援を続けているとか。
さらにその当主を尊敬した英は、霊能力者になって当主の手伝いをしたいと考えている。
そのために、最前線を一人で渡り歩けるほど強くなりたいと望んで修行を続けていたのだと。
しかし、どうしても英には能力者の才能がなかった。
夢のために悩み苦しむ英を隣で支える主人公は、逆に霊能力者としての才能を瞬く間に開花させていく。
そんなの、普通の人間の精神なら耐えられない。
そこが英ストーリーの分岐点。
主人公が英に対してどのように向き合うのかが、英が祟り神になるかならないか、友人、恩人から恋人になるかどうかの分かれ目。
主人公が英に向き合い続け、自分の力を伸ばし続けるのが正解。
卑屈になっていく英に、主人公は喝を入れて共に成長していくことを選択する。
そうすることで英自身も成長していき、ハッピーエンドルートは英自身の霊能力の開花。
そう、努力する主人公の叱咤激励を受け入れられるほどに絆を深めた英は、主人公とともにより努力を重ねてついに霊能力者になるのだ。
最後は二人で手を取り合いながら、結界の外へと踏み出す――。
英の苦悩を間近で見続けてきたからこそ、感動的な終わり方だった。
なにより家族につき合ったハイテンション営業から解放されて、夢が叶ったことで英の本当に、正真正銘本来の穏やかな性格が現れててマジでよかったぁぁあああぁ!
…………じゃ、なくて。
「いいな……」
ポツリ、と誰にも聞こえなさそうな声で呟かれる英の本音。
ぐっ、胸に突き刺さる。
このあと十二年は開花しない英の霊能力。
私や十夜と同じ修行をしたら少しは開花し易くなるのだろうか?
いや、でも私の修行はすでにある霊力を高め、操作精度を上げ、感覚としての制御の修行が中心だからな~。
英の場合は『霊力開花』の修行。
能力がない者が、霊能力を開花させるのは、別の修行が必要なんだもんね。
「いや! 実に素晴らしい! 素晴らしい!」
ビクゥッと体が跳ね上がる。
突然の拍手にびっくりした。
いや、まあね、拍手って簡単な簡易結界。
御愚間家全員で拍手されて、私自身もハッとする。
「え、あ! お、お鈴、お返しします……!」
「はい! 素晴らしかったです! 想像以上でございました!」
「本当に素晴らしいですわ、真宵お嬢様! 100%割合の霊石お鈴を使って砕かないこともさることながら、このお鈴を使って倒れないなんて……!」
ドウイウコトナノ。
え、倒れ……!?
普通倒れるものなの!?
「た、倒れ……?」
「ああ、申し訳ありません。霊石100%のお鈴は使い手の霊力を絞り出してしまうことがあるのです。ちゃんと霊力を使いこなし、なおかつお鈴に霊力を吸われきらないほど豊富な霊力量があれば問題はないのですよ」
「我々の思った通り! 真宵お嬢様は素晴らしい霊力量です! お鈴も霊力を吸い上げきると壊れてしまうのですがヒビ一つない! 素晴らしい! 実に! さすがは千頭山家のご令嬢!」
「は……」
はあああああ……!?
た、試したってこと!?
こ、この人ら……商人のくせにどういうつもり――いや、まさか……私にお鈴を試させて、壊れたら弁償させるつもりだったとかじゃないでしょうね!?
いくら子どものしたこととはいえ、50:50割合で十五万でしょ?
100%割合とか三桁万円超えなんじゃないの?
だとしたら悪質なんだけど……。
「こ……壊してしまわなくてよかったです……」
とりあえず六歳児らしくわからないふりをしてお鈴を木箱の中に返す。
ちゃんとお鈴が木箱の中に収まったのを確認してから、ひっそりと胸を撫で下ろした。
その時、英の浮かない表情が目に入る。
ああ、これはやっぱり“いつものこと”なのか。
1
あなたにおすすめの小説
転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!
柊
ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」
卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。
よくある断罪劇が始まる……筈が。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる