デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第三章:

星守る狼⑧

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 風のように走っていったのは、もちろん見事呪いが解けたスコールくんだ。どこにそんな元気があったのか、あちこち焦げてぷすぷすいわせている大蛇が引きつった声を上げる。

 『なっ、貴様!? 散々蟲毒に苛まれたろうが!!』

 「それがどうした!! どこが痛かろうが、卑怯な罠にかかろうが関係ない! おれは受けた恩に応えて、全力で使命を果たすだけだ!!」

 すさまじい気迫で言い返した瞳が、カッと金色に輝いた。

 元々速かったスピードが倍以上に跳ね上がり、残像が残るほどの勢いでその辺の樹の幹を垂直に駆け上がって空中に飛び出す。そして、

 「『双撃神速ダブルバースト』・雷神槌!!」
 
 ドゴォッ!!!
 
 『ぐふぁ……っ!!』

 脳天に全力の浴びせ蹴りが決まった。まるで巨大な岩でぶん殴られたみたいに蛇が沈んで、頭から地面にめり込んで動かなくなる。

 (……つ、強ーッ!!)

 これは確かに、呪いでもかけとかないと勝てないって直感するレベルだわ。うん。

 まるでというか、もう漫画のワンシーンそのものの白熱バトルに、思わずぽかんと見入ってしまうわたしだ。

 そんな中無事に着地を決めたスコールくん、ふいにぺたんとその場に座り込んでしまった。その場にいた全員があわてて駆け寄る。

 「だ、大丈夫!? やっぱりどこか辛いの!?」

 「いえ、もうほとんど何ともないんです。……ただ、その」

 ぐきゅ~~~。

 にわかに緊迫した空気をぶち砕く、のどかすぎる音が響き渡った。……そういえばさっき、移動しながらご飯済ませたけど、緊張のせいかほとんど食べてなかったなぁ。この子。

 「あっそうだ、リンゴいっぱいあるよ! 食べて食べて」

 「黒パンのカタマリがあるぞ、あとチーズも。ほい」

 『おにーさんがんばったから、ぼくのとうきび食べていいよ~』

 「あああああ、すみませんすみません……!!」

 一斉に和んだみんなから、あれやこれやと食料を差し出されてしまい、顔を真っ赤にして恐縮しまくる本日の功労者だ。

 さーっと透きとおった風が吹いた。ほわほわ飛び交っていた星の子たちが、流れに乗って舞い上がる。

 つられるように見上げたら、満天の星空から降りてくるものが目に入った。どんどん近づいてくる影はとても大きい……いや、大きいというか、

 『――こーんばーんはー! お迎えに上がりましたよ~~~』

 「「「長っ!?」」」

 『あははは、よく言われますねー』

 明るすぎる挨拶と共に颯爽と現れたのは、ものすごく長い真珠色の竜だった。

 フォルムは西洋のドラゴンなんだけど全体的にスリムで、首と胴体と尻尾がすらーっとしている感じだ。思わずハモって失礼なツッコミを入れてしまったけど、全く怒ったそぶりがないあたり、おっとりした口調に違わずのんびり屋さんらしい。

 「お久しぶりです! あの、こちらは天の川を管理しておられる、精霊竜のマージョリーさんです」

 『どうもー。気軽にマージって呼んでくださいねー。
 星守さんお疲れさまです、来るの遅くなってごめんね! 星の子たちもみんな無事でよかった~。あ、おなか減ってるんですっけ? じゃあ郷まで送っていきましょー』

 「ええ!? いやあの、精霊のひとを乗り物になんてそんな失礼な」

 『いいからいいから! そうだ、そっちの手伝ってくれたひとたちは冒険者さん? 今から帰るとこ?』

 「は、はい。然様ですが」

 『りょーかい、改めましてホントにありがとね! お礼にいっしょに送ったげるから、乗って乗って~』

 「あ、ありがとうございます」

 めっちゃ軽く、なおかつ親切に言われてしまうと、断るのも気が引ける。みんなして恐る恐る背中によじ登り、背中だと思われる部分に陣取った。

 マージさんはいわゆるファードラゴンという種類らしく、淡く光る真珠色の長い毛がもふもふしててとてもあったかい。いっしょに乗り込んだ星の子たちが、あちこちで嬉しそうにキラキラしているのもきれいだ。

 『はい、乗ったねー? しっかりつかまっててね、いっくよー!』

 合図とともにぐん、と全身に重力がかかった。星降峰から舞い上がったドラゴンは優雅にターンしながら、少しずつ高度を上げていく。わたしたちや星の子を落っことさないように気遣ってくれているのがわかる、スピードは充分だけどとっても丁寧な飛び方だ。

 『高いとこ苦手な人は目つぶっててねー。大丈夫な人は、左側を見るとちょっと良いことがあるかもー』

 「わあー……!」

 のんびり促されて、そーっと左に顔を向けたわたしの口から、思わずそんな声が出た。

 ――山頂よりさらに高いところから見下ろすと、星降峰のふもとから海までのあいだはそんなに遠くない。そして、たぶん街道の終わりに当たるだろう海辺には、人家の灯す煌めきがたくさんあった。

 明るいオレンジ色の明かりは、現代の夜景よりも色や数はずっと少ない。けど同じくらい、いや、もっとずっと綺麗だ。

 「あれがみんなの街なんだね」

 「そーよ。このへんじゃ結構大きい方ね」

 「ひともお店も多いから、見てるだけでも楽しいよ! 明日みんなで一緒に回ろうね、ティノくんも一緒に!」

 『はーい、行く行くー!』

 「スコールもさ、落ち着いたら遊びに来いよ。ギルドに手紙くれれば待ち合わせできるし」

 「それは良いな、案内なら任せておけ。いつでも待っておるぞ」

 「……っ、は、はい! 絶対に!」

 賑やかに約束を交わすわたしたちの周りを、楽し気な妖精玉がほわほわ飛び交う。『みんな仲良しでいいねー』と優しい声で笑ったマージさんは、天と地に広がる星空の中をゆったりと泳いでいった。
 
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