デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第七章:

おめざめですか、イブマリー③

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 「私はね、グローアライヒの南側――大きな森が広がる土地で生まれたの。昔々、エルフ達と親しく行き来があった頃は翠緑の森と言ったそうだけど……あんまり鬱蒼としているから、地元では常闇の森と呼ばれていたわ」

 ベッドサイドにあった椅子に腰掛けて、ユーリさんが話してくれたところによると。遙か昔、そうやって仲良くしていた頃には、異種族同士で恋をして結ばれたひとたちもたくさんいたそうだ。その多くは時代が下るにつれて、何処に行ったか分からなくなったけど、中にはずっと同じ場所で暮らし続けた一族もいた。そのひとつが、

 「私の実家。森を含めた土地を管理する、まあ地元の名士みたいな感じ? レディアントでは郷士ジェントリーと呼んでいるそうだけどね。……で、私のひいお祖母様の妹さん、だったかな。両親とも人間だったのに、生まれたときからエルフの特徴を持ってたんですって」

 「えっと、先祖返りってこと?」

 「そう、まさにそれ。よく知ってたわね」

 思い当たって口に出したところ、話をぶった切ったにもかかわらず褒められてしまった。ちょっと嬉しい。

 話を戻すと、そんな状況では下手すれば不義密通を疑われるところだが、幸いそういうこともなくて済んだ。エルフの集落との行き来は、ユーリさんの実家の当主がカギを護るゲートを使っていたし、そもそもやり取り自体がなくなって久しかったせいだ。……ただし、その子が普通に暮らせたかというとそうじゃなくて、

 「だってエルフの美貌と莫大な魔力よ? 風の噂で知った方々の有力者から縁談が押し寄せて、脅迫まがいのことまでされたって言うから、これはヤバいと腹を括ったんでしょうね。一家総出でその子を、妖精の世界へ逃がしたんですって」

 その後はご先祖と同じ種族と暮らしながら、魔力のコントロールを身に付けて、ときどきは実家に顔を出しながら平和に過ごしたらしい。良かった、平和なオチで。

 「それでまあ、エルフって長生きだから数百年前のことでも昨日扱いだし、排他的だけど身内っていうか同族にはとことん甘いし。また同じことがあったら遠慮なく頼りなさいって言ってもらえて。
 そんなわけで先祖返り二例目だった私は、わりと小さい頃から常世と現世を行き来して育ったわけ」

 エルフでありながら人間の血縁者を持ち、なおかつ妖精として専用の通路――《妖精の道》を自由に操れる。だからどちらの世界にいても平気だし、その気になれば別の国にだって行けるんだとか。

 「はー、対処法が確立されてるって大きいですよね……」

 「うん、本と。だからイブマリーが魔法が得意なのは、多分主に私の影響かなあと」

 「なるほど。納得しました」

 《そういうことだったのね……》

 同年代では随一、と言われていた魔法の威力は、画面越しとはいえ何度も体感している。それに『エトクロ』の設定では、エルフ族は自然を愛し共に生きている=動植物全般の味方、ということで、いろんな生き物に慕われていた。ペナルティでほとんどの魔法を封じられた状態でも、ティノくんたちがついて来てくれたのに符合するんじゃなかろうか。脳内でガワの人もすんなり納得してるしね。

 「で、よ。いつまでもお世話になりっぱなしなのも申し訳ないし、幸い魔法はひと通り使えたから、十六歳のときに独り立ちして冒険者になったのね。ヴァイスブルクのギルドに来て、たまたま同じ時期にデビューしてたエルたち五人とパーティを組んだの。それこそ本人やシェーラから聞いてるだろうけど」

 「はい。とっても仲が良かったし、いろいろ勉強にもなったって」

 「うん、そうね。いい経験だったと思うわ。……ただね、ずうっと一緒にいた分、山ほど迷惑もかけたんだけど……」

 「――何だ、まだそんなことを言ってるのか? 水臭いぞ」

 「「あっ」」

 にっこりしてうなずいた直後、やたらと遠い目をしてため息をつくユーリさん。その背後から、ふいに笑いを含んだ穏やかな声がして、大きな手がぽん、と銀髪の上に置かれた。

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