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第四章:
森の迷宮(メイズ)にご用心①
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ヴァイスブルクの市街地から、ギルドを背にして数十分。町の賑わいが海鳴りに紛れて消えてしまうくらいの距離に、その場所はあった。
「こんな近場にダンジョンがあるなんて知らなかったなぁ。フィアは聞いたことある?」
「あるわけないじゃん。そもそも高台の森って、離宮の敷地のド真ん前よ? 子どもの頃から絶対入るなって、かーさんにさんざん言い聞かされてたし」
うきうきした足取りのリラに、答える地元民は渋ーい顔だった。なんかイヤな思い出でもあるんだろうか。
「……なのにさあ、よそから遊びに来た子が探検にいって、案の定帰って来なくて大騒ぎになって、みんな総出で探し回ったんだから……無事に見つかったし全然元気だったけど、雨は降り出すわ暗くなるわこっちまで迷いかけるわで生きた心地しなかったわよ……」
「そ、そっかぁ……大変だったね、うん」
『フィアおねーさんお疲れさま~』
「ううう、うちの新入りがそろって良い子すぎる……!!」
あまりのぐったりぶりに思わず肩をぽんぽん叩いてあげると、肩に乗ってるティノくんが反対側を尻尾でもふもふ撫でてくれた。労われた相手がじんわり涙目なのを見るに、当時は相当大変だったんだろうなぁ……
心の底から同情しつつ、ひょいと上の方を眺めてみる。辺りに生い茂る木々の梢の向こう側、ちょっとした崖の上に白亜の壁の建物がどんと鎮座していた。本当に目と鼻の先で、高低差がなければふらっと迷い込んでしまいそうだ。
ちなみに、街からここまでは緩い坂道をとことこ登ってきたんだけど、簡単な木の柵と『この先王家所領、無断での立ち入りを禁ず』って看板が立ってるだけで、まったく対策がなされてない感じだった。これじゃあ好奇心旺盛な小さい子が入り込んでもおかしくない。
離宮っていうからには、いわゆる王族専用の別荘みたいなもののはずだし、普段使わないとなると管理も適当になってしまうんだろうか。とにかく、その子に大事がなくてよかった。
「今日は天気もいいし昼間の出発だから、少なくともその辺の心配がなくてよかったよね。イブの服が良く似合ってるのもばっちり見えるし!」
「あんたものすごくこだわって選んでたもんね。本人そっちのけで」
「ちゃんと意見も取り入れたもん! ねーっ」
「うん、ありがと。……ただね、これを全部お代ナシでいただくのはやっぱりマズいんじゃ」
「いーんだって。さっきかーさんも言ってたでしょ、着て宣伝してくれたらそれでオッケーって」
相変わらず全開に笑顔のリラに続いて、気楽にぱたぱた手を振ってくれるフィアメッタである。
……今わたしが着ているのは、真新しい冒険者用の服一式だ。自分の目の色よりちょっとだけ赤みの強い紫――ライラック色ってシェーラさんは言ってたけど、とにかくそんな色合いのひざ丈短衣に、黒い長袖長ズボンと革のブーツ。
日よけと防寒のために、深い紺青のフード付きマントも羽織っている。さっきもらったブローチを左胸に留めてあって、金色が良く映えてきれいだ。ついでに長い髪はお団子に結って、短衣と同じ色のリボンでまとめてあった。
正直ものすごくわたし好みの色だし、今まで着てたふつうのワンピース(宿屋のおばあちゃん提供)より断然動きやすくてうれしい。うれしいんだけど、いくらお金がないからって全部プレゼントしてもらってしまったという事実が、こないだからさんざん親切にしてもらってるわたしの良心にざっくざく突き刺さるわけで……
「が、がんばって早いとこ一人前になります……!」
「よっしゃ、その意気よ。気張ってこー」
