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最後まで波乱の初旅行
しおりを挟む「ああああ~、疲れたぁぁぁあ」
「そうですね。お茶をお入れしますので、茶の間でお待ちください」
「粦も荷物の整理の前にいったん休みましょうね」
「はい。わかりました」
ふふ、と笑われる。
なんも面白いこと言ってないよぉ?
……それにしても、最後の最後にとんでもない出来事があった旅だったなあ。
今思い出しても怖くて体が震える。
それというのも、帰りの電車の中で私よりも幼い女の子が迷子になっていたのだ。
変な黒い影につきまとわれているように見えて、さすがに放っておけなかった。
でも、霊が見えない私が黒い影が見えるなんてなにか相当ヤバいんじゃないかと十夜母に教えたら、十夜母も眉を顰めてその幼女に近づいて声をかけてくれる。
そして声をかけた結果、その幼女の鞄には名前と手紙が入っていた。
『名前、みちる。4さい』
『この子を見つけた親切な方は、どうぞこの子を育ててください。よろしくお願いします』
と。
そりゃあもう十夜母は仰天した。
長距離の快速電車に子どもを乗せて放置された――捨て子。
全員パニックになるには十分すぎる。
仕方なく、歳が近い私の隣に座らせ、お腹を鳴らすみちるちゃんに駅弁とお茶を食べさせた。
その間に十夜母は電車内の公衆電話で本家と宗家に連絡を取り、幼女のことを報告。
真智叔父が電車の車掌さんにも連絡して、次の駅に警察を待機させるよう頼んでいた。
車掌さんが「はあ、またか」と呟いていたのが衝撃的すぎて、ゾッとしたのだ。
だって『またか』なんて言葉が出るほど、電車の中って子どもが放置されて……捨てられているなんて。
思わず聞いてしまった。
「捨てられた子ども、多いんですか?」
「ああ。なんらかの理由で育てられないと、『六芒星』関係者がよく乗っている長距離快速電車に子どもを放置していく親がよくいるよ。『六芒星』の家はお金持ちが多いし、孤児を引き取って仏神学校に通わせて育ててくれるってね。そういう意味じゃないんだろうにね」
「ッ……」
「なにより、こんなことしたって引き取る手続きのために結局は警察と連携して親の居場所は探されるのにねぇ。鉄道会社としても困っているんだ。たまに産まれたばかりの赤ちゃんまで捨てられていることがあるから冗談じゃないよ」
と言っていた。
マジで頭がおかしいやついすぎじゃない?
将来捨てられたことを知ったら、その子に“恨まれる”んじゃないの?
法で裁かれたところで、その子どもが親を恨めば、親は妖怪になっちゃうよ?
そこまで考えていないのか、知らないのか。
それとも『六芒星』の家に引き取られれば、親を恨まない子になっとでも思っているのか。
対策はしているそうだが、今後もっと厳しくなるだろうと。
気持ちが沈む。
私はいい。
私は、中身が成人女性の前世の記憶があるから。
でも、今一生懸命何日ぶりのご飯なのかわからないくらい必死に駅弁を食べているみちるちゃんを見ていると……。
「お腹いっぱいになった?」
「うん!」
「よかったね」
ベージュに近い淡いピンクの髪。
同じく淡い茶色の瞳。
可愛らしい笑顔。
――『みちる』。
もしかして、この子……。
「宗家の方と連絡がついたわ。小春日家の方で一時的に保護してくれることになったわ」
「ああ、善岩寺家の宗家の……」
「ええ。宗家の親戚。でも、霊力がない一般人の家庭。あの子、見た感じ霊力はなさそう。多分、まとわりついているのは親の不倫相手の念ね。子どもがいるから、自分が再婚できないと思っているみたい。もしかしたらあの子を電車に乗せたのは不倫相手かもしれないわ」
「なるほど。あんな幼い子になぜあれほどの“悪意”が……と思いましたが……そういう可能性があるんですね」
そんな話が耳に入ってきて、さっきとは別の吐き気がした。
クソなおとなが多すぎない?
でも、もしもそうなら親はみちるちゃんを探しているかもしれない。
ただそんな状況なら親が引き取ってもまともな育児ができるのか、甚だ疑問なのだが?
――小春日。
その家に、もしもみちるちゃんが引き取られることになったら……。
小春日みちる。
『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の主人公の完成だ。
この子がそうなんだろうか?
主人公小春日みちるはドのつく一般家庭の一般人。
呪い屋が呪いをかけるところを見たことで様々な事件に巻き込まれる――というのが、彼女のあらすじ。
どうなるのだろうか。
もしもこの幼女がヒロインなのだとしたら……私が思っていたよりもエグい。
ゲームで見たヒロインの明るい性格。
トラブルに巻き込まれやすいが、霊能力者としては破格の体質。
つていうか、善岩寺と関わりのある家なのならばなおのこと実家を頼ればいいのにゲーム内だと攻略対象が面倒を見る流れになるのなんなの……。
いや、そこはゲームだから、まあ、それを言ったらなんだけども。
とか考えつつ、次の駅でみちるちゃんが駅員さんと手を繋いで待っていた警察官と駅の中に入っていくのを見送る。
ここでいったんお別れ。
でも、あの子があのまま『小春日みちる』になるのだとしたら、いずれまた会うことになるのだろうか。
そう思ったら、電車の中で鳥肌が止まらなくなってしまった。
家に帰ってきても、まだ治らない。
この世界が、確実に、『宵闇の光はラピスラズリの導きで』というゲームの展開に近づいている。
ヒロインまで現れた。
ささやかな繋がりでも、それは確かに――私と攻略対象たちの破滅と紐づいている。
攻略対象たちは、ヒロインの努力次第でハッピーエンドにもなりえるけれど……千頭山真宵はそうじゃないから……。
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