デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

文字の大きさ
54 / 379
第四章:

森の迷宮(メイズ)にご用心⑥

しおりを挟む

 「イブマリー嬢!!」

 ショウさんが気付いて叫ぶけど、距離があるのと、頭を潰したガイコツのがめちゃくちゃ元気に動いてるせいで手が離せない。まだクリティカルが出せてないディアスさんの方も右に同じくだ。

 その間にも、掴んだわたしの腕を塚鬼ワイトが引っぱる。大きく開いた口の中に、人間ではありえない鋭い牙がずらりと並んでいるのが見えた。

 (か、かじられるー!!)

 アンデッドにかまれると、仲間にされるんじゃなかったっけ。金縛りのせいで悲鳴も上げられず、せめて見たくない一心で目を閉じる。次の瞬間、

 ばさっ、がつっ! 

 『ギャン!!』

 物音と悲鳴が上がって、唐突に身体が自由になった。急いで目を開けると、いつの間にか前に出てかばう体勢になってる詩人さんがいる。塚鬼はもう一体といっしょに、見覚えのある飾り帯で頭を覆われた上、地面に倒れてのろのろもがいていた。フェリクスさんが外した帯を投げつけて、スキが出来たところで足を払って転ばせたらしい。

 「ご無事ですか? あの金縛りは視線を媒介にしていますから、目元を塞いでやればすぐ回復できます。念のためお伝えしておきますね」

 いつも通りに笑った詩人さんは、しかし塚鬼を振り返ったところですっと真顔になった。思わずひえっ、と自分で自分の肘を抱く。

 ……やばい、やばいぞ。このひとは本ッ当に芯から穏やかで優しいから、ゲームでは本人のルートを含めても一、二回しか見れなかったけど……あの目つき、めっっっちゃ怒ってる時のヤツだ!

 「――さて、護られてばかりは申し訳ないですね。少々時間と場所をお借りいたします」

 低い声できっぱりと言い切って、大きく息を吸い込む。そして、

 「《空翔ける女神よ 輝ける天の花嫁よ
 あめつちを照らす微笑をもって 我らに光の祝福を与えん》」

 さすがは本職というべき、よく通って心地よい素晴らしい歌声が響き渡る。銀の瞳が内側から輝いて、正面の足元に紫の魔法陣が現れた。そこからぱあっと金色の光が現れて、防ぐことも出来ずまともに浴びた塚鬼たちが絶叫とともに消滅していく。

 これぞフェリクスさんの生得魔法、その名も『音詩祝福アンティフォーナ』だ。音と言葉の力を引き出して、歌う曲によっていろんな現象を起こす。

 いまのはおそらく、アンデッド全般の大敵である太陽の光を呼んできたんだろう。あれだけしつこかった幽鬼レイスが、空中で張り付いたみたいに固まっているし間違いない。

 「ご清聴、ありがとうございました。お嬢さん方」

 一撃必殺して気が済んだみたいで、再びにこっと笑ってきれいに一礼してくれる。直前の緊張もあって、思わずわーっと拍手する女子三名だ。

 「――よしっ、見つけた! 行けティノ!!」

 『うりゃーっ!!』

 「いい加減に往生しろ!! 急の段・水芙蓉すいふよう!!」

 カッ!! ばしゅっ!!!

 苦戦していた男子コンビが、ここでやっと活路を見出した。鎧の胴体を壊したディアスさんの指示で、ティノくんがスケルトンの肋骨の中に浮いてたボール状のものを雷で打ち壊す。

 ほぼ同時にリーダーの方も、水刃を高速で八相に振り抜いて上半身ごとボールを切り裂いていた。両方とも、ざぁっと砂みたいになって崩れ去っていく。

 『ほうううう』

 やっと動きを取り戻した幽鬼が、大慌てで退散していく。そこへ、ダッシュで戻ってきた男子たちが合流した。

 『ごしゅじーん!! だいじょぶ!? かじられてない!?』

 「あーっ疲れたー!! みんな無事か~」

 「へーきよ。フェリクスさんとリラ以外はほぼ何にもしてないけど」

 「違うって、いっちばん出来てなかったの私だから! 結局浄化魔法かけられてないし幽鬼も逃げちゃうし、イブ噛まれかけてたし!!」

 「……いや、それは自分とて同じだ。不甲斐ないにも程がある」

 最後まで魔法を使えなかったのがよっぽど悔しかったのか、リラが今にも泣きそうな顔で主張した。見事にひとりで倒してきたショウさんの方も、見たことがないくらい険しい顔で刀の柄を握りしめていた。

 ……ええっと、どうしよう。前から思ってたけど、みんな責任感強いなぁ。

 一瞬困ってから、とりあえず自分が良くやってもらうように頭をなでなでする。唐突にされたのに驚いたみたいで、二人ともぽかんとした顔になった。よし、もう思い詰めてないな。

 「大丈夫だよ、どこもケガしてないし。次はわたしもがんばるから、ね」

 実は結構怖かったし、間近で見てしまった塚鬼の形相はしばらく忘れられそうにない。けどそれを言うなら、ガワの人アンリエットの今までこそ悪夢そのものだったろうし。

 なら、五体満足でみんなも無事に生き残ったことを喜ぼう。うん、ぜひそうしよう。

 「う、うわああああんイブ~~~」

 『うえええええご主人んんんん』

 「……かたじけない。この次は必ず」

 「はい!」

 ぎゅううう、と抱き付いてくるリラと、何気にコワかったらしいティノくんをよしよししながら、ショウさんと目を合わせてにっこりする。そんなやり取りを、他メンバーとフェリクスさんが温かく見守ってくれていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど

有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。 私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。 偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。 そして私は、彼の妃に――。 やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。 外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...