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第三章:
断章④
しおりを挟む「……消えた? クロウフットの一族郎党、すべてがか」
ヴァイスブルクの離宮。その中に位置する借りものの執務室で、レオナールは思わず部下の報告を復唱していた。
相も変わらずあまり驚いたように見えないが、仕えて長い侍従たちには動揺ぶりがよく分かる。この王太子殿下の情報処理能力はずば抜けている、常日頃であれば、一度耳にした内容を聞き直したりはしない。
「はい、少なくとも王都の別邸については。私の独断で、その場で部下を西部領へ起たせました。……申し訳ありません」
「昨日の今日だ、そう遠くへは行っていまい。――ルーク、後手に回ったのはおれも同じだ。気に病まなくていい」
本当にふがいない、と、頭を垂れた臣下を前に奥歯をかみしめる。アンリエットのことといい、今回の件といい、自分は人を困らせてばかりいる。本来ならば、こうならないように立ち回るべきなのだ。
しかし悔しがってばかりもいられない。何せ未だに昏倒している下手人と、その親族に事情聴取しないことには、裁くにしても情報が足りなさすぎるのだ。
リュシーたちがいうには、アシュリーはアンリエットの方が先に生まれ、なおかつ家格が高いという理由だけで妃候補におさまったと妬んでいたようだが、それは事実ではない。少なくとも、自分が聞いていたいきさつとは異なっている。
「王都近郊に本拠を構える貴族たちは、王家も含めてたいてい親類縁者だ。近い血筋で婚姻を繰り返すことは避けねばならない。無論、本人の資質も重要なんだが」
実はクロウフット家からは二代前、レオの祖父に姫君が嫁いでいる。ついでにアシュリーは幼少時は身体が弱く、遠い都まで出向いての妃教育は無理だとの医師の診断もあって、あちらからの辞退となったのである。無論、父親のケネス本人が、待望の我が子をたいそう可愛がっていた、ということもあるが。
「その経緯を当人が知らない、とは考えられないが……どこかで行き違いがあったというのが、今のところは妥当な線か」
「――失礼いたします! 蝋人形の解析が終了いたしました」
考えをまとめているところへ入ってきたのは、近衛騎士の装束をまとった長身の青年。言わずと知れたリックである。今は執務中ゆえ、話し方も臣下としてのものだ。この辺りは心得たもの――と、
「よし、人払いしてるね? ちょっと話したいことがあるんでいつもの口調にしますよ、あールークさんも一緒に聞いててください!」
「? ああ、構わないが……どうかしたのか」
「しましたよ! っていうか何なんですかこの成分表、あり得ないものばっかり入ってますよ!?」
いつも落ち着いている彼にしては珍しく、早口で言いつのって手にした紙の束を押し付けてくる。受け取って目を通すと、相手の言いたいことはすぐわかった。
「……『紫陽花』の皆は」
「例の養蜂場です。もう引き上げてるかもしれませんけど」
「それなら良い。……が、万が一不測の事態に陥っていたら」
「了解です、ちょっと行って見てきましょう!」
皆まで言わずとも意思を汲んで、すぐさま踵を返して部屋を出る。どうか何事もないようにと、祈らざるを得なかった。
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