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六芒星会議(1)
しおりを挟むその日、千頭山家の当主が姿を現したのは約八年ぶり。
当主の夫が別の女と作った家庭が『千頭山家の分家』として活動を行い、千頭山家の立場を守ってきた。
しかし、千頭山家に嫁いだ女性が産んだ娘、千頭山真宵が不審者に誘拐された事件がきっかけで話が大きくなってしまったのだ。
仕方がない。
元々千頭山家の当主が表舞台に出なくなってかなり不信感が高まっていた。
そこにきての、これである。
しっかりと説明責任を果たしてもらいたい、と千頭山家以外の家々から蓮名で申し込みをしたのだ。
それに対応しないのであれば、実務を行なっている千頭山道の家を“本家”として、千頭山菊子の家は“宗家”に“格上げ”してはどうか、と。
これは事実上、実権を菊子から道に移してはどうか、という『六芒星』の家々からの“命令”に近い。
『六芒星』の家々は序列が設けられているが、まともに実務を行わない家がいつまでも頂点に居座っていられるわけがない。
そもそも千頭山家が一位である理由は、安倍家や大離神家などの実力と実績のある家が“千頭山家を一位と認めているから”だ。
その安倍家や大離神家が『千頭山家を一位として置けない』と言い出したのだから、千頭山家も無視できない。
今までなら分家の方に丸投げしていた菊子が、今回ばかりはそうはいかない。
なぜなら、安倍家と大離神家から菊子が名指しできているのだから。
都内某所のビルの二十階にある一室へ、使用人を引き連れてやってきた菊子は、フロアの半分はある会議室に入室するやいなや、すでに来ていた各家の代表たちが一斉に視線を向ける。
「どうも」
「お久しぶりです」
菊子が微笑むと、扉が閉まり大離神家の当主、日和の父が笑顔で返す。
当然のように『お久しぶり』という言葉に込められた嫌味。
果たして通用するのか、と見守られていたが鼻で笑われる。
「あら、随分と堂々と座っているのね」
「っ……」
当然のように上座の方に座る道と、その息子である千頭山累も睨みつける菊子。
咄嗟に言い返そうとした累を制して道が「すまんな。普段君が来ないから」と言って席をずれる。
政府の人間が議長席に座し、その手前に菊子が堂々と座った。
八年も顔を出さなかったくせに、と思う者は多いが、その菊子をようやっと、この場に引き摺り出すことができたのだ。
ひとまず、誰もなにも言わずに菊子が着席して落ち着くのを待つ。
荷物を置いて、一息ついて、全員を見回す。
「始めていただいてよろしくてよ」
「こほん。では……」
議長を務める政府派遣の役人が軽く咳払いをして始める。
今回の議題は菊子の犯罪示唆。
誘拐事件を依頼して、実行させた疑惑。
『六芒星』は政府の庇護下で運営されており、当然、犯罪者などは露見した場合一般人よりも厳しく裁かれる。
世界的な危機を管理する機関である『六芒星結界』を担う家の者から“妖怪”を生み出すわけにはいかないのだ。
世界を守る『六芒星結界』の構造を知る者だかるこそ、結界を危険に晒す可能性は限りなく排除する。
家の中で起こったことは、被害者が警察に訴えても証拠がなければ取り締まれない。
だが今回は、大離神家が実行犯を確保している。
決定的に、やらかした。
「今回、大離神家が夏祭りの日に捕獲した誘拐犯。狙われたのは、千頭山家のお嬢様であったとか。その被害届は出されておりませんが、犯人は菊子様が依頼してきたと自白しております。大離神家の日和様が、菊子様がそのことをお認めになられているともお伺いしておりますが――いかがでしょうか?」
「はあ……些末なことをいつまでも……。わざわざ『六芒星会議』の開催に名指しで呼び出すようことですか。それに関して、わたくし、大離神家のお坊ちゃんにしっかりご説明しておりましてよ? 聞いておられませんの?」
心底面倒くさそうに溜息を吐き捨てる菊子に、各家の代表が神妙な面持ちとなる。
日和からの報告は当然上がってきているが、到底納得ができるものではない。
全員が目を通した上で、菊子の言い分が一般的な常識の範囲外であると判断したからこその、今回の召喚。
そのことを理解していない。
「菊子様、もちろん、我々は報告を受けております。その上であなたの行いは犯罪であると申し上げているのです。たとえ“躾”と申されても、世間では許されない。あなたの行なったことは、犯罪なのですよ」
菊子に、ゆっくり、噛み砕くように、役人が繰り返して言い聞かせる。
それに菊子がぎろりと睨みつけるが、役人は首を横に振るのみ。
「菊子様はそのようなことを容認される方ではないと思っておりましたよ。残念です」
「それとも、菊子様自身そのことを理解した上で――我々に助けを求められているのですか?」
溜息を吐く役人に続き安倍の当主、理人が切り込んだ。
部屋の空気が張り詰める。
ぎろりと強い眼光で睨みつける菊子。
「どういう意味かしら?」
「この八年、表舞台に出てこられなかったのはご自覚があったからなのでしょう? 今も、ずいぶん怯えておられるようで」
「はあ?」
菊子の表情が変わる。
憎悪と敵意に満ちた表情に、その場の全員が手を合わせた。
「っ! やめろ! わたくしは――」
「あなたの名前を教えてください。あなたの名前はなんですか?」
「はっ……!」
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