デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第七章:

地獄(ゲヘナ)より愛をこめて⑧

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 「――それでリュシー、何でこんなことになってたか聞いてもいい? どういういきさつで瓶なんかに閉じ込められてたの」

 「はい、もちろんです。アンリさんにはちゃんと知る権利がありますから」

 また泣き出したらどうしようとこっそり心配してたんだけど、主人公はきっぱり即答してくれた。この芯の強さ、さすがは世界のピンチでも心が折れなかっただけある。カッコいいなぁ。

 「アンリさんの乗った馬車が崖から落ちた、って知らせを受けてから、一週間も経たない頃でした。あのときはまだリックたちが帰っていなくて、私も殿下もずっと落ち込んだままで……今にして思えば、その隙を突かれてしまったんですね」

 悔しそうなリュシーが言うには、そんなときに休んでいる部屋にやって来た侍女のひとが言ったらしい。お風呂に入るのは辛いだろうし、お湯で顔だけでも拭いたら気分が良くなりますよ、私はお髪を整えましょう、と。

 「タオルを顔に当てて視界が塞がったとたん、こっち側の髪を切られて。とっさに飛び退いたら、すごく怖い顔をしていて」

 そんな状況でも辛うじて冷静さを失わず、何者だと聞いたリュシーに対して、相手は怖い顔のまま口元だけつり上げて笑みらしきものを浮かべると、こういった。

 『あたしはあんたになりに来たのよ、リュシー・プリマヴェーラ!』

 「私うっかり、なんですって、って聞き返してしまって、そしたら瓶に吸い込まれて……自分ひとりで危ないことはするなって、あれほどみんなに言われてたのに」

 「いいんだってば。つまり侍女さんのふりしてたとはいえ、王城に普通に出入りできる身分の人なのは間違いないわけね」

 「はい、多分……あっ」

 しかし名前を呼ばれて返事したら吸い込まれるって、西遊記に出てくる瓢箪みたいだな……

 わたしがそんなのんきなことを考えていたら、急にリュシーが顔色を変えた。ただでさえ近かった距離をさらにずいっと詰めながら、

 「そういえば瓶の中で聞きました、アンリさんが先に生まれたから王太子の婚約者になり損ねたって! だから魔王を呼び出して、大事な人たち共々消してやるって……!」

 「 あーうん、わたしも面と向かって言われた。暦をいじってどーのこーのって」

 なんでそんなのにこだわって人生棒に振っちゃうんだろうなぁと、いたって庶民的感覚で思ったりする中の人である。リュシーには絶対言えないけど王太子妃、そしてゆくゆくは王妃様なんて、一生ずーっと肩ひじ張って生きてかなきゃならない立場に好き好んでなりたいと思う心境がよく――

 ……いや、ちょっと待てよ? いま何か、非常にまずいものが視界の端に入ってこないだろうか。具体的には夜空に居座って、ペンキでも塗ったのかと思うくらい派手な赤い光を放ってる、あれ。

 「……こっちの魔王って、赤い月が出てるときに封印されたって言ってた!?」

 「はいっ!!」

 「うわっヤバいじゃん!! だいぶ時間たった気がするけど、みんな大丈夫かな!?」

 「――だいじょーぶよ、多分」

 今更ながら現状を把握してあわててたら、見事真犯人を仕留めたフィアメッタがひょっこり顔を出した。軽く肩なんか回しながら、

 「そっちのリュシーさんはもちろんだけど、あんたも大っ概みんなに大事にされてるからね、イブマリー。……まああたしもひとのこと言えないんだけどさ」

 「さっきの爆発見てめっちゃ焦ったみたいだねー。いますごいことになってるよ!」

 「「はい??」」

 どこか照れくさそうな精霊使いさんと、いつにも増して楽しそうなリラの言葉にそろって首を傾げる。

 そんなわたしたちの耳に、やたらめったら物騒な戦闘音が届いたのは、ちょうどそのときだった。
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