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第六章:
私を夜明けへ連れてって④
しおりを挟む思わずこぼれた、といった感じのアンリエットの声と、あからさまに焦ったおっさんの声と、――ついでに何かがどこかで立てる、ずごごごごご、という地鳴りのような音がしたのが、ほぼ同時だった。よし、上手くいった。
世界樹。ファンタジーものと銘打ったゲームとかマンガとかには高確率で登場し、神樹と訳されることもある。元々は北欧の神話に登場する、世界を支えるとんでもない大木の名前だ。根っこはあの世に通じてるとか、梢にこれまた巨大な鳥が棲んでいるとか、いろんな言い伝えが存在する。
無論『エトクロ』にも登場するのだが、元ネタとはちょっとだけ設定が違っていた。親樹はこの世とは別の世界、いわゆる幽世に生えていて、何百年かに一度ひとつだけ実をつける。赤ちゃんの頭くらいある真ん丸の木の実なんだけど、発芽させるための条件がけっこうめんどくさいのだ。
「旅の途中で拾って育てた時、ほんっとーに大変だったんだからね? なんせ殻が固すぎて、ある程度外から割ってあげないと芽吹かないし、水や肥料の代わりに瘴気吸って育つし、育ち始めたら始めたでものすごい勢いで伸びてくるし。まあ何とかしたんだけどさ、リュシーが」
「き、貴様、そんなものをどこで手に入れた!? あの小娘が育てたのなら、あと数百年は現れんはずだろうが!!」
「だから、あんたが知らないことなんて山ほどあるんだってば」
呼ぼうと思ったら呼べてしまったので、実際どこから出てきたかはわたしにもわかんないのだが……その辺は言わない方がカッコいいので、あえて黙っておくことにする。種育てイベントを通っとくと後が楽だから、必ずやるようにしといてよかった!
何かとんでもなく大きなものが、地面のすぐ下で暴れ回っているような振動が伝わってくる。持っているロッド以外には明かりがないのに、今立っているところが下から押し上げられるみたいに、どんどん形を変えていくのが分かった。おっさんから目を離さないようにしつつ、タイミングを計っていると、
《――イブマリー、跳んで!!》
どっばああああああん!!!
「ぎゃああああああ!?!」
「だ~~~~~っっ!?!」
凝って澱んだ闇を切り裂いて――違った、内側から爆破するくらいの勢いで突き破ってきたのは、目にも鮮やかなエメラルドグリーンの葉っぱだった。いや、瑞々しい葉っぱがこんもり茂った、わたしの胴体ぐらいはあろうかという太い枝だった。
「のをおおおおおお……!!」
「…………う、うわあー」
アンリエットに号令をかけられて、とっさに飛び退けて良かった。逃げ遅れたジョナスのおっさんは、飛び出してきた世界樹の枝が顔面を直撃して吹っ飛んでいってしまった。後から後から伸びてくる枝葉が、なおも容赦なくばしばしぶち当たっては遠くへ連れ去っていく。
……わたしがやらかしたこととはいえ、ほんのちょこっとだけ気の毒かもしれない。
《ほらイブマリー、ぼうっとしないで! 狙ってこの樹を呼び出したんだから、ちゃんと理由があるんでしょう?》
「そ、そうでした」
この樹は瘴気、つまり宵闇の精霊を呼び出す魔術とか、そのために使う魔力の気配を追いかけて育つ。それを全部吸い取って、その場を浄化し尽くすまで止まらない。だけど、そのあとは普通の樹と同じく、太陽の光を必要とするようになるのだ。つまり、
「この樹が大きくなれば、ここの空間もどんどん小さくなる。枝につかまっとけば、そのうち外に出られる可能性が高い、です!」
《お見事! では早速行きましょう!》
「はーい!!」
伸びていく枝葉の群れに、落っこちないようにしっかりしがみ付く。果てなんてないように見える闇の中、世界樹の若木は外を目指してどんどん成長していった。
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