デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

文字の大きさ
151 / 379
第七章:

ナイトガウンを着た悪魔②

しおりを挟む

 「……参ったな。よりにもよってこのタイミングで呼び出しか」

 「ついてないね、あっちもこっちも。殿下、どうします?」

 「まだそうと断じる段階ではない……が、方針だけでも決めておくとしよう」

 ため息交じりでつぶやくのにりっくんが軽く返すと、レオナールさんはかぶりを振ってからうなずいてみせた。さっきちらっと見えた困ったような翳りはますます濃くなっている。どうしたんだろうか。

 「あの、殿下? なにかまずいことでもあるんですか」

 「……今すぐ、というわけではないが。明日の晩までに戻ってこられなければ、少々困ったことになる」

 そういって、テーブル越しにわたしの正面に座っている殿下が教えてくれたところによると。わたしや『紫陽花』のみんなが心配したように、元パーティのメンバーも同じことを考えていたらしい。早い段階で黒幕側から妨害が入って、不測の事態が起こりまくるのはないか、と。なので、

 「日頃からこの離宮を管理しているのは、ヴァイスブルクの領主たるベルンシュタイン公爵だ。彼らは元々王室の分家だが、特に今の当主は現国王のご兄弟でな。一時的に敷地内における全権をマクシミリアンに委任していただけないかと打診をしていた」

 「全権……って、つまりりっくんが起動させたバリアごと、グローアライヒの王子様が操作できるようにするの?」

 「そういうこと。こっちとしても馬鹿正直に魔王再臨なんぞさせねぇつもりだが、万が一ってことがあるからな。打てる手は全部打っとく手筈になってる」

 バリア内権限を委譲されると、そのオンオフおよび結界内の様々な仕様を状況に応じて即座に切り替えられる。もしものことがあって黒幕の思うツボになったとしても、バトルエリアになる離宮内をこっちが仕切ることができれば大分状況は変わってくるはず。

 「僕が許可されたのは正面の鍵を開けることと、防御のための結界を展開させることだけ。そこまでは代理でも十分だけど、実際に内部をいじるってことになれば話は別だ。どうしたって王家、もしくは近しい血筋の誰かに協力を仰がなきゃならない」

 「うーん、そこんとこがめんどくさいよなぁ。よそんちを使わせてもらってるようなもんだから、家主側のルールに則るのは当たり前だけどさ」

 「手順が煩雑なのは防犯の為でもありますから……幸い王太子殿下にも、公爵殿にも快諾を頂けました。お二方とも、名実ともに立派な王族でいらっしゃいますね」

 ほおをかくディアスさんのはす向かいで、穏やかに言い添える詩人さんである。この口ぶりからすると、直接二人に会ったことがあるんだろうな。

 てことは、だ。誘拐犯からの情報が正しいとすると、何かが起こる可能性が一番高いのは明日の晩。少なくとも新月が昇る(って言っていいのかわからないが)までに、離宮の結界内を統括できるマクシミリアンさんが戻っていないと、わたしたちの側が不利になる可能性はかなり高い、と。……今更だけど、それかなりヤバいのではなかろうか。

 (本編中でもさんざん苦労したもんな~~~……正直、神様から光魔法を授かったリュシーが頼みの綱ってとこがあったし)

 もはやRPGのお約束と化した、若干使い古した感じすらある、とにかくラスボスにして諸悪の根源。『エトクロ』世界に出現し、ゲームのシナリオ内で激闘の末に封印されたのも、そんな魔王様の一体だった。やたらとHPが多い上に大火力の攻撃を誇り、しかも『光』意外の全属性を併せ持っててめちゃくちゃ防御がカタいという、プレイヤー泣かせのトンデモ性能を誇っていたっけ。

 やり込む中でだんだん真面目にバトルするがめんどくさくなってしまい、全キャラのレベルをカンスト&最強武防具&各属性の高レベル魔法を覚えまくる、という、情け容赦ないフルスロットル編成にしたらわりかしサクッと倒せるようになったけど――て、そんなことは置いといて。

 「事前に、どれほどの脅威が迫っているかをよくよく承知の上で決断されたのでしょう? 王家は誇り高き武門の家系と聞き及びます、ならばきっと戻られましょう。……どのような用向きで帰還なされたかが分からぬゆえ、確かなことは申せませんが」

 「いや、ありがとう。彼の律儀さは私も良く知るところだ、間に合うと信じて待つことにしよう」

 こちらも誠実さにかけては負けてないショウさんがフォローすると、殿下の目元がふっと和んだ。もしかしたらお友達とちょっと似てるな、と思ったのかもしれない。

 「ただ、何が起こるかわからないというのは確かだ。夜番に立つものは必ず複数で、休むものも単独での就寝は控えてくれ。……ええと」

 「はい?」

 「うん、イブマリーには。連れて来られた魔法生物がよく懐いているようだから、一緒に休むといい。彼らも落ち着くだろう。…………すまない、とっさに出てこなかった」

 「ふふふっ、大丈夫ですよ。ぜひそうさせて下さい! ねっティノくん、リーシュ」

 『はーい、お任せー!』『ふぃーっ』

 新しい方の名前をがんばって呼んでくれた殿下、ほんと良い人だ。思わず笑顔になったわたしといっしょに、うちの霊獣さん達がひざと肩の上から元気よく返事をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど

有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。 私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。 偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。 そして私は、彼の妃に――。 やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。 外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

処理中です...