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幼少期の章
ああ、このクソゲー野郎め
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馬車の前にいつもと違う雰囲気のルエリア様がいた。
「お待たせ致しました、遅くなってしまい申し訳ございません」
「? まだ、集合の時間ではない」
「いえ、お待たせさせてしまいましたので」
うん。もしかしてとは思って早めに来てみたけど、ビックリした。
まさか王族が集合時間の30分前に来ているとは思わなかった。
あの、尊い人なので待つとかやめて。
集合時間ぴったりに来て。それか俺に待たせて。心の準備をさせて。
「……そなたを待つのも、楽しかった。問題ない」
「それでは次は、私に待たせてくださいますか?」
「! ああ」
もうなんだろうこの人可愛すぎるだろ。
というか服装もいつもは王子様らしい感じなのに今日はなんだか貴族って感じでとても良い。
「いつもと雰囲気が違いますのね」
「……あまり、似合っていないだろう」
「? 素敵だと思いましたが」
「……そうか、」
街に行くからなんだろうな。
でもキーンはもっと平民感あったのにルエリア様はどう見てもいい所のお坊ちゃんだ。
うん。いつも良いけど今日は特別な感じが良い。
でも、瞳の色を魔法で変えているらしくあの金色が見れないのは残念だなと思った。
「そなたは、今日。オトメユリだな」
んんっっ!
そういう所だぞ、本当。
「真っ白の髪の私をピンク色の花に例えるのは、ルエリア様くらいと思いますわ」
「?」
キョトンとしないで。
そして馬車に乗る時、エスコートの為に手を差し出されて初めて手を重ねた。勿論すぐに手は離れたけれど。
同じくらいの温度が心地よくて。
街に着くまでの間、まだ手の体温が残っているみたいで自分の手をぎゅっと握りしめた。
街に着くまでの馬車の中での会話は多くなかった。
沈黙が気にならないし、ゆっくりとした時間が流れるこの独特な感じが良いと思う。
けれど、本人は気になっていたのか突然自分は話すのが早くないと言ってきた。
恐らくキーンと比べての話なのだろう。俺は「話す速度は人と比べるものでは無いですよ」と言った。
キョトンとしていた。かわいかった。
街の中心部には元気な音が溢れていた。
クソゲーでは何故か街の騒音を一切音量調節出来なかったからウルセー!としか思わなかったけれど、こうして街の1部になってしまうと気にならないものだ。
馬車の中だからだろうか。
それにしてもよくある異世界アニメのやたら活気のある街みたいだ。
少し感動する。
「すまない……外に出られず。私が出ると……」
確かに馬車は王国仕様ではなくどこかの貴族にカモフラージュされているけれど、中から出てきたのがルエリア様ではあまりにもオーラがありすぎるだろう。
王族とはバレずとも大変なことになりそうだ。
……ああ確か、クソゲーで『国民舐めんなよ!!』って叫び出したくなったのがルエリア様とヒロインが街デートするシーンだったな。
平民とカモフラージュしている癖に馬車で来て瞳の色を一切隠さない。街に降り立った瞬間、水を打った様に静まり返って『なんだあのオーラのある平民!』みたいなアホ展開になる。
そしてめちゃくちゃ王族ムーブかますのに、国民たちはルエリア様が第一王子だと気付かない。
うん。国民を舐めるな。
実際はルエリア様はちゃんと自分のことを分かっているようで何よりだ。
「大丈夫ですよ。お恥ずかしながら初めて街に参りましたので、外に出るのは少し怖いと思っておりましたの」
「そうか」
ルエリア様の目が少しだけ細くなり、唇が弧を描いた。
どうしよう。街も見ていたいけれど、ルエリア様も見ていたい。
寧ろルエリア様の方を見ていたい。
「……買う時は、外に出る。気になるものがあれば」
「はい。ルエリア様も気になるものがありましたら遠慮なさらないでくださいね」
「……今は」
「?」
「……そなたが……気になるものが、気になる」
「は、い」
……心臓にそっと手を持っていくと、鼓動を感じられた。
良かった。
心臓、止まったかと。
柔らかい瞳で見てくるルエリア様の視線から逃れるように窓の外を見る。
頬がきっと真っ赤であろう俺の顔は鏡で見たことがないから、かわいいか分からないからあんまり見られたくないし。
しかしまあ、当然まったく窓の外の様子が頭に入ってこない。
こっそりルエリア様を見ると、視線がかち合った。
みっ!
