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まだまだ子どもで知らない世界のこと
しおりを挟むそうか、そうだよね。
私たちが今食べているものも誰かが一緒懸命に育てたものだものね。
庭で家庭菜園をしている家ばかりだし、我が家で食べるものも肉より魚と野菜中心。
うちは名士だから、ご飯は毎日三食食べられているけれど――。
「美味しいねー」
「お肉なんて半年ぶり」
「魚肉ソーセージも美味しいけれどね」
「ねぇねぇ、お母さん! 焼き鳥買って!」
「ええ、たくさん買って冷凍しておきましょ」
親子連れの話が耳に入る。
牛肉も鶏肉も、滅多に手に入らないものらしい。
鶏は家庭で飼っているところも多いらしいが、狐やイタチに食べられがち。
金網で覆っても穴を開けてしまうらしい。
食糧問題……私はいいところのお嬢様だから、一応毎日食べられていたけれど、庶民はそうでもないのか。
ゲームの中の真宵は鬼ババアの嫌がらせで一日一食って感じだったから、ただ虐げられていたと思っていたいたけれど……もしかして家の資産状況が悪化して、ゲームの中の私に割く食糧が少なかったんじゃないだろうか。
「食糧問題って深刻なの?」
「それなりに深刻です。国を守る要である『六芒星』の家や公的機関、公務員が優先されて確保されますが国産の家畜はなかなか増えないんですよ。土地が確保できていないので」
「結界の外の土地が戻れば牧場も作れるだろうけれどな~。俺牛肉大好き。やはり力づくで土地を浄化していこうかな」
「待て待て待て、ダメですよ。土地の管理を誰がすると思っているんですか。それでなくとも結界の外に移住したがる人間は少ないのに、土地ばかり増やしても管理がしきれないでしょう」
「そこをなんとかするのが管理機関だろ」
「そもそも人員が足りないんですよ。国外から募ったって来ませんし」
そりゃあ来ないだろう。
食糧は足りない。世界を飲み込む祟りの発生源。言葉も通じない。
行かされる先は浄化されたての不安定な土地。
その土地の浄化された状態を維持し、怨霊悪霊悪魔、祟りに怯えながら結界の外で結界が広がって来るまで農業や酪農をしてまで何年も生活したい人はいないだろう。
お金が出るわけでもないだろうし、避難所という意味でも元凶に近づきたいとは思わない。
海外の人なら尚更そう思うだろうなぁ。
海外の方は海外の方で『六芒星』の家の優秀な人が派遣されるそうだが、海外の人は感情的な人が多いので日本国内よりも浄化が遅々として進まない。
男尊女卑の思想が強い地域は、反転巫女の怨みと波長が合う女性が多かったため千年かかっても浄化に手をつけることができないだろうと言われている。
そのぐらい、根が深い。
だから海外の一部では、女尊男卑の思想を掲げた新興宗教が支持を集めているんだって。
そんなことしても新しい呪いが生まれるだけ。
人々がお互いを尊重する、という思想を広げるのならまだしも女尊男卑では意味がない。
でも、現状がつらすぎてそういう思想になってしまうのも仕方ないのかもしれないな。
まあ、日和に言わせると「千年後は千年後に俺の生まれ変わりが頑張るんじゃない?」とのこと。
千年前に安倍晴明がいた。
そして現代は自分。
千年後は千年後に安倍晴明と自分の生まれ変わり。
……とんでもねえ自信家だなぁ。
あながち間違っていないのがまたすごいけれども。
「どちらにしても反転巫女の祟りは凄まじい。そんなに浄化に行きたいのだったら、海外にでも行けばいいんですよ」
「まあいずれはね、って思うけどねー。無理無理。海外は正真正銘の“禁足地”。地獄になっている。この世じゃなくてあの世。人間が生きたまま入れる場所じゃないの。本気で俺一人が海外の浄化に行くなら即身仏にならなきと」
即身仏。
生きたまま仏になる……というか、まあ、要するにミイラのことだ。
私の知るミイラはピラミッドの中のああいう感じのだけれど、即身仏は生前から――生きながらゆっくりと死を意識して準備していくもの。
授業では習わなかったが、秋月が千頭山家の男の当主の中には即身仏として世界の平和と浄化、そして反転巫女の恨みの心を慰める祈りを捧げてある種の人身御供として都の中心に建設されている天月神社に身を捧げる。
千頭山家、と言われて驚いたが、『六芒星』の六家で順位が一位なのはなにも嫁大好き安倍家と大離神家の贔屓が大きいわけではない。
サポートを中心としているから、というのももちろん大きい。
けれど、やはりその順位に貢献しているのは亡くなっている百体あまりの即身仏。
今まで捧げられてきた千頭山家から出た即身仏は九十を超える。
ただ、あまり大っぴらに称賛できる事情とは言い難い。
特に我々のような“子ども”には。
秋月は私の中身がおとなだからと教えてくれたけれど、自分の家から即身仏という“自殺者”を推奨して出していた事実は……確かに子どもに教えることじゃない。
そもそも即身仏がそれほどの人数に上った理由は、家の順位を上げるため。
もちろんそれは表向き『国のため、世界平和のため』である。
しかし圧力はあった。
家の女が安倍家や大離神家に望まれて貰われていくことで、千頭山家の“男”の価値が下がっていったためだ。
千頭山家の初代と呼ばれる、秋月を鬼の身のまま家に取り込んだのも女性だったこともある。
男たちは自分たちの家での立場を守るため、その命を差し出すことを競った。
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