デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第二章:

プリティ・リトル・プリンセス②

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 「――ねえ、大丈夫? さっきから瀕死のカエルみたいな声がするんだけど」

 「……悪かったねえ、カエルさんで。そんならりっくんの馬に乗っけてくださいよぅ」

 「そうしてあげたいのは山々だけどね、いくら何でも外聞が悪いよ? もうあと半時間くらいで王都につくから、頑張って」

 窓からひょっこりのぞき込んで、なかなか意地の悪いツッコミをしてきた人がいる。言わずと知れた『エトクロ』の攻略対象にしてわたしの元パーティ、近衛騎士のりっくんことリックだ。ゲームじゃ特に言及されてなかったが、おしゃべりしながら難なく手綱を捌いているのを見るに、相当乗馬が上手いらしい。うん、さすがは努力できるエリートさんだ。

 なんて思いつつ、ティノくんをもふもふしてあげていると、

 「はい、どうぞ」

 「あっ、どうも。……アメ?」

 「そ、ミントのね。気分がすっきりするから、おちびさんたちと食べてて」

 『わあーい、おにーさんありがと~~』

 「どういたしまして。お大事に」

 嬉しい差し入れに雷獣さんがしっぽをぱたぱたさせると、ちょっと笑いながらもちゃんと返事してくれるのが律儀だ。ありがたくその場の全員に配って、自分も包み紙から出して食べてみる。ハーブの良い香りと、口の中がすうっとするのが気持ちよかった。

 「はー、おいしい……ホントに気が利くなぁ、りっくん」

 「ね。無理言って悪かったけど、付いてきてもらって正解だったわ……あたしたちだけじゃ大分不安だし」

 「りっくんも行きたそうだったし、あっちの王子様がオッケー出してくれて良かったねぇ」

 『ふぃーふぃっ』

 同じくアメのお世話になっている女子コンビに続けて、クッションの上からわたしの膝にぴょん、と飛び移ってきたリーシュがさえずった。うんうん、これで馬車酔いが改善するなら、無理やり回復させなくてもいいもんね。あれはあれで後から負担になる、ってリラが言ってたからなぁ。

 さて。いちおう一通りの作法とか、王侯貴族社会の慣習とかを覚えたわたしたちなんだけど、どうやっても付け焼刃なので不安が残りまくる。ついでにエルお父さんいわく、こういうときって行ってすぐ帰るわけにいかないらしい。少なくとも一週間は滞在するし、ほぼ確実に社交の場――今のシーズンなら舞踏会とか、歌劇場とからしいけど、とにかくそういう『人が集まるところ』に顔を出すことになるんだとか。

 そういう場所ではもちろん、国内でもかなり広い領地を治めている公爵さんとして、お父さんはほかの偉い人とやり取りをしなくてはならない。その間、わたしがそばでぼんやり立っているのは、あり得なくはないけどちょっと目立つ。そこで、付き添い兼護衛として、王宮勤めの長いりっくんに同行してもらったというわけなのだった。

 「もっと準備期間があれば……っていうか、うちの若旦那にもうちょい甲斐性があればなぁ。何か困ったときに気の利いたこと言ってフォローくらい出来ないと」

 「うんうん、レヴィンさんみたいにねー」

 「そうねー……って! だから!! やっと忘れた頃に突っ込んでこないでってば、もうっ」

 「うーふーふー♪ 忘れてないんじゃん~~」

 『まーま、まあ?』

 「いやだからその、……あーもうっ、忘れる方が難しいでしょあんなのー!!」

 「あらまあ、うふふふふ」

 ちょっと厳しいことを言おうとして、すかさずリラに突っつかれてしまったフィアメッタである。つぶらなお目目のマンドラゴラさんに、『忘れちゃったの?』的な調子でちょこんと全身をかしげられたら、わたしだって『がっつり覚えてます!』と全肯定せざるを得ないだろう。なんかすいません。

 (……ええーと、これってもうばっちり気にしてるっていうか、好きなの確定? ってことでいいの??)

 《ふふふふ、そうねえ。本人は認めたくないようだけれど、そういうことなんじゃなくって?》

 いまいち自信がないので軽く相談してみたところ、ガワの人から実に楽しそうなお返事があった。そーいうことなんですね、了解です。
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