……俺を見るな。窓の外を見てくれ頼むから。
この人、俺のことめちゃくちゃ好……いやだからそれはまずいって。
こっちが見て見ぬふりしているのに、こんなにも包み隠してくれないと本当に困る。
だって、俺は奇跡でも起きない限り学校には通えない。
クソゲーの舞台は14歳から4年間通う学園。
そこに通えないということは、当然俺はシナリオから外れる。
世界の強制力くんがどれほど強かろうと、学園に通えない悪役令嬢にどうやって干渉できるんだという話だ。
あと2年後、ルエリア様はその学園に通う。だから俺がルエリア様に関わることが出来るのはそれまで。
自動的にシナリオから離脱するからと言って、少し楽しみ過ぎたかもしれない。
ルエリア様が、俺への気持ちを自覚する前に。どうにかするべきなのだろう。
クソゲー通りに行って欲しい訳では無いけれど、俺の方が未来がないのだから仕方がない。
うん。一緒に街に出るのは最後にしよう。
こうして考えると外に出れないのは少し残念だったかもしれない。
ヒロインは彼の手を引いて走り回るのだ。
初めて羨ましいと思った。
あ。花屋。
窓の外に見えた花に思考を一旦切り替える。
「ルエリア様! あちらの花屋に参りましょう」
「……私に、気を使うな」
「いいえ、私が行きたいのです。昨晩から花屋に行きたいと思っておりました」
「……?」
「以前、先生にルエリア様と同じ名の花があるとうかがいました」
「ああ……庭にもある」
あったのか。
まだまだ庭を見終わらないから全然気付かなかった。
「……庭で見ると良い」
「いえ。その……私の屋敷に植えてみようと思いまして。あっ、初めて庭で花を育てるので、上手くいかないかもしれないのですが……」
暖かい地方の花らしいから難しいと思うし。
初心者向けでは無い気がする。
普段雑草狩りしかしていない庭師くんと育てられるか不安しかない。
「……そうか」
あ。笑った。
あまりにも嬉しそうに笑うものだから。ルエリア様が馬車を止めるように指示してくれている間、見蕩れてしまった。
「……外では、リアと」
「わかりました。リア様と呼ばせていただきます」
リア様、か。今日は特別祭りだ。
馬車が止まり、乗った時と同じようにエスコートされて外に出る。
ただ、先程と違って手が離れることはなく。
「えっ、リア様!?」
「……人が多い」
「そうです、ね」
人が多いから、はぐれるかもしれない。
ルエリア様のオーラが凄いのか、とんでもない顔面の貴族と可愛い俺に驚いたのか人々が自然と前を開けてくれるけれども。
まあ、はぐれるかもしれないから仕方ない。
そう言えば花屋には花の種があるのだろうか。
前世はホームセンターでしか見た事がなかった気がするので不安になったけれど、なんとルエリアの種は花屋にあった。
店主にお目が高いね、第一王子と同じ名前の花だよ!と言われた。知っとる。
その第一王子は俺の隣で外のシャボン玉的なものを目で追ってますよ、とは言えなかった。
外に出ると、シャボン玉的なものがふよふよしていた。
うん。これはシャボン玉なのだろうか。
八百屋的な近くでシャボン玉吹いて大丈夫なのだろうか。
「リア様、あれは?」
「……さあ?」
何かもわからず目で追ってるルエリア様はなんなんだ?猫ちゃんかなにかなのか?
