9 / 10
第一章:気弱令嬢、前世を思い出すの巻
⑧
しおりを挟むヴィクトルが額に手を当て、大きく息を吐いた。何かまずい事でも言っただろうか。ついでにその背後で、誇らしげに胸を張っている兄の方も気になる。
「ふっふっふ。どうです殿下、おれの妹は! ちょっと慎重すぎるとこはありますが、昔っからものすごく賢いんですよっ」
「いや、うん、君に聞いて知ってはいたが……」
「ええー、だって兄様が行け行けどんどーん、て突っ走るから」
「ぐふっ」
「それがおれのいい所だろ? わき目も振らず突撃しても、お前が補ってくれるから心配ない!」
「もーっ、……あら、殿下? どうされました??」
「……も、申し訳ない。が、待ってくれ、ここに来て畳みかけないでほしい……!」
セドリックが口を挟んできて、その辺りから震え始めたと思ったら、声を殺して爆笑なさっていた。兄妹にとってはいつものやり取りが、どうやら大分ツボったらしい。意外と笑いの琴線が庶民的ですね、殿下。
ついつい親しみを覚えてしまい、和んでいるところにぱんぱん! と軽く手を打つ音がした。
「はいはい。二人とも、おふざけが過ぎますよ。殿下は御用があって来られてるんですから」
「あ、すみません。母上」
「そ、そうでした……申し訳ありません、わざわざ来てくださったのに」
「……ごほん。いや、私の方こそ面目ない。陛下にもお叱りを受けてしまうな」
咳払いして笑いを収めると、ヴィクトルは静かに席を立った。一礼してそのまま立ち去る――かと思いきや、その場に姿勢よく片ひざを付く。そして、
「まだ体調の安定しない中、聞き取りに応じて下さったことを感謝する。一日も早く成果を上げられるよう、力を尽くしましょう」
カレンの片手をそっと掬い上げて、指先に唇を落とした。感謝と敬意を示す挨拶だ。……が、脳内が一般庶民に近い今、とんでもない破壊力なわけで。
「っ、あ、あああありがとうございます……!!!」
とっさに返事したものの、声が三回転半くらいひっくり返った。鏡を見なくても分かる、今顔が真っ赤だ。
(待って待ってカッコいいから!! 真面目で紳士な上に仕事も出来て、しかもこういう所作が死ぬほど似合うってアナタ……!!)
しまった。読書は大好きだったけど、流行りの恋愛モノとかはあんまり手に取ってなかったのが悔やまれる。せめて謎解きアクション系RPGだけじゃなく、乙女ゲームくらいやっとくべきだった。男性への耐性の無さが憎い!
「……殿下ー、おれ妹を口説いていいとは言ってませんよ~」
「くど、いや待て! 断じて違うが!?」
「あらあら、まあ。うふふふふ♪」
「こら母さん、からかってやるんじゃない。……あー、カレンデュラ、疲れたろう。我々は殿下をお送りしてくるから、もう休んでいなさい。コレット、頼んだぞ」
「はいっ」
遠くの方で兄がぶーぶー言っているのやら、父が気遣いしいしい出て行くのやら。やっと名前を思い出したメイドさんが『は~いお嬢様、お布団に入りますよ~』とベッドに押し込んだのやらが聞こえる。
しかしながら、ゆでダコ状態で目を回す寸前なので、うなずくのが精いっぱいなカレンであった。
136
あなたにおすすめの小説
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を
桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。
政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。
二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。
だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。
聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。
その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。
やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく……
ーーーーーーーー
初作品です。
自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる