かわいい悪役令嬢俺とクソゲー世界

あくるめく咲日

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幼少期の章

当事者ハブするクソゲー

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薄いピンクのドレスを身に纏い、黄色いくつを履いて鏡の前で回ると、ドレスが控えめに花を咲かせるように広がった。
かわいいドレスだ。
メイドが実はほんの少しだけ持ってきていたドレスの中に居た、どちらかと言えば控えめで大人しいドレス。
型落ちだし色も流行ではないので、着ると言ったとき少しだけ止められた。
フリルやレースがたくさんついてふわふわしているものが流行りらしい、というかそういう飾ったもん勝ちみたいなドレスが数年前に出て以来、こういうシンプルなドレスは着られなくなったらしい。
けれど、鏡の向こうの俺は可愛いと思う。
そりゃあ俺が可愛いから可愛いドレスを着れば最高にかわいいのは当然だけど、でも分からない。
悪役令嬢はこんなドレスを着ていなさそうだし、何より似合わなそう。
つまり悪役令嬢が似合わないということは、悪役令嬢と激似の俺は似合っていないのではないだろうか。
可愛くないかもしれない。

「……かわいいですか?」
「「はい! Q様は本日も可愛らしいです!!」」
かわいい? 本当に? かわいい?
「俺はかわいい?」
「Q様、中の人が出てます」
「あっ、私かわいい?」
「可愛いですよ」
本当にかわいい? 本当に?
分からない。メイドたちはいつも俺をかわいいと言う。
その言葉を疑ったことはないけれどもしかしたら兄上が俺を可愛いと言うから可愛いと言っているだけかもしれない。
俺の顔がかわいいから多少格好が合わなくても可愛いと思えてしまうのかもしれない。
くっそ、俺の顔が元からかわいいから可愛くなっているのか分からない。

分からないまま朝食を食べてルエリア様と朝の庭の徘徊をして、キーンとの勉強部屋を訪れた。
のんきにコーヒー片手に書類を見ている姿はどこからどう見ても10歳児には見えないぞ、というツッコミはこの前した。
「お前もコーヒー飲むか?」
「キーン様、私かわいいですか?」
「ぶっは」
危なっ。
危ないところだった。
もう少しでキーン様が第二王子にもかかわらずコーヒーを吹くところだった。
「ごっほげっほ、はー……何、お前。発作?」
「発作ってどういう意味ですか」
「お前がここに来て二週間だ。ジュタが恋しくなったのかと思ってな」
「それはないです」

そう。ここに来て二週間。
ルエリア様からオトメユリのようだと言われてから数日たった。
あの日から少しだけお互いの心の距離が近づいたような気がしなくもない。
ただ問題があるとすれば、俺があの日から何だかおかしいということだ。
なんか、おかしい。
あんなに兄上からかわいいと言われているのに、使用人たちからもかわいいと言われているのに、俺自身も自分のことをかわいいと思っているのに、あの時の可愛らしいが頭から離れない。
そのせいでもう自分が本当にかわいいのかも分からなくなってきた。
かわいいことしか取り柄がないのに。
きっと普段かわいいとか言ってこない人からかわいいと言われて動揺しているだけだ。
そうだ。キーンから言われる方がずっとレアなのだから、ちょっとキーンからかわいいと言ってもらおう。

「というわけで、私はかわいいですか?」
「どういうわけだ。何で再挑戦してきたんだ」
「かわいいですか?」
「可愛いんじゃねえの? 知ねぇけど」
「照れないでスッと言ってくれませんか?」
「心底面倒くさいという感情を露骨に顔に出していたつもりなんだが照れていると思われるとは思わなかった」
「かわいいって、素直な気持ちを言ってくださるだけでいいんです。難しいことじゃないですよ。だって俺は本当にかわいいので」
尻尾一人称を出すな。しまえしまえ」
「はっ、私です。ごきげんよう」
「ごきげんようじゃねーよ。いいか? お前の可愛いを俺に押し付けてくるんじゃねぇ。もはや何らかのハラスメントだぞ」
「まさかキーン様は私をかわいくないと思っていらっしゃるのですか?」
「うるせー! めどくせー!」
キーン様が吠えて立ち上がった。
「いいか! 俺は何かに対してかわいいと思ったことがねぇ! 一般的にかわいいとされる、猫! 兎! 犬! お前! 花! 菓子! 赤子! 蝶々! ぬいぐるみ! なんっっとも思ったことがねえんだよ!」
!?
まさかそんな人がいるとは。いやいるんだろうけどそれがまさか目の前の自分の婚約者候補がそうだとは思わなかった。

「じゃあ子猫がにゃーにゃー寄ってきたらなんて思うんですか?」
「鳴いてるな」
「犬が足元にすり寄ってきたら?」
「毛が付くな」
「俺が近くに寄ってきたら?」
「元気だな……おい、化けの皮一人称を簡単にはがすな。ささくれじゃねぇんだから」
「はっ、私です。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
一旦落ち着きましょう。そうしましょう。

お互いに座ってキーンはコーヒーを、俺はいつの間にか用意されていた紅茶を飲んだ。
ふう。

俺のことをかわいいと思ったことがないなんて。
衝撃的事実だけど、仕方がない。そういう人もいる。
ただ、かわいいことしか長所がない俺を、何に対してもかわいいと思ったことのないキーンが婚約者候補にした件に関しては猫に小判と言えばいいのか豚に真珠と言えばいいのか。
恐らくそこら辺の言葉が当てはまる気がする。
「納得はしましたが、でもなんとなくショックではあるので。
今後の人生でかわいいと何かに対して思った時がありましたら土下座をして『お前の可愛さは俺の好みじゃなかったから可愛いと感じなかっただけでした。かわいいと思えなくてすみません』と仰っていただいてもよろしいでしょうか」
「誰も幸せにならない約束を取り付けようとしてくんじゃねぇよ」
少なくとも俺はにっこり出来る自信がある。

さて、話は盛大に逸れたが。
キーンは俺をかわいいと言ってくれないということで終わってしまった。
これでは困る。
かわいい以外に何か、あの時のルエリア様と同じようなことを言ってもらわないと困る。
俺が困る。
別の案で行こう。

そう思った俺が立ち上がった瞬間に扉がノックされた。
「あのぉ、本日の授業を初めてもよろしいでしょうか……?」
「「はい先生」」
「表情がいつもと真逆で怖いのですが、入れ替わってるんですか?」
救われたとばかりに笑顔のキーンとタイムアップに不満が顔に出た俺を見比べて先生は見るからに困惑していた。

本日の授業は歴史と一般常識。
キーンとは別の内容だけれど、同じ空間にいるのに王族の歴史なんてものをされてしまった。
厄日か何かか? 先生は気まずくないの? 俺は気まずいよ?
「王族の血を引くものたちは全員短命でしたので、その尊き魂は神のものであるとされていましたが、争いが終わり平和な世界になってからは逆に長寿として知られています。つまり、神のものでも何でもなかったのです」
「それはどういう感情で仰っているのですか?」
「中でも先代は最も長生きでいらっしゃいましたね」
「ああ、俺が王城入りした時もご存命だったな」
「それはどういう感情で割って入って来たんですか?」
俺はどんな顔でそれを聞けばいいの?
キーン様の瞳の色は先王に似ているという話をどういう感情で聞いていればいいの?
「そういえば、オーデルハイン嬢もジュタドール様も瞳はセルーネの方ですね。オーデルハイン嬢はセルーネの色ですが、ジュタドール様はまさに両家のミックスですね」
「ミックス犬のようにおっしゃらないでくださいますか?」
あとその話、兄上の前でしないようにしてくれるならもう何でもいいです。

そうして授業が終わり、また庭の徘徊をして戻ってくるとまだ先生はいなかった。
「お勤めご苦労。先生は遅れるらしい」
「はい」
朝と同じように座ってコーヒーを飲むキーン。
こんな10歳はいやだ。
だが、これは再び巡ってきたチャンスだ。

「キーン様、私を花に例えていただけませんか?」
個人的にあの日まで俺は自分のことを薔薇だと思っていたし。
ユリに例えられる日が来るならそれは薔薇でできた百合の造花だと言われると思っていた。
だから、他の花で例えてもらえばいいのでは?という自分でも意味が分からない発想に至ったのだけれど。

キーンは顔をくしゃぁとさえて、ため息と共に声を出した。
「わしゃぁ何が楽しくて男を花に例えにゃならんのじゃ」
「キーン様、お里が。お里が知れましてよ」
「はっ、俺だ。こんにちは」
「こんにちは」
俺もキーンも今日はダメかもしれないね。

「大体な、前に俺の口説き文句に嘘が下手だと言ってきたのは他でもないお前だぞ? その相手にまた口説き文句を言えだなんてよく言えたな」
「人を花にたとえるのは口説きじゃないです。普通の日常会話です」
口説きじゃないです。
もし口説きなら俺はあの時口説かれていたことになるじゃないですかやめてください。
そういう現実はみたくない。
ならまだ良い。言い訳も言い逃れも出来る。
はマジでだめだ。だめが過ぎる。
俺は鈍感じゃないからそれは全力であらがわせてもらう。
だから、口説かれていないということで。
友人同士の一般的な会話ということで。

「男の友人同士でそんな会話になるわけねぇだろ」
友人が兄上しかいないのに大口をたたかないで欲しい。何度も言うがあれは異常だ。
「私を女としてカウントしていただけませんか?」
「男と女なら友情だったら余計ならねぇよ。友情壊す気満々だろそんな会話。口説いてんじゃねぇか」
「口説かれてないです! そういう会話の流れです!」
「ふーーーん? どういう流れで?」
じとっと見てくるキーンにじと目で返す。
どうもこうもない。凄く自然だった。
「この花の名前はこういう名前だよ。君に似て可愛らしい花……だよ……みたいな」
「口説いてんじゃねぇか」
どうしようものすごく不自然だった。
会話の流れもくそもなかった。言葉にすると不自然なのがよく分かってしまった。

「口説かれてんじゃねぇか」
「2度も言わないでください。口説かれてません」
「いや口説かれてんだろお前それ。第一王子か? 何でお前第一王子に口説かれてんだ? 第一王子ってそんな風に口説くのか? これはデリケートな問題ではないので俺は全力で笑うつもりだが笑ってもいいか?」
「早口でたたみかけないでいただけます?」
さっきからお里がしれますのよ。
こっちは兄上と使用人以外と会話したのが最近になってからなんだから初心者に優しい会話をしてもらいたい。というか笑うな。

今すぐにでも爆笑しようとしているキーンを片手で制し、こほんとわざとらしく咳をする。
「そもそも、最近の会話でそういうことを言われることが増えているので、もともとそういう話し方をする天然たらしである可能性が高いのです。普段誰かと話している姿を見たことがないから分かりませんがきっとそういう会話をする御方なのです。
つまり、口説かれてません」
そうだ。クソゲーでキーンが序盤の方にこちらを子猫ちゃん扱いしてきたことを思い出せばこんなの全然大したことない。口説かれていない。
今思うと実物のキーンは子猫をかわいいと思ったことがないわけなので、子猫扱いしてきたことが薄ら寒くなってくるな。というか恐怖を感じてきた。

「へえ? じゃあ例えばどんな会話をするんだ」
例えばどんなって言われても。
「咄嗟に思い付きませんよ」
「じゃあさっきどんな会話してたんだよ」
よりにもよってさっきの会話を聞かれてしまうとは。
いや、いいけども。

「……キーン様より先に出会えていたら、この関係性はまた違ったかもね。みたいな感じのことですよ」
「口説いてねぇなそれ。告ってんなそれ。お前なんて返したんだよ」
「キーン様と出会っていなければ私たちは一生出会うことはありませんでしたよ。と」
「ド正論じゃねぇか。俺だったらそんな返答されたら暫く凹むぞ」
「確かにって頷いてました」
「うわ……」
「それはどっちに引いているのでしょうか」
「両方」
両方か……それならなんも言えない。
なんせ、自覚があるから。

「つーか俺の居ないところで三角関係展開すんのやめろよ」
「展開してません」

にやにやするキーンを叩きたいと初めて思った。
いままでクソゲープレイ中でも唯一キーンに対してはこんなこと思ったことないんだが。
俺はあのクソゲーの中だったらキーンが一番推せたというのに。
実物を前にして初めて殴りたいという感情を抱くなんてどういう皮肉だ。

「というか、キーン様。私が男の娘だってこと絶対気付かれていないと思うのですが」
「……気付いてないなこれ」
「どうするんですか」
「……普通、気付くだろ」
「普通は気付かないですよ」
だって、俺かなりかわいいので。

「お前が可愛すぎるせいだろどうにかしろ」
「そういうかわいいは受け取らない主義なので」
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