かわいいなふざけんな。
ーーそこで直ぐに馬車に戻っていれば違ったかもしれない。
シャボン玉的なものを売っている店が近くにあるのが分かったので、ルエリア様を連れていこうと思う。
恐らくかなり気になっているようだし。
ルエリア様、鈍感だから。
多分俺への気持ちも気付いてないくらい鈍感だから。
「兄上へのお土産を、そこで買いたいのですが宜しいでしょうか」
「……! 私も……キーンに……」
「…………喜ぶと思いますよ」
店まで少しの距離だ。
ほんの少しの距離を歩いていたのに。
「よォガキのカップルなんざ生意気なんだよ。命が惜しけりゃ有り金全部置いてヒヒッ」
まさかこんな典型的に人から絡まれるとは思わなかった。
護衛騎士は何をしているのか!
咄嗟に馬車の方を見たが、人ごみが邪魔になって気付いていないようだ。
ああ、くそ。これのどこが平和だ。
いや確かに他と比べれば平和なんでしょうね。他を知らないから知らねぇよとしか言えないけども!
どうする、どうするどうするどうする!
冷や汗が垂れる。どうすれば、穏便に解決する?
この手のヤツは有り金を叩いたら帰ってくれる奴らじゃない。
なんせ、金持ちリア充への嫉妬が行動力になっているから。俺たちがカップルに見えた時点でもう金で解決は無理だ。
ああ、もう頭使うの慣れてないのに!
ゴロツキに対する避難訓練なんかしたことないから対処法が分からない。
俺は魔法が使えないし。
ルエリア様の戦闘能力はクソゲーから考えると高いが、魔法に限る。
人が多いからみんなを危険に晒すような魔法は使えない。
どうするどうする。
焦る俺の前を、ルエリア様がスッと前に出た。
あ。
ダメだ。
守られてどうする。
王族を守るのがオーデルハインの使命。全てを賭しても絶対に守る力こそ我が家系が望んだもの。
惚れた男を守らないで、何が男の娘だ。
結論が、出た。
「そなた、下がっ」
「大丈夫ですよ」
力があまりにも強すぎるから、殺してしまうかもしれない。
だから、殺さない戦い方を学ぶのに俺は学べなかったから。
バチン
「っ!? 腕がァァァァアアアア!!!」
相手の腕にデコピンをした。
頭蓋骨を割らないように配慮したから、かなり小規模な対処法になってしまったけれどそれだけでも激痛だったらしいゴロツキは酷い叫び声を上げて逃げていった。
なんだかフェレットか何かに手をあげたみたいな気持ちになってしまったのは気の所為だろうか。気の所為だろう。
あんな俺を縦に並べてもまだ足りない位の大男がフェレットなわけが無い。
周りの人達はそんな騒ぎすら日常の一部なのだろう。
特に気にした様子もない。
先程と変わらない喧騒。
先程と変わらない位置にいる護衛。
先程と変わらないシャボン玉的なもの。
先程と、変わってしまったルエリア様。
「……これでもオーデルハインの男児ですので」
聞かれる前に口を開いた。
他の人ならいくらでも誤魔化せたのだろう。
けれど、ルエリア様は王族で俺はオーデルハイン。誤魔化せる訳がない。
嘘をつきたくない。
だなんて、自分の性を女だと騙してきた俺が思うのは今更なのだろう。
「騙していたのか」
ごめんなさい。
低く震える声は、怒っているようで酷く傷付いている。
それはもう、とても傷ついている。
守りたかっただけなのに。
その体に、心に。貴方の全てに。
傷ひとつ付けたくはなかったのに。
俺が、傷つけてしまった。
俺が、女じゃなかったから?
