デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第四章:

野バラを摘んだらごはんにしよう⑧

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 ほぼ同時に生け垣が揺れて、花の間から人影が――じゃなくて。なんと、バラの茂みそのものがふわっと左右に分かれたのだ。

 まるでスライド式のドアみたいに開いた向こう側は、周りと全然違っていた。今まで歩いてきた明るい庭園と正反対の、背の高い木が生い茂る鬱蒼とした森の中だ。

 ところどころ差し込む日の光に照らされて、青いベルの形をした花が咲いているのが見える。たまにちらりと飛んでいく、蛍のような光が幻想的だった。童話に出てくるような風景だ。

 でも、何より驚いたのは。

 (うわあ、エルフだ!!)

 突然現れた森の中、静かに立っていたのは、それはもうすばらしく綺麗な女のひとだった。

 きらきら輝く――たとえではなく本当に、内側から星みたいに光っている白金の髪。こちらも淡い光を湛えて煌めく蒼い瞳。降ったばかりの雪のように真っ白な肌。

 顔立ちや姿かたちの整い方については、わたしの語彙力では到底表現できないレベルだ。髪からのぞくピンと尖った耳が、このひとがファンタジー界で最も有名な種族であることを教えてくれていた。

 『エトクロ』の世界にはさまざまな種族が住んでいて、シナリオの中で頼まれごとをしたり、逆にこちらから頼みごとをしたり、協力して事件を解決するイベントがたくさん存在する。

 でもエルフはもともと数が少ない上に、森の奥からつながる異界に引きこもっているという設定だった。そのせいか、メインストーリーにもサブクエストにもほとんど登場せず、プレイしていてちょっぴり寂しかった覚えがある。

 それがまさかこんなところで直接会えるなんて、人生捨てたもんじゃないな! いやー、変則転生しててよかった!!

 が、しかし。

 「って、うわあ!? なんで泣くのー!?」

 『きゃー! おねーさんだいじょーぶ!?』

 『……っ』

 わたしがいてよっぽど驚いたのか、目を丸くしてこっちを見た次の瞬間。綺麗な瞳からぽろっ、と結構な勢いでこぼれ出たのは、どう考えても涙の粒だった。突発事態に仰天しながら、どうにか泣き止んでもらおうと話しかける。どうしよう、助けてガワの人!!

 《いえ、そんなこと言われても……ああほら、大丈夫よ。もう落ち着きそうだから》

 (えっ? ……あら、ほんとだ)

 困った声で通信が入った直後、エルフさんがやっと身動きした。動かしたら壊れそうなほど繊細な両手を上げて、目元と頬をいそいそと拭う。どうにか笑顔らしきものを浮かべて、バラの花びらみたいな薄紅の唇で返事をしてくれた。

 『ご、ごめんね。びっくりさせて申し訳ないわ。……よく知ってるひとに、あんまり似てたから。驚いてしまって』

 「そ、そうなんですか? ホントに平気?」

 『うん、もう大丈夫。ありがとう、貴方たちもね』

 『わあーい』『ふぃっ♪』『こんこん』

 ふんわり淡いけど、さっきよりはマシになった笑顔でそういってくれるエルフさんだ。綺麗な手でもふもふ優しくなでてもらって、ティノくんたちが嬉しそうにしている。

 ……今更いうまでもないことだけど、彼らは恐ろしく長生きだ。そのお知り合いが人間だった場合、すでにお亡くなりになってる可能性が高い。そりゃあ二度と会えない仲良しのひとそっくりなのがいたら、びっくりして涙も出るだろう。ううむ、間の悪い時に居合わせてしまった。
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