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第一章:気弱令嬢、前世を思い出すの巻
⑤
しおりを挟む(……わあ)
心の中でそっと感嘆する。
執事長と父たちに案内され、静かに部屋に入ってきたのは、やはり男性だった。
燃えるような緋色の髪に、アクアマリンを思わせる、切れ長の碧い瞳。兄のセドリックよりさらに長身で、年齢も二つ三つ上というところか。武闘派という推測は外れていなかったようで、背丈に見合うがっしりした体格をしている。
それだけのガタイであれば、小柄なカレンは威圧感を覚えてもおかしくないのだが、不思議なことに全く怖くなかった。それは相手が、歩き方から持っている花束の扱い方まで、全てにおいて丁寧で品のある立ち居振る舞いをしていたからだ。こういうちょっとした仕草というのは、一朝一夕で身に付くものではない。
(やっぱり騎士団か、その関係者のひとかな? 夜会で見たことは……、あれ? ないよね??)
そう、ないはずだ。手持無沙汰でぼうっとしている間、飽きるほど舞踏室を見渡したが、こんな存在感のある御仁を目撃した覚えはない。だというのに、何故かどこかで会ったような気がしてならない。どこだったか……
出来るだけ姿勢を良くしながら、最近の記憶を掘り返していたら、隣の母がすっと一礼したので驚いた。それこそ舞踏会などで、自分より目上の王侯貴族に対して行う、最大級の淑女礼だ。すると、
「――勿体なくも我が娘へ、格別のご配慮を頂き、まことに恐悦至極に存じます。王弟殿下」
(王弟ー!?!)
見えないが多分、部屋にいる全員が最敬礼状態なのに違いない。事前に下話をされていた人たちは落ち着き払っているが、今初めて聞いたカレンと、同じく予想してなかったらしきメイドさんは大事である。勢い余ってばふっ、と絨毯に突っ伏す音に続き、『みっ!?』という呻きがした。大丈夫だろうか。
「こちらこそ、突然ご自邸に押しかけてしまい申し訳ない。が、堅苦しい挨拶は抜きにいたしましょう。あまり緊張しては、ご令嬢の体調が心配だ」
「は、はい! あの、あああありがとうございまふっ」
体格が良いからよく響くのだろう、深みがあってなかなかイイお声だ。前世からわりと声フェチの気があるカレンとしては大変嬉しい……のだが、突然の事態に慌てまくって噛んでしまった。真っ赤になりながら、ようやく既視感の正体に気付く。
(そうか、肖像画! 社交界デビューで王城に行ったとき、廊下に飾ってあるの見たんだ!!)
今まで訪れた中でも最大級に豪華で、なおかつ優雅な建築物を思い出していたら、母がぽんと背中に触れてきた。顔を上げなさい、という合図だと解釈して、恐る恐る上体を起こした先に、さっきのお客人の姿がある。
淡く微笑んだ表情だけでなく、軽く身を屈めて視線を合わせてくれているところに、穏やかな人柄が現れていた。
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