ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい

古森きり

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悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい

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 頭が上手く働いていない。
 えっと、言うことは言ったはず。
 次、なにするんだっけ?
 ――あ、時間……!
 パソコンの右下にあるデジタル時計を確認すると、七時四十九分。
 ほ、ほげ……!? あと十分……!?
 あと十分でなにをすれば……そ、そうだ!

「それじゃあ残り十分でファンマークや配信中のタグ紹介していきますね! SNSなどで活用してくれると嬉しいです!」

 という感じで、事前に考えていたファンマークやタグ一覧を並べたパネルをモニターに出す。
 これはこういう時に使ってねー、とか、ファンマークやタグは私が検索して『いいね』をしたりする時に使うので、私に知らせたいことや描いたファンアートなどを見せたい時に使ってねーとか。
 サムネイルに使っていいイラストはこのタグをつけてくれると、助かりまーす、とか。
 ちょっと憧れていたんだよね。
 それらの説明をしていたら、あっという間に十分経つ。
 この辺りが限界か。
 本当はイラストレーターの……一夜さんやBGMや壁紙を作ってくださったクリエイターさんの紹介とか、したかったのに……くっ! あの鬼ババア!

「それじゃあ、時間が来たので本日はここまで! このあとはぴょん子さんの歌みたが上がりますので、見に行ってみてくださいね! 私の歌みたは明日の八時に上がりますので! 詳しいスケジュールはSNSの方で告知します。チャンネル登録、SNSアカウントのフォロー、高評価よろしくお願いします! ではではー!」

 予定していた内容の半分以上が、できなかった。
 く、くそぅ、あの鬼ババアのせいだぁ。
 はっ! 気を抜いてはいけない。
 マイク、ミュートを確認!
 配信終了ボタン、押す! 配信終了!
 画面、終了!
 BGM、停止!
 ……ふう、これで初配信無事に終了、だね。
 よかった、なんとか乗り切った。
 チャンネルの登録者数の確認をしたい欲求もあるけれど、それよりも疲労感に負けて座布団の上に倒れ込む。

「り、りーーーん……りーーーん……」

 絞り出すようにりんの名前を呼ぶ。
 体がうまく動かない。
 目を閉じると、霊力ゲージがゼロに近い。
 ど、どんだけ霊力を消費されてるの?
 生き霊のお祓いは初めてやったけれど、おそらく鬼ババアの“生命エネルギー”が丸ごと弾丸みたいに突っ込んできたから、私自身の“生命エネルギー”イコール霊力を全力でぶつけ返したのだろう。
 隣の部屋からトントントン、と足音が聞こえてきて、襖が開く。

「お呼びですか? お嬢様。……え!? お嬢様!?」
「う……うう、ご、ごめん……な、なにか食べ物を……」
「す、すぐにお持ちします!」

 りんは隣の自分の部屋で勉強をしていた。
 りんも夏休みの宿題があったからね。
 おかげで呼べばすぐに来てくれた。
 霊力がギリギリの状態だから、ひとまずなにか食べないと。
 夕飯は配信前に食べたんだけれどね。

「真宵お嬢様、ドーナツがありましたよ!」
「い、いただきますー」

 お茶とドーナツを持ってきてくれて、私はフラフラ上半身を起こしておやつをいただく。
 あたたかなお茶を一口飲むと、口の中に広がった油と渇きと濃い甘みが喉に嚥下されてさっぱりとする。
 はあ、と大きく息を吐き出す。

「大丈夫ですか?」
「うん。完全にゼロになったわけではないの。お腹は減ったけれど」
「なにかお作りしますね」
「うん、お願い」

 部屋を出ていくりんに「ラーメンが食べたい」とリクエストをしてから、天井を見上げて残りのドーナツに手を伸ばす。
 まだ、点灯したままのノートパソコンを振り返ると、登録者数が百人に達していて目を丸くした。
 私、これで破滅エンドを回避できるかな?
 元凶の鬼ババアが施設に入れられ、生きている間は出てくることが叶わないと聞いているけれど……。
 あれ以来予知夢は見れない。
 どんなに手順を踏んでも、普通の夢。
 自分の未来は予知夢で見えないのかもしれないと気づいたのはつい最近。

「あ……」

 ノートパソコンのメールアドレスにピコン、ピコンと新しいメッセージが届いている。
 まだいまいち力が入らないが、マウスを動かしてメールを開くと真智と十夜、すぐる日和ひよりからメッセージ。
 お、おお、あいつらー。

「あ、一夜さんからもきている」

 お疲れ様ーとか、面白かった、すごかった、とかそういう内容。
 日和ひよりとの結婚話はスルーするとして、真智と十夜がVtuberという新しい文化に触れて喜んでくれているのが文章から伝わってくる。
 あの二人、文章書くのそもそも好きじゃないからね。
 そんな二人がこんな速度でメッセージをくれるということ自体がすごい。
 あの二人がテンション爆上がりしているなによりもの証拠。
 ……この二人の未来なら、予知夢で見られるかな?
 今夜試して――あ、いや、この霊力量では無理だわ。
 ちゃんと体調と霊力を回復してから出ないとダメだ。
 なんなら明日は結界の張り直しをしなきゃいけないから、霊力をどのくらい使うか……。

「はあ……夏休みが残っててよかった」

 でも、Vtuberを続けていたらきっと私の破滅エンドは回避できるはずだ。
 実際Vtuberを目指して修行していたからなんとかなったんだもの。

「よし! りんのラーメンを食べたら、動画の予約作業しよう。次の動画のことも考えなきゃ。橋の浄化に最近行ってないから、霊力が戻ったらやらないと……」

 考えると、ワクワクしている自分に気づく。
 私、Vtuberになったんだ。
 これからVtuberとして活動していくんだ。
 やることは山のようにあるし、覚えることもまだたくさんある。
 でも、きっとVtuber続けていけば私も、攻略対象たちも祟り神にはならない。
 それになにより私は祈祷師の家系、千頭山せんずやま家の人間。
 祈れば必ず願いは叶う。
 そう信じている。
 いつかVtuberの事務所とかも、作って――そして――この世界を、Vtuberという新しい文化で浄化に貢献するんだ。

 いぶこー『異世界文化交流校』に所属するのは、この十年後。
 私の願いは、きっとどこかに届くだろう。
 いや、届けてみせる。
そして、絶対に生き延びてみせる!





 終
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