若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝

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月に叢雲、花嵐⑦

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 ぶわあっ!!!

 呼びかけに応え、間髪入れず巾着モドキから飛び出してきたのは、色鮮やかな葉を繁らせたツタのような植物だった。ユフィの肩に避難してきたお供達が、すぐに気づいて言ってくる。
 『めえ!』
 『あっ、あれってさっきオレに巻いてたやつっスね? どーりでなんか力が入んないと思ったっス!』
 「ごめんごめん、もうやらないから心配しなくていいよ。
 ――よーし、こんなもんかな。パール、お花お願いしまーす!!」
 あっという間に医務室の天井いっぱいに張り巡らされたツルと葉っぱの群れに向かって、元気よく呼びかける。すると葉の付け根に当たる部分がぽわ、と淡く光って、その輝きがそのまま膨らんで蕾と化した。ゆっくり開いた花は八重咲で、花びらの一枚一枚がガラスや水晶のように透き通っている。
 夢のように美しい花の中心から、すうっと降ってきたものがあった。近くに落ちてきたのを手に取って、しばし観察したクライヴがつぶやく。
 「露……いや、花の蜜か?」
 「はい、甘露カンロって名前だそうです。良かったらどうぞ、甘くておいしいですよ! もちろん薬効も抜群でですね」
 その先は言わなくともわかった。あちこちで雨だれのように降ってきた露、いや蜜が口に入った重鎮たちから、黒い煙のようなものが一気に噴出し始めたからだ。積もっていた花びらも、一緒に煙になって消えていく。
 居合わせた皆が固唾をのんで見守る中、思ったよりも早く煙は止まって、横になっていた一同がそろそろと身を起こす。おそるおそる口元や胸の辺りを触っているが、再び花びらを吐くような気配は見られなかった。
 「と、止まった……息が出来るぞ!」
 「胸の詰まった感じが消えた……!!」
 「おお、こりゃお嬢さんのおかげか。貴重なものじゃろうに済まんかったのぅ……ほれ皆の衆、この方が救い主じゃぞ! きちんと礼をせんかい」
 「「「おおっ!!」」」
 「え゛っ!? いやあの、わたしはたまたま連れてきてただけなので……!!」
 先程背中をさすってあげたご老人の一声で、めいめいに感動していたお偉方が一斉に集まってきた。握手を求めてくるのはまだ大人しい方で、握った手を元気よくぶんぶん上下に振ってくる人、感謝を込めてぎゅうっとハグしてくる人、ご年配の皆さまに至っては『ありがたやありがたや……』と拝みだす人までいる。落ち着いて下さい、本当に。
 ……ちなみに、最初にハグした人が出た時点で、非常に微妙な顔で割り込んだクライヴに保護されてしまった。ただしこちらも腕の中に閉じ込めるようにして抱きかかえているので、心の平穏からは程遠いのだが。
 「……宰相方。申し訳ないのですが、あまり私の妻に過剰に接触しないでいただきたい。驚いておりますので」
 「えっ、そうなのか!? それはすまん、申し訳ない!!」
 「そりゃあめでたい! よし、後で何か祝いの品を送るとしようかの」
 (妻って言った!! 妻って言われたよ今ー!!)
 「あらまあ、大人気ねえユーフェミアさん……殿下、あのご年配の方はもしかして」
 「うん。たまたま顔を出しに来られた、大叔父上の公爵殿だよ。あの人、自分より下の世代をみんな子どもか孫みたいに扱うからなぁ……
 にしても、貴族院の重鎮が揃って似たような感じになっているのは」
 《――副作用のようなものです。アムリタの蜜には心身の強力な浄化作用がありますので、皆さまとても純粋な感謝の念を覚えておられるかと》
 殿下の言葉を引き継いで、頭の中に直接響く不思議な声がした。驚いて周りを見渡したユフィの目に、部屋の入口に佇んでいる人影が映る。頭上から、こちらも驚いた風情のクライヴの声が降ってきた。
 「賢者殿、わざわざ神殿からご足労を……」
 《気にしないで下さいな。私が待ち切れなくて、自分からこちらに来てしまっただけですから。
 花咳病はなぜきびょうの治療をありがとう。そして改めて、王城へようこそ。『緑の手』のお嬢さん》
 「は、はい、ありがとうございます! ……ん?」
 高くも低くもない声は、おそらく初めて聴くものだ。なのに何故か、こちらに微笑みかけた相手――目から下を布で覆った、全身白づくめの賢者を知っているような気がして、ユーフェミアは小さく首を傾げた。


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