そういう話じゃないのは分かっている。
俺が騙したから、だから傷付いて怒っている。
でも、ダメだ。
「女の子に、生まれてこなくて、ごめんなさい」
どうしようもなく加害者の癖に被害者ぶった俺はそう言葉を零して。
逃げ出した。
そういえば、クソゲーの第一王子の好感度が勝手にマイナスになるバグってもしかしたらバグじゃないのかもな。
マイナスになるのはいつだってヒロインが嘘をついた時だった気がする。
なんて。
「お待たせ致しました、遅くなってしまい申し訳ございません」
「? まだ、集合の時間ではない」
「いえ、お待たせさせてしまいましたので」
うん。もしかしてとは思って早めに来てみたけど、ビックリした。
まさか王族が集合時間の30分前に来ているとは思わなかった。
あの、尊い人なので待つとかやめて。
集合時間ぴったりに来て。それか俺に待たせて。心の準備をさせて。
「……そなたを待つのも、楽しかった。問題ない」
「それでは次は、私に待たせてくださいますか?」
「! ああ」
もうなんだろうこの人可愛すぎるだろ。
というか服装もいつもは王子様らしい感じなのに今日はなんだか貴族って感じでとても良い。
「いつもと雰囲気が違いますのね」
「……あまり、似合っていないだろう」
「? 素敵だと思いましたが」
「……そうか、」
街に行くからなんだろうな。
でもキーンはもっと平民感あったのにルエリア様はどう見てもいい所のお坊ちゃんだ。
うん。いつも良いけど今日は特別な感じが良い。
でも、瞳の色を魔法で変えているらしくあの金色が見れないのは残念だなと思った。
「そなたは、今日。オトメユリだな」
んんっっ!
そういう所だぞ、本当。
「真っ白の髪の私をピンク色の花に例えるのは、ルエリア様くらいと思いますわ」
「?」
キョトンとしないで。
そして馬車に乗る時、エスコートの為に手を差し出されて初めて手を重ねた。勿論すぐに手は離れたけれど。
同じくらいの温度が心地よくて。
街に着くまでの間、まだ手の体温が残っているみたいで自分の手をぎゅっと握りしめた。
街に着くまでの馬車の中での会話は多くなかった。
沈黙が気にならないし、ゆっくりとした時間が流れるこの独特な感じが良いと思う。
けれど、本人は気になっていたのか突然自分は話すのが早くないと言ってきた。
恐らくキーンと比べての話なのだろう。俺は「話す速度は人と比べるものでは無いですよ」と言った。
キョトンとしていた。かわいかった。
街の中心部には元気な音が溢れていた。
クソゲーでは何故か街の騒音を一切音量調節出来なかったからウルセー!としか思わなかったけれど、こうして街の1部になってしまうと気にならないものだ。
馬車の中だからだろうか。
それにしてもよくある異世界アニメのやたら活気のある街みたいだ。
少し感動する。
「すまない……外に出られず。私が出ると……」
確かに馬車は王国仕様ではなくどこかの貴族にカモフラージュされているけれど、中から出てきたのがルエリア様ではあまりにもオーラがありすぎるだろう。
王族とはバレずとも大変なことになりそうだ。
……ああ確か、クソゲーで『国民舐めんなよ!!』って叫び出したくなったのがルエリア様とヒロインが街デートするシーンだったな。
平民とカモフラージュしている癖に馬車で来て瞳の色を一切隠さない。街に降り立った瞬間、水を打った様に静まり返って『なんだあのオーラのある平民!』みたいなアホ展開になる。
そしてめちゃくちゃ王族ムーブかますのに、国民たちはルエリア様が第一王子だと気付かない。
うん。国民を舐めるな。
実際はルエリア様はちゃんと自分のことを分かっているようで何よりだ。
「大丈夫ですよ。お恥ずかしながら初めて街に参りましたので、外に出るのは少し怖いと思っておりましたの」
「そうか」
ルエリア様の目が少しだけ細くなり、唇が弧を描いた。
どうしよう。街も見ていたいけれど、ルエリア様も見ていたい。
寧ろルエリア様の方を見ていたい。
「……買う時は、外に出る。気になるものがあれば」
「はい。ルエリア様も気になるものがありましたら遠慮なさらないでくださいね」
「……今は」
「?」
「……そなたが……気になるものが、気になる」
「は、い」
……心臓にそっと手を持っていくと、鼓動を感じられた。
良かった。
心臓、止まったかと。
柔らかい瞳で見てくるルエリア様の視線から逃れるように窓の外を見る。
頬がきっと真っ赤であろう俺の顔は鏡で見たことがないから、かわいいか分からないからあんまり見られたくないし。
しかしまあ、当然まったく窓の外の様子が頭に入ってこない。
こっそりルエリア様を見ると、視線がかち合った。
みっ!
