デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第二章:

プリティ・リトル・プリンセス⑧

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 これ、時代劇なんかではすでにお決まりの言葉だ。つまり礼の体勢を解いて、顔を上げていいよ、という合図なので、素直にそれにならって正面に視線を向ける。すると、

 (うわあ、いかにも王様っぽい! しかもなんかものすごく厳しそう……!!)
 《ええ、話には散々聞いていたけれど……》

 ……仮にもお父さんの兄弟、つまりわたしからしたら伯父さんなわけだけど、とにかくそんな人への初対面の感想としてはだいぶ失礼な気がしなくもない。でもガワの人も大体同意見っぽいし、ということは後ろで控えてる『紫陽花』のみんなもそうなんだと思う。わたしだけが悪いわけじゃないぞ、うん。

 床よりだいぶ高いところに設えた、正面に広がる壇の上。三つ並んだ椅子のうち、真ん中の最も大きくて立派なものの前に立って、こちらを見下ろしている人がいた。たぶん、いや、確実にうちのお父さんよりも上背があって、肩幅も広くてがっちりした体形。短めにまとめた髪と、意志の強そうな目の色合いは息子さんそっくり……なんだけど、ぎゅっと険しく引き締まった顔立ちの雰囲気は正反対と言っていい。
 白を基調にした、ランヴィエルの殿下が着てたのがもっと豪華になったような礼装に深紅のマントという姿だが、どちらかといえば全身鎧とか軍服とかの方が似合いそうだ。隣に並んでいる、今日も爽やか笑顔なマックスさんは、大体同じ服装がばっちり決まっているけども。

 「ベルンシュタイン公爵、遠路はるばる大儀であった。其方の領都はどうなっておる」
 「は、恐縮にございます。我らがヴァイスブルクは大過なく……北からの商船団も例年通り、港に碇を下ろしております。これも陛下のご威光の賜物かと」
 「大仰な世辞は止せ。あの難所を直に治めておる者がそうへりくだっては、其方の臣下は肩身が狭かろう」
 「恐悦至極に存じます」

 実の弟さんとの会話にしては、ずいぶん堅苦しいやり取りが続くのを、わたしはほんのり笑顔を浮かべてじーっと聞いている。こういうときは目上の人に会話の主導権があるので、話しかけられるまではしゃべっちゃいけないのだ。そのまま黙って大人しくすること、しばし。

 「――さて」

 話がひとつ終わったところで、伯父さんもとい国王様は片手に持っていた長い杖を持ち上げた。その先でこつん、と軽く床を打った音が響くのと同時に、さっき一緒に入ってきた侍従さん、および護衛の騎士さんたちが一斉にお辞儀をして退出していく。十人以上はいたというのに、一分もかからず引き上げていってしまった。すると、

 「……よし、撤退したな。イブマリー、人払いしたから楽にしてよいぞ。うちの倅の視線が喧しくてかなわん」
 「いやあ、父上の圧は初対面の者には辛いので、早く解放してやらねばと! しばらくぶりだが元気そうだな、安心した!」
 「えっ、あ、はい! ありがとうございますっ」

 近寄りがたいほどの威圧感がふっと和らいだ。あきれた様子でマックスさんを指しながら勧めてくれた王様と、やっぱり笑顔で気遣ってくれる当の息子さんにあわててお辞儀をする。……どうやらこちらが素の状態らしい。ちょっとだけホッとしたのは内緒だ。
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