大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝

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第四章:大根令嬢、東洋文化と恋バナに花が咲くの巻



 社交界では、というか、貴族社会の慣例として、身分の高い方から先に話しかけるというものがある。先にご挨拶して失礼うんぬん、の意味合いはそんなところだが、それはさておき。

 「モナンジュ、って……」

 聞き覚えがある、どころではない。

 レナートがカレンから許しを得るには、大きな功績を作ってみせればいいと助言したという、男爵家の令嬢。顔も合わせてこなかったのに、ここに来てなにを言おうというのか。

 緊張で身を固くするカレンの前で、相手はもう一度礼をしてみせた。先ほどより、明らかに膝の曲げ方が深い。コルセットを着けるドレス姿ではこれが限界、というほど、非常に丁重なお辞儀だ。

 「先日は、わたくしの浅慮が原因で、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。心よりお詫び申し上げます……!」
 「えっ? あ、いえいえ! あれはレナート様が悪いですよ、まさかホントに突撃するとは思いませんって。ねえ」
 「ええ、その通りです。モナンジュ嬢、どうぞ顔を上げて下さい。良かれと思った助言が相手を追い詰める、というのは、往々にして起こり得ることですので」
 「うう、そう仰っていただけると……もっと早くお伺いすべきだったのですが、怖くて……!」

 思いがけず、必死な調子で謝罪されて拍子抜けした。あわててフォローするとヴィクトルも口添えしてくれて、ようやく顔を上げたモナンジュ嬢ことミラベルは、レースの手袋をした手で目元を押さえている。うんうん、そりゃあそうなるだろう。

 何せレナート、不法侵入した先が王領かつ禁足地で、さらには現状国で二番目にえらい人直々に助けられる、というあり得ない事態だったのだ。その原因が自分のアドバイスだったら、カレンなら絶対土下座する。時間はかかっても勇気を出して、ちゃんと自分で謝りに来たミラベルはえらい。

 (男爵さんの代理で来てるんだっけ。うん、そりゃしっかり者になるよなぁ)

 とにかく、全てはレナートのお馬鹿ぶりに端を発することだ。一日も早く本気で反省、かつ更生してもらわねば……

 「じゃあ、今日はその辺りを伝えに来て下さったんですね? わざわざありがとうございます」
 「身内が短慮で申し訳ない」
 「いえ、とんでもございません! ですが、その、……レナート卿、また別のことを計画しておられる、ようでして」
 「「え゛っ」」

 それはもう、さっきの倍は申し訳なさそうな声と顔つきで言ってきた内容に、思わず二人して固まった。まさかあの人、まだ懲りてないんですか!?

 「ええもう、何と言えば良いのか……自分は決して間違っていない、こうなったのはひとえに環境に恵まれていないせいだと。
 友人として親しくして頂いた身で、告げ口のようなことを申し上げるのは、大変心苦しいのですが……」
 「いや、貴女には何も非はありません。これ以上は侯爵だとて庇いきれませんし、我々王家も、特定の家門だけを優遇するわけにはいかない。
 して、彼は何を?」
 「……わたくしの、憶測であればいいのですが。レナート卿は、二年前に流行した疫病の原因を突き止めようとしておられる、ようです。
 お母上を始め、病で命を落とした方々の墓所を調べる、と」

 うげ、と思わず呻いてしまった。ヴィクトルも取り繕いきれなかったと見えて、思いっきり息を呑んだ音が聞こえてくる。

 二年前、王都周辺で猛威を振るった疫病。地方に飛び火しなかったのは不幸中の幸いだったが、対処に当たった医務官や魔導師などが、幾人も命を落としたと聞く。

 その中には、民のためにと率先して駆け回り、自らも罹患してしまった王侯貴族――先王陛下、亡きリリエンフェルト次期公爵夫人、そしてレナートの母であった第一王女も含まれていた。

 「あれって結局原因が分からなくて、亡くなった人達は厳重警備で故郷に送り届けたけど、墓所には立ち入らないようにって通達が……」
 「その通りです。病であれば宿主と共に死に絶えるだろうが、そう装った呪いの可能性も捨てきれなかったので。
 そんなところに生身で……いや、そうでなくとも、墓暴きなど言語道断だ」

 ましてや王家のみささぎとなれば、先日の禁足地とは比べものにならない不敬だ。当人だけでなく、侯爵家そのものが取り潰しになったっておかしくない。

 よほど動揺したのか、ダンスの後ずっと血色の良かったヴィクトルが蒼白になっている。思わず背中をさすってみたところ、はっとした顔になって生気が戻った。ほんの少しだけだが。

 「……承った。モナンジュ嬢、貴重な情報提供に感謝いたします。彼は良い友人に恵まれている」
 「そんな、勿体ないことです。何事も起こらないよう、お祈り申し上げております……!」
 「大丈夫ですよ、何とかなります。絶対何とかしますから!!」

 再び深々と頭を下げたミラベルを、口々に励ましてその場から移動する。元々多忙な王弟殿下だ、急な案件が入ったと言って辞去しても、不自然には思われないだろう。

 (あんまり時間は取れなかったけど、また来れば良いよね。フィッツアランさん達なら、いつでも協力してくれるし!)

 それよりも、だ。謹慎処分にへそを曲げて、またぞろ余計なことを企んでるという許婚に、今度こそ引導を渡してやらねば!!




















 バルコニーに風が吹く。爽やかなバラの香りを押しのけて、色濃く甘い匂いが漂う。

 そのただ中で。

 「……お人好しは死んでも治らないのねえ。

 ぽつんと、ひとこと。聞くもの全てを凍らせる、絶対零度の声音が落ちた。




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