「おーっ!」
『ご主人ふぁいとー!』
ご厚意に応えるべく気合いを入れ直すわたしに、女子二人と雷獣さんが合いの手を入れてくれた。
「こんな近場にダンジョンがあるなんて知らなかったなぁ。フィアは聞いたことある?」
「あるわけないじゃん。そもそも高台の森って、離宮の敷地のド真ん前よ? 子どもの頃から絶対入るなって、かーさんにさんざん言い聞かされてたし」
うきうきした足取りのリラに、答える地元民は渋ーい顔だった。なんかイヤな思い出でもあるんだろうか。
「……なのにさあ、よそから遊びに来た子が探検にいって、案の定帰って来なくて大騒ぎになって、みんな総出で探し回ったんだから……無事に見つかったし全然元気だったけど、雨は降り出すわ暗くなるわこっちまで迷いかけるわで生きた心地しなかったわよ……」
「そ、そっかぁ……大変だったね、うん」
『フィアおねーさんお疲れさま~』
「ううう、うちの新入りがそろって良い子すぎる……!!」
あまりのぐったりぶりに思わず肩をぽんぽん叩いてあげると、肩に乗ってるティノくんが反対側を尻尾でもふもふ撫でてくれた。労われた相手がじんわり涙目なのを見るに、当時は相当大変だったんだろうなぁ……
心の底から同情しつつ、ひょいと上の方を眺めてみる。辺りに生い茂る木々の梢の向こう側、ちょっとした崖の上に白亜の壁の建物がどんと鎮座していた。本当に目と鼻の先で、高低差がなければふらっと迷い込んでしまいそうだ。
ちなみに、街からここまでは緩い坂道をとことこ登ってきたんだけど、簡単な木の柵と『この先王家所領、無断での立ち入りを禁ず』って看板が立ってるだけで、まったく対策がなされてない感じだった。これじゃあ好奇心旺盛な小さい子が入り込んでもおかしくない。
離宮っていうからには、いわゆる王族専用の別荘みたいなもののはずだし、普段使わないとなると管理も適当になってしまうんだろうか。とにかく、その子に大事がなくてよかった。
「今日は天気もいいし昼間の出発だから、少なくともその辺の心配がなくてよかったよね。イブの服が良く似合ってるのもばっちり見えるし!」
「あんたものすごくこだわって選んでたもんね。本人そっちのけで」
「ちゃんと意見も取り入れたもん! ねーっ」
「うん、ありがと。……ただね、これを全部お代ナシでいただくのはやっぱりマズいんじゃ」
「いーんだって。さっきかーさんも言ってたでしょ、着て宣伝してくれたらそれでオッケーって」
相変わらず全開に笑顔のリラに続いて、気楽にぱたぱた手を振ってくれるフィアメッタである。
……今わたしが着ているのは、真新しい冒険者用の服一式だ。自分の目の色よりちょっとだけ赤みの強い紫――ライラック色ってシェーラさんは言ってたけど、とにかくそんな色合いのひざ丈短衣に、黒い長袖長ズボンと革のブーツ。
日よけと防寒のために、深い紺青のフード付きマントも羽織っている。さっきもらったブローチを左胸に留めてあって、金色が良く映えてきれいだ。ついでに長い髪はお団子に結って、短衣と同じ色のリボンでまとめてあった。
正直ものすごくわたし好みの色だし、今まで着てたふつうのワンピース(宿屋のおばあちゃん提供)より断然動きやすくてうれしい。うれしいんだけど、いくらお金がないからって全部プレゼントしてもらってしまったという事実が、こないだからさんざん親切にしてもらってるわたしの良心にざっくざく突き刺さるわけで……
「が、がんばって早いとこ一人前になります……!」
「よっしゃ、その意気よ。気張ってこー」
「おーっ!」
『ご主人ふぁいとー!』
ご厚意に応えるべく気合いを入れ直すわたしに、女子二人と雷獣さんが合いの手を入れてくれた。
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