若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝

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いざ、輿入れ⑤

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 満面の笑みでそう言って、ユーフェミアは早速準備に取り掛かった。
 エントランスホールの天井は、おそらくは三階くらいまでの床をぶち抜いてある吹き抜け構造だ。その中心、ドーム状で一番高くなっている場所を確かめると、唯一の手荷物だった巾着袋――いや、巾着のように見える布を結んで作ったバッグを、何故かいきなり解き始める。あっという間に、四辺が同じ長さをした一枚の布となったそれを、思い切りよく振り上げて、
 「はいっ、封印解除!!」

 どかーん!!!

 「「「わああああ!?!」」」
 ぱさ、でもばさっ、でもなく、あり得ない爆音があがった。
 勢いよく振った布が一瞬で広がって、出入り口に敷くマットほどの大きさになったかと思うと、その上にやたらと丈の高い草木が山のように生え揃う。どのくらい大きいかというと、吹き抜けになった天井に梢の先端があたって、それでも足りずに軽くお辞儀をしているくらいだ。
 「……うーん、ちょっと見当が甘かったか。すみません、後でちゃんと片づけますので」
 「え、ええ、ご丁寧にどうも……あの、これは?」
 「実家でお世話してた庭園というか花壇というか、まあそんなものです。庭師さんがあとは任せてっていいよって言ってくれたんですけど、すっかり情がわいてしまったので別れがたくて。土地ごと圧縮して嫁入り道具に持ってきちゃいました!
 てことで、クライヴ様、ちょっとよろしいですか?」
 「……えっ? あ、ああ」
 突然の事態に呆然としているセシリアに、必要と思われる説明をてきぱき済ませると、今度は同じような表情で固まっている弟と視線を合わせる。よし、まだ意識ははっきりしているな。今からやることは、自力で動けるうちの方が絶対に良い。
 「念のため確認するんですけど、口が曲がるほど強烈に苦いのと、唾液が止まらないくらい激烈に酸っぱいの、どっちがいいですか?」
 「え、えええ……?」
 何とも微妙な二者択一を投げかけられて、クライヴが情けない声を出す。それでも根が真面目なのか、はたまた事態についていけないだけか、律儀に考えて、
 「どっちもどっちだけど……強いて言うなら酸っぱい方、か……?」
 「オッケーです! エイル、今の聞こえた? キミの木の実の出番だよー!」
 元巾着に生えた緑地帯に向かっての声かけに応えて(普通の植物は応えないはずだが、こんな登場の仕方をしたのだから普通なわけがない)、わさわさっと元気に梢を揺らしたのは、ひときわ高くそびえる樹木だ。その揺れが木の枝葉全体に広がっていき、同時に枝の先端にきらきらした光が灯る。
 それが集まり凝って、ひと際まぶしく輝いたかと思うと、すうっと音もなくユーフェミアの手元に降ってきた。大きさと形はリンゴにそっくりだが、内側からふんわりと温かく光っている。
 「はいっ、どうぞ。このままかじってください」
 「……いいのか? 本当に」
 「良いんですってば。ほら早く、新鮮なうちに!」
 正直まだ状況を呑み込めていないが、ここまで言い切るのだから少なくとも毒ではないはず、と判断して、思い切ってかじった。その瞬間、
 「う゛っ…………!?」
 「だ、大丈夫!?」
 「あー、やっぱり酸っぱかったか……」
 レモンを数十倍に濃縮して、ほんの少しだけハチミツを足したような、大体純度百パーセントの酸味が炸裂した。本当に事前申告の通り、ほおの内側が痛くなるくらい酸っぱい。どうにか頑張って咀嚼して飲み込んで、二呼吸おいたくらいだろうか、石化した部分が内側からぼんやり光り出した。
 「「「おお!?」」」
 「よし、効いた!!」
 どよめく一同が注目する中、石のカラはどんどん剥がれてゆき。数分もしないうちに、クライヴを覆っていた灰色のものは、一つ残らず消えてなくなってしまった。


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