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日和と千頭山家の当主(1)
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(いるな)
大離神日和は従者を三人連れて、千頭山家に訪れていた。
昨日の時点で連絡はしていたので、あるいは“他の証拠”をすでに処分している可能性はある。
しかし、そんなことはどうでもいい。
親類縁者から『千頭山家に関わるのは……』と濁されたが、自分の世界観をひっくり返してくれたあの少女のためにもここで今の千頭山家がどんなものなのかをしっかりと見定めておきたい。
千頭山家の状況によって、彼女を妻に娶る作戦を変えていく。
(――座敷童子か。しかし……ずいぶん力を失っているな)
使用人に出迎えられて、屋敷に足を踏み入れた途端視線を感じる。
その視線を追うと屋敷のあらゆる場所に“目”がついていた。
じっと見つめて探ってみたところ、その正体は座敷童子。
しかし幼い子どもの姿ではなくおとなの男の姿だ。
力を失っている証。
ボディガードたちもその弱った座敷童子に少し困惑している。
「こちらでございます。奥様、大離神家、日和様がいらっしゃいました」
「どうぞ、お入りください」
「お邪魔いたします」
頭を下げて、使用人の開けた襖から部屋に入る。
中で待ち構えていたのは初老の女性。
穏やかそうな見た目の、春色の着物。
今は夏なのだが……とやや困惑する。
しかし一目で中に蠢くものを感じた。
噂には聞いていたが、やはり千頭山家の当主、菊子は悪魔に取り憑かれている。
目を細めつつ、彼女の前へと膝を折り、頭を下げた。
「急な訪問を受けてくださり、ありがとうございます。菊子様。大離神日和と申します」
「ええ、ええ。よくぞいらしてくださいました。煩わしいのは嫌いなので、用件を聞きしてもいいかしら?」
相当にイライラしている。
穏やかそうな見た目と、暖かな春色の着物からは想像もつかないほどに空気が冷たい。
なにより目が笑っていない。
色々なおとなを見てきたが、この手のタイプは自分の利益を追求する。
他者の意見は聞き入れず、身勝手で他責思考。
悪魔に取り憑かれているから――だけが理由ではなさそうだ。
(安倍の家の理人さんが千頭山家のお嬢さんを妻に迎えたと自慢していたが、それとセットで千頭山家の当主、菊子さんの話は聞いていた。子どもに話すことではないけれど、と言いながら)
嫁自慢をしたくなるのだ、安倍家と大離神家の男は。
酒の席だとなおさら、嫁自慢が酒の肴。
日和は酒こそ飲めないが、お酌を任されると嫁自慢大会に強制参加させられる。
これは安倍家と大離神の伝統のようなもの。
そうして幼い頃から嫁と婿を大切にするよう、愛するようと教わる。
円満な家庭、愛に満ちた家庭に憧れるようなるのだ。
例に漏れず日和も幼い頃から親戚の酒の席でそんな話を聞いて、お嫁さんになってくれる人を愛し、大切にしようと胸に決めていた。
そしてそれは、人の心を教えてくれた真宵が相応しい。
いずれ千頭山家の当主にその話を、と思っているが、少なくともそれはこの菊子という当主の時ではないだろう。
この女はまず間違いなく、姉の言う通り真宵を利用して大離神家に無理難題を突きつける。
「では、単刀直入に。先日夏祭りで子どもが誘拐されかけ、その犯人が千頭山家に雇われたと自白しています。これについて、警察に突き出す前に千頭山家の見解をお聞きしたい。返答によっては『六芒星会議』の開催を行うと、父と叔父が申しております。いかがですか? 菊子様。なにか――申開きなどは」
「まあまあ。……なにか証拠でもあるのかい?」
声質が変わった。
悪魔が表面化してきたのか、と警戒したが、そういうわけではないらしい。
『六芒星』の家の頂点を統べる女主人としての顔。
子どもに向けていいものではない。
だが、日和には通用しない。
この場で中に潜む悪魔を引き摺り出し、昇天させてやろうかと思っていたが菊子に取り憑いている悪魔は――怯えている。
日和にではない。
なにか、別のものに怯えて奥深くに戻り、決して姿を現さない。
他者へ攻撃的で、生きているモノを喰らい糧にするのが悪魔のはず。
千頭山菊子の中にいるモノは、悪魔でありながら通常の悪魔とはかなり質が異なる。
(これは――俺には無理だな。悪魔祓い師に任せた方がいい)
日和でさえそう思うような悪魔が、菊子の中にはいる。
なんとかしようとすればなんとかなるかもしれないが、どんな影響があるかわからない。
そういうことは父親に口を酸っぱくされて言い含められたのだから。
「証拠はありますよ。犯人は今、大離神家の地下牢で尋問が続いていますので。ごらんになりますか?」
日和が手を挙げると、後ろに控えていたボディーガードがタブレットを取り出して、画面を菊子に見せる。
それを見下ろす菊子の眼差しの冷たさ。
深く深く、そして長く息を吐き出してから
「我が家の教育方針はスパルタ。不審者に対する対処方法を自分自身で学び、対処できるかどうかを見る“教育”です」
