デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

文字の大きさ
218 / 379
第三章:

断章④

しおりを挟む





 「……消えた? クロウフットの一族郎党、すべてがか」

 ヴァイスブルクの離宮。その中に位置する借りものの執務室で、レオナールは思わず部下の報告を復唱していた。

 相も変わらずあまり驚いたように見えないが、仕えて長い侍従たちには動揺ぶりがよく分かる。この王太子殿下の情報処理能力はずば抜けている、常日頃であれば、一度耳にした内容を聞き直したりはしない。

 「はい、少なくとも王都の別邸については。私の独断で、その場で部下を西部領へ起たせました。……申し訳ありません」

 「昨日の今日だ、そう遠くへは行っていまい。――ルーク、後手に回ったのはおれも同じだ。気に病まなくていい」

 本当にふがいない、と、頭を垂れた臣下を前に奥歯をかみしめる。アンリエットのことといい、今回の件といい、自分は人を困らせてばかりいる。本来ならば、こうならないように立ち回るべきなのだ。

 しかし悔しがってばかりもいられない。何せ未だに昏倒している下手人と、その親族に事情聴取しないことには、裁くにしても情報が足りなさすぎるのだ。

 リュシーたちがいうには、アシュリーはアンリエットの方が先に生まれ、なおかつ家格が高いという理由だけで妃候補におさまったと妬んでいたようだが、それは事実ではない。少なくとも、自分が聞いていたいきさつとは異なっている。

 「王都近郊に本拠を構える貴族たちは、王家も含めてたいてい親類縁者だ。近い血筋で婚姻を繰り返すことは避けねばならない。無論、本人の資質も重要なんだが」

 実はクロウフット家からは二代前、レオの祖父に姫君が嫁いでいる。ついでにアシュリーは幼少時は身体が弱く、遠い都まで出向いての妃教育は無理だとの医師の診断もあって、あちらからの辞退となったのである。無論、父親のケネス本人が、待望の我が子をたいそう可愛がっていた、ということもあるが。

 「その経緯を当人が知らない、とは考えられないが……どこかで行き違いがあったというのが、今のところは妥当な線か」

 「――失礼いたします! 蝋人形の解析が終了いたしました」

 考えをまとめているところへ入ってきたのは、近衛騎士の装束をまとった長身の青年。言わずと知れたリックである。今は執務中ゆえ、話し方も臣下としてのものだ。この辺りは心得たもの――と、

 「よし、人払いしてるね? ちょっと話したいことがあるんでいつもの口調にしますよ、あールークさんも一緒に聞いててください!」

 「? ああ、構わないが……どうかしたのか」

 「しましたよ! っていうか何なんですかこの成分表、あり得ないものばっかり入ってますよ!?」

 いつも落ち着いている彼にしては珍しく、早口で言いつのって手にした紙の束を押し付けてくる。受け取って目を通すと、相手の言いたいことはすぐわかった。

 「……『紫陽花』の皆は」

 「例の養蜂場です。もう引き上げてるかもしれませんけど」

 「それなら良い。……が、万が一不測の事態に陥っていたら」

 「了解です、ちょっと行って見てきましょう!」

 皆まで言わずとも意思を汲んで、すぐさま踵を返して部屋を出る。どうか何事もないようにと、祈らざるを得なかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど

有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。 私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。 偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。 そして私は、彼の妃に――。 やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。 外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...