若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝

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エピローグ

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 吹きゆく風の中に、花と緑の香りがする。
 アルバレスは大陸では北寄りに位置しており、冬が長めな上に春先はまだまだ肌寒い日が多い。だから初夏を迎えて気温が安定し、草木が枝葉を伸ばし花を咲かせ始める今頃は最良の季節と呼ばれ、広く国民から愛されているのだ。
 エヴァンス邸の面々もまた、本日もよく晴れた爽やかな空の元、そんな季節をめいっぱい謳歌していた。
 「きれいに咲きましたね、青いバラ。これだけ天気がいいと、式までは持たないかもだけど」
 「まだ当分花はあるから大丈夫。それに、これから夏にかけてはバラの最盛期だから、他にもいろいろ綺麗なのが出てくるよ。これとか」
 「あっ、可愛い!」
 水撒きをしながら言うユフィに、横手から応えたクライヴの示す先には、ちょうどつぼみが付き始めた株がある。早くもほころんでいる花はオレンジがかったピンク色で、先端に行くにしたがって徐々に色が濃くなる、というものだった。なるほど、確かに。
 ――ユーフェミアの輿入れと、それに続いた大神殿での事件から、時は流れて半月後のことだ。
 本当は街の方の神殿で式をする予定だったのだが、くだんの大活躍に大層感謝して下さった国王一家のご厚意により、なんとほぼ王族専用だという大神殿で挙げることになった。現在は急ピッチで修理が進んでおり、それが終わるまで待機しているところだ。張り切って手入れして、無事に両親が移り住んだ実家と行き来しつつ、日々のんびりと過ごしている。
 『クローリスの愛娘』云々について、知っているのはごく身近の人々だけだ。特に国を揺るがす事件なども起こっていない今、大体的に知らせる気はないし、その必要もないと判断したからだった。
 (おかーさんたちもクライヴ様も賛成してくれたしね。……おば様たちにバレなくてよかったなぁ、ホント)
 あの人たちのことだ、『狙えるならとことん上を狙え、目指せ玉の輿!!』なんて、猛然と発破をかけてきたに違いない。あったかもしれない恐るべき未来にちらっと思いを馳せてしまい、慌てて頭を振って追い払った。まあ、ほぼ完全に縁を切った今となってはあり得ないが。
 さらに蛇足ながら、フィンズベリー家は伯爵から男爵へ一気に降格となった。気付いていなかったとはいえ王城内に堕神を連れて入って、それが種々の騒動の引き金になったことが理由だ。表向きは。
 「なんかその、母は想像ついたんだけど、王妃様がめちゃくちゃ怒って下さったらしくて……」
 「ああ、俺も殿下から聞いた。ユーフェミアはあの方にとって命の恩人だからな」
 「や、やっぱりそういうアレですかね……?」
 預かった遠戚へのひどい扱いについて、国でトップクラスの地位を持つ二人から散々に叱られたヴァネッサは、それはもうしょんぼりしていたらしい。散々吹っ飛ばしたにもかかわらず、ちょっとコブが出来たくらいでぴんぴんしていたエリオットを引き連れて、半減された領地にすごすご戻っていったそうな。
 アスカが言うには、ああいう憑き物の退治は『根競べ』だ。それも、相手が疲れるのをただ待つのではなく、いかにして『もうイヤだこの器!!』と短時間で思わせて追い出すかにかかっている、らしい。あと、取り憑かれたのがあの悪ガキじゃなければもうちょい優しくしてあげたわよ、とも。それでいいのか、賢者殿。
 「全力で公私混同してるじゃん、おかーさん……」
 「まあまあ。それでフィンズベリーで雇えなくなった人たちには、アンブローズ家に来てもらったんだろう? 人手が増えて助かるし、みんな意欲があって元気に働いてくれるから有り難い、って、ディック殿も言っておられたよ」
 「ええ、はい、父もにぎやかなのは好きなので――って! クライヴ様、ぼーっとしてる間に髪に花を挿さないでください! もったいないっ」
 「咲いてるのは適度に摘んでやらないと、他のつぼみに養分が行かないんだよ。だから大丈夫」
 「知ってますけども! ダメですってもう、花冠みたいになってるじゃないですかあ! 大体わたしの髪の色にピンク系は合わないんですって!!」
 「そうか? もっと濃い色でも問題ないと思うんだが……」
 慌てて抗議したところ、意外そうに首をひねったクライヴは、何故かこちらの頬を撫でてきた。子猫か子犬でもあやすような、いたって優しい手つきがこそばゆい。思わず目をつむってくすぐったいです、と言おうとした――ら、そっとキスされた。唇に。
 「んっ!?」
 びくぅっ、と硬直している間に、何度か軽く触れてから離れていく。確実に、絶対に、鏡を見なくてもわかるほど真っ赤になっているこちらに、犯人はにっこり微笑むと、
 「――ほら、やっぱり可愛い。何色だって似合うよ、
 「~~~~~~っっ!?!」
 ……ここ二週間でいろいろ変わったことは多いが、一番の変化はこの人との距離感、だろう。こうやって二人きりでいる時、ふと気が緩んだ隙を狙って触れてくるようになった。しかも何というかこう、前置きというか導入というか、とにかくキスの仕方がやたらと優しいくせして妙に色っぽいというか……嫌ではない、断じて嫌ではないけども!!
 無言でぽこすか叩いて猛抗議している若奥様と、ごめんごめんと言いつつ全然反省したそぶりがないその旦那を、遠くから眺めて苦笑しているセシリアがいた。足元ではすっかり慣れて懐いたバロメッツことうーちゃんと、あちらの二人に気を遣ってやって来たマイコニド改めまーくんがちょこん、と佇んでいる。
 「全くもう、まだ挙式まで半月はあるっていうのに……」
 『めー』
 『そーいや旦那が言ってましたぜ? 今のまんまでもすごく可愛いけど、式では人前ですることになるから、少しは慣れておいた方がいいって』
 「それはまあ、そうね。――でもあの子のことだから、きっと方便なんだと思うわよ? 堂々と甘やかすための」
 『あ~、なるほど……ううう、糖蜜吐きそうっス~~~』
 『めっ!? めめーっ』
 今の心境を表現するとこうなるのか、ぐんにゃりと二つ折れになってうめくキノコの姿におろおろするヒツジさんである。ご主人そっくりで本当に良い子たちだこと、とほのぼのしつつ、再び若夫婦を眺めやって目を細める。
 「……自助自立はもう十分出来てるんだもの。ユーフェミアさんはむしろ、上手な甘え方を覚えなくてはね。
 二人とも、そろそろ入ってらっしゃいな! お茶の用意が出来ていますよ!」
 「はーい、ありがとうございます! クライヴ様、お邸まで競争しますよ!!」
 「って、もう走ってるじゃないか。ずるいぞ」
 「知りませーん! ご自分の胸に手を当てて考えてみてくださいっ」
 返事より先に走り始めているのを指摘しつつ、全くもって不満そうに見えないクライヴである。それにつれない答えを返しつつ、間違いなく過去一レベルの赤面から復活しつつあるユフィも同様だ。結局この後、そろって仲良く邸にたどり着くのだろう。
 《~~~~~♪♪》
 そよそよ、さやさや。今日も若奥様といっしょの巾着モドキの中から、こちらもまたご機嫌な葉擦れのコーラスが聞こえていた。






【END】


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