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第五章:
恋(と商い)は戦争②
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「――お邪魔いたします。皆さん、お疲れさまでしたね」
「うむ、結局手伝えずじまいで済まぬな」
『ほーっ』
「あっ、お帰りなさい! フェリクスさんとオズさんたちこそお疲れさまです」
『ふぃー!』
部屋の出口に、ひょっこり詩人さんが現れた。今日は朝から用事で出かけていたはずだけど、ちょうど戻ってきたようだ。
その後ろには、何故か再び面布をしている元霊導師さんと、元幽鬼のホーリィもいる。それまで死んだみたいに動きがなかったリラが、ぱっと一番に起き上がって走っていった。
「なになに、どうかしたの? また頭とか痛い?」
「いや、我には何も問題はないのだがな。家主殿に屋内をうろつくときは顔を隠せ、と厳命されてしまった」
「へ?」
「……あのね、うちの従業員には若い子が結構いるんだよ。そこにアンタみたいなとんでもない美形を放り込んだら、ハチの巣突っついたみたいな大騒ぎになるのは分かり切ってるだろ? そっちの詩人さんが出入りするんだってわりかし大変なんだからさ」
「うう、申し訳ありません……」
「はっはっは、持てる者の宿命という奴よな」
正直に恐縮している詩人さんのとなりで、相変わらずご機嫌な元・ラスボスさんである。
このひとはダンジョンから戻った日からこちらに居候中で、名前はオズヴァルドというらしい。長いゆえオズで良いぞ、とあっさり愛称呼びを許してもらったため、みんなでそれに倣っているのだ。
このひと、今でこそあっけらかんとしてるけど、最初の日は寝たり起きたりでかなりしんどそうだった。何十年もアンデッドとして真っ暗な環境で暮らしていたため、燦燦と降り注ぐ明るい日光がツラかったらしい。
そこからちょっとずつ慣らしていって、数日が経つ現在では屋内なら自由に動き回れるようになった。みんなが差し入れした本を面白そうに眺めたりして退屈はしてなさそうで、ちょっと安心したわたしだ。
……ただシェーラさんが言ったとおりで、このひとのお世話係になりたいお姉さんたちが静かに激しく抗争を繰り広げているらしい、とフィアメッタから聞いたときはそれこそ『うへえ』って口に出たが。恋する乙女って強いなぁ。
そんな中、元気に飛んでった鳥さんがフェリクスさんの肩にちょこん、と着地した。もふもふの頭でほっぺにすりすりして懐きまくると、相手も嬉しそうに笑って軽く撫でてやっていた。
「ふふふ、おはようございます。名前共々よく似合っていますよ、リーシュ」
『ふぃっ♪』
「それ、実はみんなで考えたんです。この子たちには性別がないから、どっちでも違和感がないようにって」
いろいろと案が出た中から、わたしが公平にアミダで決定させてもらった。ちなみにこれは南にある砂漠の国で『綿毛』とか『羽毛』って意味らしい、とディアスさんに教わったものだ。可愛いし響きもきれいだからか、本人もお気に入りみたいで嬉しい限りだ。
「そういやさ、リーシュってしんどいのは吸い取れないの? 病気やケガが治せるんなら応用できないかな~」
「対象はあくまでも『身体に害のある、後から入り込んだもの』だからな。持って生まれたとか、本人が生み出した気の病とかいったものは守備範囲外だろうよ。いくらカラドリウスといえどもな」
いわゆる霊鳥の一種で、全ての母である創造神のお遣い、あるいは女神そのものの化身ともいわれる白い鳥だ。姿を見るだけで心身が楽になり、目を合わせた相手の病気や苦しみを吸い取って癒すとされるすごい生き物――
なのだがしかし、とにかく激レアすぎてあちこちで狙われまくったのと、定住しないというライフスタイルのせいでなかなか友達ができずにいたんだとか。今こうやってのんびり過ごせているのは、実は結構すごいことなのかもしれない。
