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鬼ババア、動く
しおりを挟むまあ、どちらにしても夏祭りは霊能力者にとって広範囲を、あまり労力をかけず、尚且つ普段は守られる立場でしかない霊能力のない一般人が主役で浄化を行うという最高のイベント。
最高の……楽して広範囲浄化イベント!
日本の夏祭りは結界の中、各地で行われる。
しかも、普通に楽しい。
夏祭りなんて子どもの時以来。
今もある意味子どもだけれど。
「お嬢様ー!」
「今度はなにー?」
お夕飯を終わらせて、粦が食器を下げに行っている最中廊下の固定電話が鳴り響く。
お皿を食洗機に入れた粦が固定電話を取り、なにやら話したあとのコレ。
絶対鬼ババアがなにか言ってきたでしょ。
「お、奥様がお嬢様に仕事をするようにと言い出されたそうです!」
「仕事?」
「は、はい! 本家に依頼されている仕事を回すから、修行も兼ねてこなすように、と。それに伴い、一つの仕事につき1000円、生活費を払うと!」
「せ、1000円!?」
馬鹿にしてる?
仕事と言いつつ子どものお小遣いじゃない!?
小学一年生へのお小遣いにしては多いと思うけれど。
とはえい、収入があるのは助かる。
自分でもVtuberで名前を売って仕事を……と思っていたから。
……いや、待てよ……?
それなら別にVtuberになってからでもよくない?
どう考えても鬼ババアの『報酬1000円』は中抜きしまくり。
しかもどんな内容の仕事を振ってくるのかわからないし、たとえば橋の悪霊より強力な悪魔相手の仕事で報酬1000円はケチどころの話じゃない。
こっちの命がかかっているのに一律報酬1000円って言う、絶対。
とはいえ断るわけにもいかない。
そして失敗すれば――『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の公式悪役令嬢ルート……!
攻略対象たちとは疎遠になり、呪いを入れる壺代わりにされてヒロインに救済を求めてそれが叶えられずに妬み嫉みを向け、嫌がらせやストーカー化して最後は祟り神……。
その間誰にも苦しみを理解されず、攻略対象たちにはヒロインへの態度で責められ、さらに心を病む。
しんどい! 絶対いやだ!
……そうだよね、誰かに守られて楽しそうに修行するヒロインを見たら、真宵だって妬み嫉みを向けるよね。
ストーリーには多少変化は出そうだけれど、もしもゲームの中の真宵が真智や十夜たちと幼馴染だったなら彼らが特別視する女の子に嫉妬もするだろうよ。
私はこんなにつらいのに、顔見知りの幼馴染たちに大事にされるぽっと出の女の子。
そんなの許せないよね。
幼馴染たちは助けてくれない。
もうそんな関係ではないとはいえ、真宵にとっての薄くとも確実な繋がり――救いの糸は幼馴染の攻略対象たちだけ。
彼らに見捨てられたばかりか、ヒロインに対する態度でさらに嫌われる。
ヒロインと仲良くなろうとしても、多分、幼馴染たちを奪われた悲しみや妬みから態度はよくない。
歪んだあの家に囚われて、人との距離感も接し方もわからないままヒロインへの助けを求めるやり方も間違えて決定的に拒絶される。
そうか、悪役令嬢千頭山真宵とは、そんな運命。
このままだとその運命に巻き込まれる。
でも、断るのは無理だし……あ、そうだ!
「いいことを考えたわ。わかった、お仕事を受けるとお返事して」
「ええ? で、ですが」
「大丈夫! 全部日和さんに丸投げにすればいいのよ!」
「は、は……!?」
「もちろん、秋月に相談してからね。でも、多分あの鬼ババアは今の私の手に負えないよな依頼を押しつけてくるはずよ。そうなれば私はきっと死んでしまう」
「っ……」
粦も同じことを思っていたのか、切迫詰まったような表情をする。
だから私は私の生存を最優先せることにした。
元々考えてもいたのだ。
小学一年生の女児がこの環境で生きるためには、手段を選んでいられない。
多少の法律上のあれそれは未成年ってことでスルーして、あの鬼ババアから我が身と粦を守るために私は使える手はなんでも使うわよ。
「でも、お嬢様……日和様はお嬢様との結婚をお望みでしたよ?」
「そ…………………………それなのよねぇ……」
たっぷり三十秒以上、色々言いたい言葉を飲み込んだ結果素直に認めることにした。
日和に仕事を手伝ってもらう点、最大の問題はその可能性が跳ね上がるっつーかなんつーか。
まあ、その辺りはちゃんと日和と相談しよう。
私だって日和が超絶嫌いなアンチってわけじゃないもの。
それに名士のお嬢様って、なんかこう、政略結婚的なものが一般的。
安倍家や大離神家ぐらいだろうか、自身の恋愛感情を最優先にするのは。
あの二つの家はそういう血筋なんだって。
そしてその血筋の日和が、果たして私を諦めてくれるのだろうか?
諦めてくれるだろう。
だって、大離神日和は乙女ゲームの攻略対象なんだもの。
今は私に傾倒しているかもしれないけれど、いずれ運命の女性に出会う。
そうしたら、子どもの時にありがちな恋に恋している状態だったに過ぎないと気づくだろう。
なんて、まあ、色々言っているけれど――シンプルに精神的な年齢差でとてもじゃないが恋愛対象としては見れない!
あと、推しと恋は別腹!
まあ、日和は推しですらないわけだけれど。
いや、攻略対象としては好きよ?
強くて頼り甲斐のあるイケメンだもん。
私の推しが、成長した真智の声ってだけ!
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