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第五章:
仄暗い夜の底から①
しおりを挟む公爵邸に正体不明の黒い物体が出現したのと、ほぼ同刻。ヴァイスブルクは各所で混乱に見舞われつつあった。
「なになに!? なんか急に暗くなったよ!!」
今まさに移動の真っ最中だった『紫陽花』一同と年長者二人は、とっさに立ち止まっていた。ちょうど公設市場を抜けて市街地へ戻ってきたところで、辺りが黄昏時のごとくすうっと闇に沈んだのである。まだ日暮れまではかなりの時間があるというのに、だ。
「……日蝕か? いや、でもシェーラさん、何も言ってなかったよな? 忘れてるわけないし」
「あったり前でしょ! 日蝕月食は魔法素材が山ほど採れるんだから、かーさんが取りこぼすわけないわよ!!」
「な、なんかこの黒いの、ものすごく気持ち悪いです……!」
口々に言い合う中、最も感覚の鋭いスコールが真っ青になって呟いた。普段はぴんとしている耳が完全に寝ていて、逆に尻尾はいつもの倍以上に膨らんでいる。本能で危険を察知しているようだ。
その背中をさすってやりつつ、いつもであればイブマリー嬢が真っ先にするところだなと思いを馳せたショウは、軽く頭を振って思考を切り替えた。彼女なら、この街でも一、ニを争うほど安全な場所にいる。今はこちらのことに集中しなければ。
「であれば、何らかの魔術か魔物の仕業という可能性が高いな。ひとまず商会に引き返して――」
どごおおおおおん……!!
皆まで言い終えないうちに、爆音が空気を震わせた。とっさに全員で振り仰いだ先に、山の手の邸街がある。その上空を高速で飛び回る、巨大な何かの姿があった。
「なんでドラゴンまで飛んでるのー!?」
「……あー、多分公爵さんだわ。現役時代は腕のいい召喚士だったんだって、かーさんから聞いた」
「じゃあ、いきなり街を襲ったりはしないな。よかったー……って、うげっ」
「すかさず安心すんじゃねえ愚弟。さっきの爆音聞いたろうが、ありゃ様子見で飛んでるんじゃない。明らかに目標を狙って迎撃する動きだ」
「マジで!? アニキとアニキのおにーさん、なんか見える!?」
「さっきからやってるんだがな……この黒いの、透視の術を阻害するらしい。イマイチよくわからん」
「み、右に同じく……」
フェイスロックをかけた弟共々渋い顔のアルバスだ。その表情もどんどん濃くなる闇の帳越しで、いまやはっきり見えない状態だった。
しかし、ということは、だ。
「それじゃ、お邸でもなにかあった、ってことでしょうか? イブマリーさんと公爵さんが……!」
「我らの先達だ、そうそう後れを取ることはないと思うが……
よし、ここから二手に分かれよう。自分とディアス、スコール、アルバス殿は公爵邸へ向かう。後の者らは」
「うちに寄ってから離宮に行くわ。りっくんと王子様がいるから平気だとは思うけど」
「そんじゃフェリクスさんもこっちね! こんな中じゃ移動するの大変だろうし」
「お気遣いありがとうございます。エラさんと春ウサギさんは」
『それぞれのグループについてくわ。先導のスキルが役に立つかも!』『きゅう!』
「相分かった、かたじけない。――では各々方、散開!」
「「「「おー!!!」」」」
いつもより一人少ない鬨の声が上がる。戸惑いざわめく街の人々の間をすり抜けて、『紫陽花』の面々は目的地へ移動を開始した。
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