……俺を見るな。窓の外を見てくれ頼むから。
この人、俺のことめちゃくちゃ好……いやだからそれはまずいって。
こっちが見て見ぬふりしているのに、こんなにも包み隠してくれないと本当に困る。
だって、俺は奇跡でも起きない限り学校には通えない。
クソゲーの舞台は14歳から4年間通う学園。
そこに通えないということは、当然俺はシナリオから外れる。
世界の強制力くんがどれほど強かろうと、学園に通えない悪役令嬢にどうやって干渉できるんだという話だ。
あと2年後、ルエリア様はその学園に通う。だから俺がルエリア様に関わることが出来るのはそれまで。
自動的にシナリオから離脱するからと言って、少し楽しみ過ぎたかもしれない。
ルエリア様が、俺への気持ちを自覚する前に。どうにかするべきなのだろう。
クソゲー通りに行って欲しい訳では無いけれど、俺の方が未来がないのだから仕方がない。
うん。一緒に街に出るのは最後にしよう。
こうして考えると外に出れないのは少し残念だったかもしれない。
ヒロインは彼の手を引いて走り回るのだ。
初めて羨ましいと思った。
あ。花屋。
窓の外に見えた花に思考を一旦切り替える。
「ルエリア様! あちらの花屋に参りましょう」
「……私に、気を使うな」
「いいえ、私が行きたいのです。昨晩から花屋に行きたいと思っておりました」
「……?」
「以前、先生にルエリア様と同じ名の花があるとうかがいました」
「ああ……庭にもある」
あったのか。
まだまだ庭を見終わらないから全然気付かなかった。
「……庭で見ると良い」
「いえ。その……私の屋敷に植えてみようと思いまして。あっ、初めて庭で花を育てるので、上手くいかないかもしれないのですが……」
暖かい地方の花らしいから難しいと思うし。
初心者向けでは無い気がする。
普段雑草狩りしかしていない庭師くんと育てられるか不安しかない。
「……そうか」
あ。笑った。
あまりにも嬉しそうに笑うものだから。ルエリア様が馬車を止めるように指示してくれている間、見蕩れてしまった。
「……外では、リアと」
「わかりました。リア様と呼ばせていただきます」
リア様、か。今日は特別祭りだ。
馬車が止まり、乗った時と同じようにエスコートされて外に出る。
ただ、先程と違って手が離れることはなく。
「えっ、リア様!?」
「……人が多い」
「そうです、ね」
人が多いから、はぐれるかもしれない。
ルエリア様のオーラが凄いのか、とんでもない顔面の貴族と可愛い俺に驚いたのか人々が自然と前を開けてくれるけれども。
まあ、はぐれるかもしれないから仕方ない。
そう言えば花屋には花の種があるのだろうか。
前世はホームセンターでしか見た事がなかった気がするので不安になったけれど、なんとルエリアの種は花屋にあった。
店主にお目が高いね、第一王子と同じ名前の花だよ!と言われた。知っとる。
その第一王子は俺の隣で外のシャボン玉的なものを目で追ってますよ、とは言えなかった。
外に出ると、シャボン玉的なものがふよふよしていた。
うん。これはシャボン玉なのだろうか。
八百屋的な近くでシャボン玉吹いて大丈夫なのだろうか。
「リア様、あれは?」
「……さあ?」
何かもわからず目で追ってるルエリア様はなんなんだ?猫ちゃんかなにかなのか?