「それが千頭山家の見解ということで、よろしいですか?」
「ええ」
大離神日和は従者を三人連れて、千頭山家に訪れていた。
昨日の時点で連絡はしていたので、あるいは“他の証拠”をすでに処分している可能性はある。
しかし、そんなことはどうでもいい。
親類縁者から『千頭山家に関わるのは……』と濁されたが、自分の世界観をひっくり返してくれたあの少女のためにもここで今の千頭山家がどんなものなのかをしっかりと見定めておきたい。
千頭山家の状況によって、彼女を妻に娶る作戦を変えていく。
(――座敷童子か。しかし……ずいぶん力を失っているな)
使用人に出迎えられて、屋敷に足を踏み入れた途端視線を感じる。
その視線を追うと屋敷のあらゆる場所に“目”がついていた。
じっと見つめて探ってみたところ、その正体は座敷童子。
しかし幼い子どもの姿ではなくおとなの男の姿だ。
力を失っている証。
ボディガードたちもその弱った座敷童子に少し困惑している。
「こちらでございます。奥様、大離神家、日和様がいらっしゃいました」
「どうぞ、お入りください」
「お邪魔いたします」
頭を下げて、使用人の開けた襖から部屋に入る。
中で待ち構えていたのは初老の女性。
穏やかそうな見た目の、春色の着物。
今は夏なのだが……とやや困惑する。
しかし一目で中に蠢くものを感じた。
噂には聞いていたが、やはり千頭山家の当主、菊子は悪魔に取り憑かれている。
目を細めつつ、彼女の前へと膝を折り、頭を下げた。
「急な訪問を受けてくださり、ありがとうございます。菊子様。大離神日和と申します」
「ええ、ええ。よくぞいらしてくださいました。煩わしいのは嫌いなので、用件を聞きしてもいいかしら?」
相当にイライラしている。
穏やかそうな見た目と、暖かな春色の着物からは想像もつかないほどに空気が冷たい。
なにより目が笑っていない。
色々なおとなを見てきたが、この手のタイプは自分の利益を追求する。
他者の意見は聞き入れず、身勝手で他責思考。
悪魔に取り憑かれているから――だけが理由ではなさそうだ。
(安倍の家の理人さんが千頭山家のお嬢さんを妻に迎えたと自慢していたが、それとセットで千頭山家の当主、菊子さんの話は聞いていた。子どもに話すことではないけれど、と言いながら)
嫁自慢をしたくなるのだ、安倍家と大離神家の男は。
酒の席だとなおさら、嫁自慢が酒の肴。
日和は酒こそ飲めないが、お酌を任されると嫁自慢大会に強制参加させられる。
これは安倍家と大離神の伝統のようなもの。
そうして幼い頃から嫁と婿を大切にするよう、愛するようと教わる。
円満な家庭、愛に満ちた家庭に憧れるようなるのだ。
例に漏れず日和も幼い頃から親戚の酒の席でそんな話を聞いて、お嫁さんになってくれる人を愛し、大切にしようと胸に決めていた。
そしてそれは、人の心を教えてくれた真宵が相応しい。
いずれ千頭山家の当主にその話を、と思っているが、少なくともそれはこの菊子という当主の時ではないだろう。
この女はまず間違いなく、姉の言う通り真宵を利用して大離神家に無理難題を突きつける。
「では、単刀直入に。先日夏祭りで子どもが誘拐されかけ、その犯人が千頭山家に雇われたと自白しています。これについて、警察に突き出す前に千頭山家の見解をお聞きしたい。返答によっては『六芒星会議』の開催を行うと、父と叔父が申しております。いかがですか? 菊子様。なにか――申開きなどは」
「まあまあ。……なにか証拠でもあるのかい?」
声質が変わった。
悪魔が表面化してきたのか、と警戒したが、そういうわけではないらしい。
『六芒星』の家の頂点を統べる女主人としての顔。
子どもに向けていいものではない。
だが、日和には通用しない。
この場で中に潜む悪魔を引き摺り出し、昇天させてやろうかと思っていたが菊子に取り憑いている悪魔は――怯えている。
日和にではない。
なにか、別のものに怯えて奥深くに戻り、決して姿を現さない。
他者へ攻撃的で、生きているモノを喰らい糧にするのが悪魔のはず。
千頭山菊子の中にいるモノは、悪魔でありながら通常の悪魔とはかなり質が異なる。
(これは――俺には無理だな。悪魔祓い師に任せた方がいい)
日和でさえそう思うような悪魔が、菊子の中にはいる。
なんとかしようとすればなんとかなるかもしれないが、どんな影響があるかわからない。
そういうことは父親に口を酸っぱくされて言い含められたのだから。
「証拠はありますよ。犯人は今、大離神家の地下牢で尋問が続いていますので。ごらんになりますか?」
日和が手を挙げると、後ろに控えていたボディーガードがタブレットを取り出して、画面を菊子に見せる。
それを見下ろす菊子の眼差しの冷たさ。
深く深く、そして長く息を吐き出してから
「我が家の教育方針はスパルタ。不審者に対する対処方法を自分自身で学び、対処できるかどうかを見る“教育”です」
「それが千頭山家の見解ということで、よろしいですか?」
「ええ」
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