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第四章:大根令嬢、東洋文化と恋バナに花が咲くの巻
⑦
天霧も言っていたが、この手のダンスは男性側がリードする。他の人とぶつからないように、女性がステップを踏みやすいように、周りに目配りしながら移動してくれるのだ。
つまり、大体後ろに向かって動くわけで。人の動きを予測するのが苦手だと、もしかしなくてもだいぶ苦労するはず……なのだが、
(めっちゃ踊りやすい……!)
礼儀として笑顔を保ったまま、心の中で感動する。
これはお上手です、とテレーゼ達が言っていたの、まんざらお世辞でもなかったようだ。いつも自分の行きたい方に動いて、こちらをずるずる引きずっているレナートには、ぜひとも見習ってほしい。
「カレンデュラ嬢、辛くないだろうか。もっと練習できればよかったのだが」
「いいえ、全然! 過去一、いえ、今までで一番快適です。レナート様、殿下の爪のアカでも煎じて飲んだらいいのに」
「ん゛っ、……それは光栄だ」
一瞬吹き出しかけたのをかみ殺して、穏やかな表情を保ったヴィクトルが引き寄せてくれる。
ちょうどフロアの端に来ていて、見守る人たちの目の前できれいにターンすることが出来た。わあ、と小さな歓声が聞こえて、思わず素でにっこりする。ですよね、はい。
それを見て、思うところがあったのか。ふと目を瞬いた相手が、再び口を開いた。先ほどよりも抑えた、真剣な口調で、
「……相応しくない話題だが、一度うかがっておきたい。レナートはいつも、ああいった言動を?」
「え? ええと、どんなのでしょう」
「貴女への当たりがきついのも問題だが、家門を侮辱していただろう。成り上がり風情が、と」
「ああー、はい、そうですね。自分のところが建国以来の血筋なので、相当自信があるみたいで」
そんな深刻な話じゃありませんよ、という顔で軽くうなずく。
ここの国では、名前に『フォン』が付くところ――カレンの前世の感覚だと、ドイツ語圏風の苗字を持つお宅ほど古い家系だ。王家しかり、その分家に当たる貴族しかり。
逆にエインズワースやモナンジュなど、英語圏やフランス語圏を思わせる名前は後進だ。軍事や政治での活躍を評価されて、新しく爵位をもらったり昇格されたりしている。
くだんのウェルナー侯爵家は、初代国王に仕えていた騎士の血筋らしい。昔々、跳梁跋扈する魔物を退治して、グランフェルトを建国するのに大いに貢献したとか。
もっとも数百年前のことで、証拠は邸に代々伝わる系図と史書だけなので、すべてが真実かは不明だが。
「いつだかにちらっと言ってたんですけど、レナート様も入りたかったらしいんですよね、近衛騎士団。でもまあ、入団試験であっさり落っこちて。
うちに兄様がいる日は絶っっっ対来ないので、相当根に持ってるんだと思います、はい」
「ああ……、もしや、それで貴方に八つ当たりを」
「いいえ? 単に、もう池に囲った魚に餌はやらない、ってタイプなんでしょう」
もう結婚すると決まっているのだし、エインズワース家は彼言うところの『成り上がり』、格下の相手だ。どう扱おうと自分の勝手、反抗なんかできっこない、と踏んでいたに違いない。わざわざカレンを指定してきた理由はそれだと、記憶が戻った今はよーくわかる。
(いたもんね、前世でも! わたしが身寄りもお金もないって知ってるから、絶対断らないだろって顔して言い寄って来たひと!! その場で突っ返したけど、ああいう男がいちばん腹立つ……!!!)
だからこそ。今は大切な家族と友人に恵まれているからこそ、思うのだ。
「でも、わたしを粗末に扱う相手とは、絶対結婚しません。棲む水は自分で選ぶ魚でありたいと、心から願っています!」
間違いなく、社交ダンスのさなかにする宣言ではない。だけど家族以外で、一番最初に聞いてほしかったのがヴィクトルだったのだ。
胸を張って言い切ったカレンに、相手は目を丸めて驚いた表情をした。そこでちょうど最初の曲が終わったので、作法に則って互いに一礼――しようとしたら、
「素晴らしい決意だ。私にもぜひ応援させてほしい。――貴女の歩む道に、幸多からんことを」
社交用ではない、心からのものだと分かる笑顔でそう言って。ヴィクトルは預けられていた手の甲に、そっと口づけを落とした。
……ひえっ、と変な声が出たのは言うまでもない。ついでに遠くの方できゃー! と黄色い歓声が上がった気もする。ええいもう、これだから王子様は!!
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