かわいいなふざけんな。
ーーそこで直ぐに馬車に戻っていれば違ったかもしれない。
シャボン玉的なものを売っている店が近くにあるのが分かったので、ルエリア様を連れていこうと思う。
恐らくかなり気になっているようだし。
ルエリア様、鈍感だから。
多分俺への気持ちも気付いてないくらい鈍感だから。
「兄上へのお土産を、そこで買いたいのですが宜しいでしょうか」
「……! 私も……キーンに……」
「…………喜ぶと思いますよ」
店まで少しの距離だ。
ほんの少しの距離を歩いていたのに。
「よォガキのカップルなんざ生意気なんだよ。命が惜しけりゃ有り金全部置いてヒヒッ」
まさかこんな典型的に人から絡まれるとは思わなかった。
護衛騎士は何をしているのか!
咄嗟に馬車の方を見たが、人ごみが邪魔になって気付いていないようだ。
ああ、くそ。これのどこが平和だ。
いや確かに他と比べれば平和なんでしょうね。他を知らないから知らねぇよとしか言えないけども!
どうする、どうするどうするどうする!
冷や汗が垂れる。どうすれば、穏便に解決する?
この手のヤツは有り金を叩いたら帰ってくれる奴らじゃない。
なんせ、金持ちリア充への嫉妬が行動力になっているから。俺たちがカップルに見えた時点でもう金で解決は無理だ。
ああ、もう頭使うの慣れてないのに!
ゴロツキに対する避難訓練なんかしたことないから対処法が分からない。
俺は魔法が使えないし。
ルエリア様の戦闘能力はクソゲーから考えると高いが、魔法に限る。
人が多いからみんなを危険に晒すような魔法は使えない。
どうするどうする。
焦る俺の前を、ルエリア様がスッと前に出た。
あ。
ダメだ。
守られてどうする。
王族を守るのがオーデルハインの使命。全てを賭しても絶対に守る力こそ我が家系が望んだもの。
惚れた男を守らないで、何が男の娘だ。
結論が、出た。
「そなた、下がっ」
「大丈夫ですよ」
力があまりにも強すぎるから、殺してしまうかもしれない。
だから、殺さない戦い方を学ぶのに俺は学べなかったから。
バチン
「っ!? 腕がァァァァアアアア!!!」
相手の腕にデコピンをした。
頭蓋骨を割らないように配慮したから、かなり小規模な対処法になってしまったけれどそれだけでも激痛だったらしいゴロツキは酷い叫び声を上げて逃げていった。
なんだかフェレットか何かに手をあげたみたいな気持ちになってしまったのは気の所為だろうか。気の所為だろう。
あんな俺を縦に並べてもまだ足りない位の大男がフェレットなわけが無い。
周りの人達はそんな騒ぎすら日常の一部なのだろう。
特に気にした様子もない。
先程と変わらない喧騒。
先程と変わらない位置にいる護衛。
先程と変わらないシャボン玉的なもの。
先程と、変わってしまったルエリア様。
「……これでもオーデルハインの男児ですので」
聞かれる前に口を開いた。
他の人ならいくらでも誤魔化せたのだろう。
けれど、ルエリア様は王族で俺はオーデルハイン。誤魔化せる訳がない。
嘘をつきたくない。
だなんて、自分の性を女だと騙してきた俺が思うのは今更なのだろう。
「騙していたのか」
ごめんなさい。
低く震える声は、怒っているようで酷く傷付いている。
それはもう、とても傷ついている。
守りたかっただけなのに。
その体に、心に。貴方の全てに。
傷ひとつ付けたくはなかったのに。
俺が、傷つけてしまった。
俺が、女じゃなかったから?
そういう話じゃないのは分かっている。
俺が騙したから、だから傷付いて怒っている。
でも、ダメだ。
「女の子に、生まれてこなくて、ごめんなさい」
どうしようもなく加害者の癖に被害者ぶった俺はそう言葉を零して。
逃げ出した。
そういえば、クソゲーの第一王子の好感度が勝手にマイナスになるバグってもしかしたらバグじゃないのかもな。
マイナスになるのはいつだってヒロインが嘘をついた時だった気がする。
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その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
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