258 / 379
第四章:
彼女(イブ)についてワタシが知ってる二、三の事柄④
しおりを挟む憤懣やるかたなしという表情で、フィアメッタが語ったところによればだ。
離宮の高台ダンジョンを攻略して数日たった頃、回復したイブマリーは商会の中庭で掃き掃除をする女子コンビを手伝っていたらしい。お世話になっているのだから、出来る範囲で商会の雑事を手伝う、というのは、パーティ全員で決めたことだ。
世話をしてもらうのが当たり前の身分だったにもかかわらず、『それいいですね!』とあっさり受入れて参加表明した彼女は、やっぱり世間一般からするとご令嬢らしくない感覚の持ち主なのだろう。まあそれは置いといて、
「あたしはリラと落ち葉掃いてて、量が多かったから一回捨てに行ったの。で、戻ってきたらイブマリーは店の方に移動してて、かーさんがホウキへし折りかけてた。両手で」
「……えっ、マジで?」
「庭用のホウキって、柄が竹だからかなりしなるんじゃ……」
「マジよ。幸いばっきり逝く前に止められたけど。……で、何とか落ち着いたとこで話を聞いたらね」
なんでも、女将もまた『紫陽花』メンバーと同じことを思って感心したのだそうで。皆の前だと照れくさいだろうと、二人きりになったときを狙ってほめたのである。こんなに出来たお嬢さんがいるなんて、ご両親も鼻が高かろうね、と。すると、
『あ、ありがとうございます。……父はその、ちょっと微妙なんです、けど……』
「あからさまに目が泳いでたし、気になって少しだけ突っ込んで聞いたらしいのよ。そしたらなんて言ったと思う!?
あの子、毒を盛ったって疑われてすぐ追放が決まったけど、実家からは何にも助けてもらえなかったらしいわ。普通ならもっと調査しろとか、面会させてくれとか言うじゃない? そんなのまるっきりなくて、判決が決まった次の日には勘当されたって!」
「ええー!?」
場所が場所なので出来るだけ落ち着いて話そうとしたのだが、どうしても口調が荒くなる。感情のセーブが出来なくなっている証に、フィアメッタの周りで陽炎のように空気が歪んでいるのが見て取れた。召喚の意志がないのに、エルドの炎がこっちへ現出しかけているのだ。
もっともそれは、今初めて話を聞かされた他メンバーも同じだったが。
「そりゃひどいな……貴族の人は外聞が大事っていうけど、話も聞かずに縁切るか? 普通」
「イブがおうちのこと話さないはずだよ! 当主っておとーさんだよね、なんでそんな冷たいの!? 若旦那、なんか知ってる!?」
「……、火に油を注ぐゆえ、あまり口にしたくないのだが……どうにも必要以上に、家柄や体面というものを気にされる御仁らしい。婚約破棄された時点で、自分は実家にとって不良債権のようなものだと、イブマリー嬢が」
「――そんなわけ、ないじゃないですか!!!」
口々に言いあう中、一瞬雑踏が静まり返るほどの怒号が響いた。声の主は言うまでもない、先ほどから黙って……いや、衝撃で言葉が出てこなかったであろうスコールだ。こちらも激昂するあまりか、両眼が生得魔法を使うときのような黄金色になっている。
「あの人の価値はそんなことで下がったりしません!! いろいろ入り組んでたから、本当の事情は解らなかっただろうけど!! でも、そんなことをする子じゃないって信じることは出来るはずです!! そのひと、本当に実の親なんですか!?」
「あーっ、わかったわかった! あんたの言いたいことはよーくわかったから!!」
「す、スコールくん、ちょっと落ち着こう! 頭の血管切れちゃうよっ」
「おれは落ち着いてますっっ」
「……そっか、獣人族って仲間同士、情に篤いからなぁ。よしよし」
「不用意に耳に入れて悪かった。ほら、春ウサギも心配しているぞ」
『きゅうー』
「う゛うううう~~~」
他のメンバーから一斉になだめられ、ついでに半ば押し付けられた春ウサギにももふもふ頬ずりされ、顔をくしゃくしゃにしてうなる少年だ。
彼も星降峰の一件で助けられて以降、イブマリーに大層なついている。その相手が理不尽な扱いを受けたとなったら、義理堅いスコールの性格からしてこうなるのは目に見えていたことだった。
しかしながら、話はそこで終わらなかったのである。
『……案外、スコールの言ったことが当たってるかもしれないわ。あの子には強い呪いがかかってるから、他の人にばれる前に手放したかったのかも』
ぽつん、と。独り言めいて放たれたエラのつぶやきに、全員が勢いよく顔を上げた。
11
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど
有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。
私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。
偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。
そして私は、彼の妃に――。
やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。
外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる