ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい

古森きり

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攻略対象、御愚間英

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 リン……とひと鳴らし。
 それだけで強い霊力の拡大を肌で感じる。
 なにこれ、すごい……!
 私の霊力が増えるみたいな感じ。
 いや、なんか、こう……波紋が拡がっていく、が正しいだろうか?
 どこまでも拡がる。

「信じられない……六歳だろう? これほどの霊力を持つとは……」
「さすがは千頭山せんずやま家のお嬢様だわ。ひと鳴らしでこれほどの広範囲から霊を退かしてしまうなんて」
「簡易結界になっているぞ」
「きれい……」

 最後の言葉が一番嬉しかった。
 振り返ると、空を見上げながら瞳をキラキラさせているすぐるが見える。
 ……あ……そういえば、『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の御愚間おぐますぐるのストーリーは、商売人として実家の家業を手伝う傍ら、本家筋の寺院などで霊能力者としての能力を開花させるべく修行に努めていた。
 彼は――ゲーム内の御愚間おぐますぐるは攻略対象の中では一番霊力が低い、一般人寄りの能力しかなく、なおかつ修行しても能力が伸びないことに苦悩していた人物。
 霊能力の才能がなくて、実家の商売に必死について行こうとテンション爆上げで頑張って……だから、私生活では寡黙でローテンション。
 彼はずっと霊能力者として最前線で戦う人たちに憧れを抱いており、結界の外に一人で、能力者として挑みたいと願っていた。
 それが彼の夢で、目標だったのだ。
 それはなぜなのか。
 彼の家の宗家、御愚間おぐま神社の当主が悪霊に襲われたすぐるを助けてくれた。
 だが、その当主は結界の外に出て――帰ってこない。
 死んだわけではないらしい。
 結界の外の拠点を確立させるべく、村を作って結界の外の人々を呼び寄せ、結界の中と同じような生活になるように支援を続けているとか。
 さらにその当主を尊敬したすぐるは、霊能力者になって当主の手伝いをしたいと考えている。
 そのために、最前線を一人で渡り歩けるほど強くなりたいと望んで修行を続けていたのだと。
 しかし、どうしてもすぐるには能力者の才能がなかった。
 夢のために悩み苦しむすぐるを隣で支える主人公は、逆に霊能力者としての才能を瞬く間に開花させていく。
 そんなの、普通の人間の精神なら耐えられない。
 そこがすぐるストーリーの分岐点。
 主人公がすぐるに対してどのように向き合うのかが、すぐるが祟り神になるかならないか、友人、恩人から恋人になるかどうかの分かれ目。
 主人公がすぐるに向き合い続け、自分の力を伸ばし続けるのが正解。
 卑屈になっていくすぐるに、主人公は喝を入れて共に成長していくことを選択する。
 そうすることですぐる自身も成長していき、ハッピーエンドルートはすぐる自身の霊能力の開花。
 そう、努力する主人公の叱咤激励を受け入れられるほどに絆を深めたすぐるは、主人公とともにより努力を重ねてついに霊能力者になるのだ。
 最後は二人で手を取り合いながら、結界の外へと踏み出す――。
 すぐるの苦悩を間近で見続けてきたからこそ、感動的な終わり方だった。
 なにより家族につき合ったハイテンション営業から解放されて、夢が叶ったことですぐるの本当に、正真正銘本来の穏やかな性格が現れててマジでよかったぁぁあああぁ!
 …………じゃ、なくて。

「いいな……」

 ポツリ、と誰にも聞こえなさそうな声で呟かれるすぐるの本音。
 ぐっ、胸に突き刺さる。
 このあと十二年は開花しないすぐるの霊能力。
 私や十夜と同じ修行をしたら少しは開花し易くなるのだろうか?
 いや、でも私の修行はすでにある霊力を高め、操作精度を上げ、感覚としての制御の修行が中心だからな~。
 すぐるの場合は『霊力開花』の修行。
 能力がない者が、霊能力を開花させるのは、別の修行が必要なんだもんね。

「いや! 実に素晴らしい! 素晴らしい!」

 ビクゥッと体が跳ね上がる。
 突然の拍手にびっくりした。
 いや、まあね、拍手って簡単な簡易結界。
 御愚間おぐま家全員で拍手されて、私自身もハッとする。

「え、あ! お、お鈴、お返しします……!」
「はい! 素晴らしかったです! 想像以上でございました!」
「本当に素晴らしいですわ、真宵お嬢様! 100%割合の霊石お鈴を使って砕かないこともさることながら、このお鈴を使って倒れないなんて……!」

 ドウイウコトナノ。
 え、倒れ……!?
 普通倒れるものなの!?

「た、倒れ……?」
「ああ、申し訳ありません。霊石100%のお鈴は使い手の霊力を絞り出してしまうことがあるのです。ちゃんと霊力を使いこなし、なおかつお鈴に霊力を吸われきらないほど豊富な霊力量があれば問題はないのですよ」
「我々の思った通り! 真宵お嬢様は素晴らしい霊力量です! お鈴も霊力を吸い上げきると壊れてしまうのですがヒビ一つない! 素晴らしい! 実に! さすがは千頭山せんずやま家のご令嬢!」
「は……」

 はあああああ……!?
 た、試したってこと!?
 こ、この人ら……商人のくせにどういうつもり――いや、まさか……私にお鈴を試させて、壊れたら弁償させるつもりだったとかじゃないでしょうね!?
 いくら子どものしたこととはいえ、50:50割合で十五万でしょ?
 100%割合とか三桁万円超えなんじゃないの?
 だとしたら悪質なんだけど……。

「こ……壊してしまわなくてよかったです……」

 とりあえず六歳児らしくわからないふりをしてお鈴を木箱の中に返す。
 ちゃんとお鈴が木箱の中に収まったのを確認してから、ひっそりと胸を撫で下ろした。
 その時、すぐるの浮かない表情が目に入る。
 ああ、これはやっぱり“いつものこと”なのか。

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