デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第六章:

迷子の仔竜ちゃん④

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 満月の日の大騒ぎで、意図せずスコールくんが放ったお尻ぺんぺんによって大泣きしたイオンが言ってた『かかさま』。つまりお母さんなんだけど、落ち着いてから改めて話を聞いたら結構な事件だったのだ。

 さっきティノくんが言っていたように、海竜は時期が来ると南海に集まる。イオンたちも北から移動していく途中だったのだが、道すがらに人間の町に立ちよったお母さんと連絡がつかなくなってしまったらしい。

 しばらくひとりで待っていたイオンは、心配やら心細いやらで自分から探しにいくことにした。その際にたまたま天泪露が降っていて、吸い込みすぎて巨大化してしまったんだそうな。

 「しかし、イオンが母さんと別れたのってもっと北寄りのとこだろ? なんでうちにいるってわかったんだろうな」

 「はい、さっき聞いてみたんですけど……わかんない、って言ってました」

 「分からない? 覚えておらぬ、ということですか」

 「みたいです。誰かに教えてもらった気がするけど、ぼんやりしてて思い出せないって」

 怪訝そうに聞き返したショウさんに答えつつ、こちらも難しい顔をしてしまった。

 だってこれ、明らかにおかしいのだ。わたしだって小さい頃のことなんかろくに覚えてないけど、それは十年以上の時間が経っているからだ。

 赤ちゃんとはいえあれだけ賢くて、きちんとあいさつや説明ができるイオンが、ほんの何日か前のことをきれいに忘れているというのは不自然すぎる。ということは――

 「誰かが裏で糸引いてる、ってことよね。大方イオンをダシにして、お母さんに言うこと聞かせたかったとか、そんなとこでしょ」

 「じゃあやっぱりうちの街か、それに近いとこにいるんだね?」

 「たぶんね。少なくとも大怪獣上陸が見えるとこじゃないと、うまいこと脅しにならないだろうし。……ったく、あんなちっちゃい子に何やらせてんだか」

 腕組みして物騒に唸ったフィアメッタに全力で頷く。誘拐なんかするんだし元からろくな相手じゃなかろうが、見つけたら覚悟しとけよ。

 「町に立ちよったんなら、本性じゃなくて人間に変身してたんだろうな。いくら小型とはいえ竜族をそのまま運んで隠すのは難しいし」

 「そして今もそのまま虜囚になっている、と考えて良かろう。相手の目的が何であれ、助けは早い方がいい。可能な限り急ぐとしよう、各々がた」

 「『おー!!』」

 力強く言い切ったショウさんに、その場の全員が元気よくハモって答える。旅に出てすぐもあったなぁ、こういうやり取り。

 「そういやさ、年長コンビとオズさんは?今朝から会ってないんだけど」

 「朝イチで冒険者ギルドに行ったぞ。シェーラさんに頼まれて、花に降りた方の天泪露を届けるんだってさ。種類別に瓶詰めしてあってちょっと重そうだった」

 「ああ、なるほどね。あれ属性が合わない人だと、匂いだけで酔っちゃう時があるから」

 「やっぱり酔うんだ……」

 納得顔なフィアメッタの横で、先日のあれこれを思い出してうなずくわたしだ。ちらっと横目で見やったところ、実際に酔ったリーダーの目がやや泳いでいた。だからいいって言ってるのに。

 女将さんが言うには、天泪露にはいろんな使い道があるそうで。中でも花の咲いた植物に降りてくると、その薬効とか謂れとかに影響されてそれだけですごい効果のある薬草水みたいになる。魔法薬より効き目が穏やかで身体にも良いので、怪我人が担ぎ込まれることもあるギルドに一定数を寄付してるんだとか。

 「オズさんもさ、日中もお出かけ出来るようになってよかったよね。なんか安心しちゃった」

 「ホント。近いうちにどっか手頃な家でも探して移り住むとしよう、て言ってたし」

 「それはそれで残念がりそうだけどな、お姉さんたち」

 「……あの水面下の激闘が収まるんならなんでもいーわよ、あたしは……」

 のほほんと笑ったディアスさんの感想に、げっそりと疲れ果てた風情でフィアメッタがつぶやいていた。お疲れさまです。
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