「うむ、結局手伝えずじまいで済まぬな」
『ほーっ』
「あっ、お帰りなさい! フェリクスさんとオズさんたちこそお疲れさまです」
『ふぃー!』
部屋の出口に、ひょっこり詩人さんが現れた。今日は朝から用事で出かけていたはずだけど、ちょうど戻ってきたようだ。
その後ろには、何故か再び面布をしている元霊導師さんと、元幽鬼のホーリィもいる。それまで死んだみたいに動きがなかったリラが、ぱっと一番に起き上がって走っていった。
「なになに、どうかしたの? また頭とか痛い?」
「いや、我には何も問題はないのだがな。家主殿に屋内をうろつくときは顔を隠せ、と厳命されてしまった」
「へ?」
「……あのね、うちの従業員には若い子が結構いるんだよ。そこにアンタみたいなとんでもない美形を放り込んだら、ハチの巣突っついたみたいな大騒ぎになるのは分かり切ってるだろ? そっちの詩人さんが出入りするんだってわりかし大変なんだからさ」
「うう、申し訳ありません……」
「はっはっは、持てる者の宿命という奴よな」
正直に恐縮している詩人さんのとなりで、相変わらずご機嫌な元・ラスボスさんである。
このひとはダンジョンから戻った日からこちらに居候中で、名前はオズヴァルドというらしい。長いゆえオズで良いぞ、とあっさり愛称呼びを許してもらったため、みんなでそれに倣っているのだ。
このひと、今でこそあっけらかんとしてるけど、最初の日は寝たり起きたりでかなりしんどそうだった。何十年もアンデッドとして真っ暗な環境で暮らしていたため、燦燦と降り注ぐ明るい日光がツラかったらしい。
そこからちょっとずつ慣らしていって、数日が経つ現在では屋内なら自由に動き回れるようになった。みんなが差し入れした本を面白そうに眺めたりして退屈はしてなさそうで、ちょっと安心したわたしだ。
……ただシェーラさんが言ったとおりで、このひとのお世話係になりたいお姉さんたちが静かに激しく抗争を繰り広げているらしい、とフィアメッタから聞いたときはそれこそ『うへえ』って口に出たが。恋する乙女って強いなぁ。
そんな中、元気に飛んでった鳥さんがフェリクスさんの肩にちょこん、と着地した。もふもふの頭でほっぺにすりすりして懐きまくると、相手も嬉しそうに笑って軽く撫でてやっていた。
「ふふふ、おはようございます。名前共々よく似合っていますよ、リーシュ」
『ふぃっ♪』
「それ、実はみんなで考えたんです。この子たちには性別がないから、どっちでも違和感がないようにって」
いろいろと案が出た中から、わたしが公平にアミダで決定させてもらった。ちなみにこれは南にある砂漠の国で『綿毛』とか『羽毛』って意味らしい、とディアスさんに教わったものだ。可愛いし響きもきれいだからか、本人もお気に入りみたいで嬉しい限りだ。
「そういやさ、リーシュってしんどいのは吸い取れないの? 病気やケガが治せるんなら応用できないかな~」
「対象はあくまでも『身体に害のある、後から入り込んだもの』だからな。持って生まれたとか、本人が生み出した気の病とかいったものは守備範囲外だろうよ。いくらカラドリウスといえどもな」
いわゆる霊鳥の一種で、全ての母である創造神のお遣い、あるいは女神そのものの化身ともいわれる白い鳥だ。姿を見るだけで心身が楽になり、目を合わせた相手の病気や苦しみを吸い取って癒すとされるすごい生き物――
なのだがしかし、とにかく激レアすぎてあちこちで狙われまくったのと、定住しないというライフスタイルのせいでなかなか友達ができずにいたんだとか。今こうやってのんびり過ごせているのは、実は結構すごいことなのかもしれない。
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