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第二章:大根令嬢、お隣さんと旧交を温めるの巻
①
しおりを挟む方々に手を回した。やれるだけのことはやった。
しかし、もはや万策尽きつつあるのは、誰の目にも明らかだった。
「ど、どうしましょう、姉上……やっぱりお城に相談した方が……」
「だめよ! こんな大失敗、外にもれたらなんて言われると思うの!?」
泣きそうな訴えをすかさずぶった切る。ふぇ、と情けない声を上げて黙り込む弟に罪悪感を覚えつつ、必死で頭をめぐらせる。
もし困ったことが起きたら、どんなに些細でも、時間が遅くても構わない。必ず自分に連絡をするようにと、父からしかと言い聞かされている。
だが、勤め先の王城だけはだめだ。あそこは敵がたくさんいる。ほんの少し前、新しい国王が即位する直前まで、自分達だって何度も危ない目に遭ったのだ。
(お父様はもう落ち着いた、っておっしゃっていたけれど、そんなの分かりっこないわ。弱みは見せられない)
ならばどうする。次期当主として、どう動けば最善か。
考えて考えて、熱が出るほど考え抜いて、ついつい息が詰まっていたらしい。
くらっと目眩がして倒れそうになり、あわてて机に掴まって、――そこに置いてあった新聞の見出しに、稲妻に当たったような衝撃を受けた。これだ!
「テオ、いま魔法は使えて? わたくしが言うモノを、すぐに呼び寄せてちょうだい!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぎゃんぎゃんと、いきった小型犬みたいな怒鳴り声が聞こえる。
「……ねえコレット、また来てるの? レナート様」
「はい、いらしてますよー。ご覧になります? そーっとですよ」
「うん、わかってる」
念押しされて大人しく頷いたカレンは、持ち上げてもらったカーテンの隙間から外を覗いた。
エインズワース家が王都に所有するタウンハウス。社交シーズン、および議会開催中の拠点となる、伯爵家第二の住まいだ。
庭師一同が丹精込めて世話をしてくれるおかげで、季節の花々が元気よく咲き誇る前庭。そのど真ん中で騒いでいる、あんまり嬉しくない訪問者がいた。
「――だから、あいつに用があると言ってるだろう!! さっさと通せッ」
「恐れながら、レナート様。当家のお嬢様は未だご療養中ですので」
「そんなことは分かっている!! だからわざわざ土産を持ってきてやったんだ!!」
「まことに申し訳ございません。旦那様からのご命令を、今一度復唱させていただきます――」
『我が娘へ心から謝罪しよう、という姿勢が見受けられない限り、邸への出入りは認められない。なお、土産物の価値で示そうとは思わぬよう。
ウェルナー現侯爵の合意も得ております。あしからず』
「――以上となります。何とぞ、お引き取りを」
「~~~~~~~っっ!!!」
淡々と、しかし絶対に退かないという静かな気迫を込めて告げるロバート、頼もしすぎる。
対するいちおう婚約者はといえば、憤怒だか羞恥だかでトマトみたいな顔色になった挙句、土産の箱とともに荒々しく去って行った。まあ、投げ捨てて行かないだけマシか。
「……懲りないなぁ。ていうか、ホントに謝る気あるのかな? あれ」
「お嬢様がいいよ、って言ったら、それで済むと思ってそうですねえ。甘ちゃんで困っちゃいます」
「うん、ホントそれ」
なかなか手厳しいコレットに、全力で同意するカレン。記憶が戻る前なら、一も二もなく受け入れて、形だけでも仲直りをしていただろう。だからあっちも高を括っているのだ。
――カレンが階段から落ち、ついでに前世を思い出してから、はや一週間余り。レナートの謝罪訪問は、それと同じ期間だけ繰り返されていたりした。
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