大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝

文字の大きさ
37 / 60
第四章:大根令嬢、東洋文化と恋バナに花が咲くの巻




 天霧も言っていたが、この手のダンスは男性側がリードする。他の人とぶつからないように、女性がステップを踏みやすいように、周りに目配りしながら移動してくれるのだ。

 つまり、大体後ろに向かって動くわけで。人の動きを予測するのが苦手だと、もしかしなくてもだいぶ苦労するはず……なのだが、

 (めっちゃ踊りやすい……!)

 礼儀として笑顔を保ったまま、心の中で感動する。

 これはお上手です、とテレーゼ達が言っていたの、まんざらお世辞でもなかったようだ。いつも自分の行きたい方に動いて、こちらをずるずる引きずっているレナートには、ぜひとも見習ってほしい。

 「カレンデュラ嬢、辛くないだろうか。もっと練習できればよかったのだが」
 「いいえ、全然! 過去一、いえ、今までで一番快適です。レナート様、殿下の爪のアカでも煎じて飲んだらいいのに」
 「ん゛っ、……それは光栄だ」

 一瞬吹き出しかけたのをかみ殺して、穏やかな表情を保ったヴィクトルが引き寄せてくれる。

 ちょうどフロアの端に来ていて、見守る人たちの目の前できれいにターンすることが出来た。わあ、と小さな歓声が聞こえて、思わず素でにっこりする。ですよね、はい。

 それを見て、思うところがあったのか。ふと目を瞬いた相手が、再び口を開いた。先ほどよりも抑えた、真剣な口調で、

 「……相応しくない話題だが、一度うかがっておきたい。レナートはいつも、ああいった言動を?」
 「え? ええと、どんなのでしょう」
 「貴女への当たりがきついのも問題だが、家門を侮辱していただろう。成り上がり風情が、と」
 「ああー、はい、そうですね。自分のところが建国以来の血筋なので、相当自信があるみたいで」

 そんな深刻な話じゃありませんよ、という顔で軽くうなずく。

 ここの国では、名前に『フォン』が付くところ――カレンの前世の感覚だと、ドイツ語圏風の苗字を持つお宅ほど古い家系だ。王家しかり、その分家に当たる貴族しかり。

 逆にエインズワースやモナンジュなど、英語圏やフランス語圏を思わせる名前は後進だ。軍事や政治での活躍を評価されて、新しく爵位をもらったり昇格されたりしている。

 くだんのウェルナー侯爵家は、初代国王に仕えていた騎士の血筋らしい。昔々、跳梁跋扈する魔物を退治して、グランフェルトを建国するのに大いに貢献したとか。

 もっとも数百年前のことで、証拠は邸に代々伝わる系図と史書だけなので、すべてが真実かは不明だが。

 「いつだかにちらっと言ってたんですけど、レナート様も入りたかったらしいんですよね、近衛騎士団。でもまあ、入団試験であっさり落っこちて。
 うちに兄様がいる日は絶っっっ対来ないので、相当根に持ってるんだと思います、はい」
 「ああ……、もしや、それで貴方に八つ当たりを」
 「いいえ? 単に、もう池に囲った魚に餌はやらない、ってタイプなんでしょう」

 もう結婚すると決まっているのだし、エインズワース家は彼言うところの『成り上がり』、格下の相手だ。どう扱おうと自分の勝手、反抗なんかできっこない、と踏んでいたに違いない。わざわざカレンを指定してきた理由はそれだと、記憶が戻った今はよーくわかる。

 (いたもんね、前世でも! わたしが身寄りもお金もないって知ってるから、絶対断らないだろって顔して言い寄って来たひと!! その場で突っ返したけど、ああいう男がいちばん腹立つ……!!!)

 だからこそ。今は大切な家族と友人に恵まれているからこそ、思うのだ。

 「でも、わたしを粗末に扱う相手とは、絶対結婚しません。棲む水は自分で選ぶ魚でありたいと、心から願っています!」

 間違いなく、社交ダンスのさなかにする宣言ではない。だけど家族以外で、一番最初に聞いてほしかったのがヴィクトルだったのだ。

 胸を張って言い切ったカレンに、相手は目を丸めて驚いた表情をした。そこでちょうど最初の曲が終わったので、作法に則って互いに一礼――しようとしたら、

 「素晴らしい決意だ。私にもぜひ応援させてほしい。――貴女の歩む道に、幸多からんことを」

 社交用ではない、心からのものだと分かる笑顔でそう言って。ヴィクトルは預けられていた手の甲に、そっと口づけを落とした。

 ……ひえっ、と変な声が出たのは言うまでもない。ついでに遠くの方できゃー! と黄色い歓声が上がった気もする。ええいもう、これだから王子様は!!


あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。