132 / 132
悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい
しおりを挟む頭が上手く働いていない。
えっと、言うことは言ったはず。
次、なにするんだっけ?
――あ、時間……!
パソコンの右下にあるデジタル時計を確認すると、七時四十九分。
ほ、ほげ……!? あと十分……!?
あと十分でなにをすれば……そ、そうだ!
「それじゃあ残り十分でファンマークや配信中のタグ紹介していきますね! SNSなどで活用してくれると嬉しいです!」
という感じで、事前に考えていたファンマークやタグ一覧を並べたパネルをモニターに出す。
これはこういう時に使ってねー、とか、ファンマークやタグは私が検索して『いいね』をしたりする時に使うので、私に知らせたいことや描いたファンアートなどを見せたい時に使ってねーとか。
サムネイルに使っていいイラストはこのタグをつけてくれると、助かりまーす、とか。
ちょっと憧れていたんだよね。
それらの説明をしていたら、あっという間に十分経つ。
この辺りが限界か。
本当はイラストレーターの……一夜さんやBGMや壁紙を作ってくださったクリエイターさんの紹介とか、したかったのに……くっ! あの鬼ババア!
「それじゃあ、時間が来たので本日はここまで! このあとはぴょん子さんの歌みたが上がりますので、見に行ってみてくださいね! 私の歌みたは明日の八時に上がりますので! 詳しいスケジュールはSNSの方で告知します。チャンネル登録、SNSアカウントのフォロー、高評価よろしくお願いします! ではではー!」
予定していた内容の半分以上が、できなかった。
く、くそぅ、あの鬼ババアのせいだぁ。
はっ! 気を抜いてはいけない。
マイク、ミュートを確認!
配信終了ボタン、押す! 配信終了!
画面、終了!
BGM、停止!
……ふう、これで初配信無事に終了、だね。
よかった、なんとか乗り切った。
チャンネルの登録者数の確認をしたい欲求もあるけれど、それよりも疲労感に負けて座布団の上に倒れ込む。
「り、りーーーん……りーーーん……」
絞り出すように粦の名前を呼ぶ。
体がうまく動かない。
目を閉じると、霊力ゲージがゼロに近い。
ど、どんだけ霊力を消費されてるの?
生き霊のお祓いは初めてやったけれど、おそらく鬼ババアの“生命エネルギー”が丸ごと弾丸みたいに突っ込んできたから、私自身の“生命エネルギー”イコール霊力を全力でぶつけ返したのだろう。
隣の部屋からトントントン、と足音が聞こえてきて、襖が開く。
「お呼びですか? お嬢様。……え!? お嬢様!?」
「う……うう、ご、ごめん……な、なにか食べ物を……」
「す、すぐにお持ちします!」
粦は隣の自分の部屋で勉強をしていた。
粦も夏休みの宿題があったからね。
おかげで呼べばすぐに来てくれた。
霊力がギリギリの状態だから、ひとまずなにか食べないと。
夕飯は配信前に食べたんだけれどね。
「真宵お嬢様、ドーナツがありましたよ!」
「い、いただきますー」
お茶とドーナツを持ってきてくれて、私はフラフラ上半身を起こしておやつをいただく。
あたたかなお茶を一口飲むと、口の中に広がった油と渇きと濃い甘みが喉に嚥下されてさっぱりとする。
はあ、と大きく息を吐き出す。
「大丈夫ですか?」
「うん。完全にゼロになったわけではないの。お腹は減ったけれど」
「なにかお作りしますね」
「うん、お願い」
部屋を出ていく粦に「ラーメンが食べたい」とリクエストをしてから、天井を見上げて残りのドーナツに手を伸ばす。
まだ、点灯したままのノートパソコンを振り返ると、登録者数が百人に達していて目を丸くした。
私、これで破滅エンドを回避できるかな?
元凶の鬼ババアが施設に入れられ、生きている間は出てくることが叶わないと聞いているけれど……。
あれ以来予知夢は見れない。
どんなに手順を踏んでも、普通の夢。
自分の未来は予知夢で見えないのかもしれないと気づいたのはつい最近。
「あ……」
ノートパソコンのメールアドレスにピコン、ピコンと新しいメッセージが届いている。
まだいまいち力が入らないが、マウスを動かしてメールを開くと真智と十夜、英と日和からメッセージ。
お、おお、あいつらー。
「あ、一夜さんからもきている」
お疲れ様ーとか、面白かった、すごかった、とかそういう内容。
日和との結婚話はスルーするとして、真智と十夜がVtuberという新しい文化に触れて喜んでくれているのが文章から伝わってくる。
あの二人、文章書くのそもそも好きじゃないからね。
そんな二人がこんな速度でメッセージをくれるということ自体がすごい。
あの二人がテンション爆上がりしているなによりもの証拠。
……この二人の未来なら、予知夢で見られるかな?
今夜試して――あ、いや、この霊力量では無理だわ。
ちゃんと体調と霊力を回復してから出ないとダメだ。
なんなら明日は結界の張り直しをしなきゃいけないから、霊力をどのくらい使うか……。
「はあ……夏休みが残っててよかった」
でも、Vtuberを続けていたらきっと私の破滅エンドは回避できるはずだ。
実際Vtuberを目指して修行していたからなんとかなったんだもの。
「よし! 粦のラーメンを食べたら、動画の予約作業しよう。次の動画のことも考えなきゃ。橋の浄化に最近行ってないから、霊力が戻ったらやらないと……」
考えると、ワクワクしている自分に気づく。
私、Vtuberになったんだ。
これからVtuberとして活動していくんだ。
やることは山のようにあるし、覚えることもまだたくさんある。
でも、きっとVtuber続けていけば私も、攻略対象たちも祟り神にはならない。
それになにより私は祈祷師の家系、千頭山家の人間。
祈れば必ず願いは叶う。
そう信じている。
いつかVtuberの事務所とかも、作って――そして――この世界を、Vtuberという新しい文化で浄化に貢献するんだ。
いぶこー『異世界文化交流校』に所属するのは、この十年後。
私の願いは、きっとどこかに届くだろう。
いや、届けてみせる。
そして、絶対に生き延びてみせる!
終
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!
柊
ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」
卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。
よくある断罪劇が始まる……筈が。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる