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第二章:

ティールームで昼食を④

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 ちなみにお邸に来ているのは、わたしとスコールくんを含めた『紫陽花』のメンバー、殿下、りっくんの八名。アルバスさんは堅苦しいのは苦手だ、って辞退したし、フェリクスさんはそもそもバザーでの演奏から戻って来れていない。

 マックスさんも別に用事があって来てて、それが済んだらとんぼ返りしないといけないからということで、叔父さんでもある公爵さん宛てのお手紙を預かっている。

 ゲームのシナリオ中でも多忙を極めていたレオナールさんを見ていたから、一応知ってたけど……王子様って大変だ、うん。

 (……それにしても、食べやすいお料理でよかったなぁ。ありがとう公爵さん)

 手元に取り分けてもらったキッシュをフォークで切って口に運ぶ。ポテトとチーズとベーコンと、あとなにかのハーブが入っていていい香りがした。

 もちろんとってもおいしいわけで、夢中でもぐもぐやっていたら、頭の中でふふふっと軽やかな笑い声がする。あ、これは、

 《多分ローズマリーね、いかにもハーブっていう香りがするでしょう? こちらのお料理にはよく使われるのよ》

 (ああ、そういう名前なんだ。……アンリさんは何か食べたいのある?)

 《あらっ、ありがとう! そうねぇ、糖蜜のパイは絶対に外せないと思うわ。食事の最後に紅茶と一緒にいただいてもよろしくて?》

 (はーい、了解です)

 こちらも相変わらずご機嫌なガワの人に、心の声で返事しておく。そっか、ライバルは甘党って設定だったもんなぁ。デザートの分のお腹は必ず残しておこう、そうしよう。

 王侯貴族の人たちが知り合いを招いてやる食事会っていうのは、お互いの情報を交換する社交の場だ。もっと大規模で分かりやすいのは、夜になってからやる晩餐会、もしくは舞踏会とかの、人がたくさん集まる場所。礼儀作法に則って優雅に踊ったりおしゃべりしたりしつつ、財界政界での横のつながりを作っていくのである。

 特にお昼の集まりは、外とのお付き合いを大切にする奥様とかお嬢様にはとっても大事――なんだけど。今回のは、そういうのとはちょっぴり雰囲気が違っていた。

 「スコールくん、おいしい? よかったね、好きなのあって」

 「はい、ほんとに……おれ、きつい香辛料とかは食べられないので、とてもありがたいです」

 しみじみとつぶやいて、隣に座っている星守さんはお皿に目を落とした。

 これもまた大皿から取り分けた鳥肉の照り焼きで、添えてあるハーブが爽やかに香っている。ニワトリにしては少し色が違う気もするけど、何はともあれとってもおいしそうだ。次はわたしも取ろうっと。

 ひと通りあいさつがすんだ後、勧められてついた大きなテーブルにどんどんお料理が運ばれてきたんだけど。いわゆるフォーマルな場で食べるようなコース料理ではなくて、大皿に一品ずつ盛り付けてあって好きなのを取って食べる形式――つまり、食べる順番とか細かい作法とかを気にしなくていいようにしてくれていたのだ。

 社交慣れした一部メンバー以外のメンツが、ものすごく安心した顔をしたのを覚えている。うんうん、ウワサに聞いてはいたけどホントに良い人だなぁ、公爵さん。

 「世界中の貴族の人たち、みんな公爵さんの爪のアカ…………ごほん、ちょっとは見習ってくれればいいのに」

 「「うんうん」」

 危うく食事中には相応しくない例えを出しかけて急いで誤魔化す。スコールくんと反対側に座っている女子コンビが、全く同時に深々とうなずいてくれた。ですよね。
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