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箱庭の章
バグは二の舞を演じるか
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「キーン様……その、お久しぶりですね?」
「今更、様もくそもねぇだろ。敬語はいらねぇしキーンでいい」
そう言われましても、と思ったけれど兄上と比べればこの程度失礼でもないのだろう。
それにしても、見ない間に大きくなったな。
でも立ち絵よりも幼い気がするから14歳ってところか?つまり俺も14歳になっていたのか。
「コーヒーでいいよね?」
「悪いな」
メイドにコーヒーをお願いしたらもう既に持ってきていた。
流石仕事が早い。この屋敷にコーヒー豆なんてあったのか。
「……」
「……」
懐かしい沈黙。
こんな沈黙、最初のティーパーティー以来なかったからどうすればいいのか分からない。
流石に大きくなったなぁ~!なんて数年ぶりに会うあまり仲の良くない親戚のオジサンみたいな会話の切り出しはおかしいだろうし。
「……あの」
「罪悪感がある」
「あっはい」
恐る恐る会話を切り出そうとしたらコーヒーを一気に飲み干したキーンが語り出した。
聞きますとも。聞きますとも。
俺に用があって久しぶりに来たんだろうからいくらでも聞きますとも。
「突き詰めれば俺のせいだという自覚もある。というか男だと分かっていて婚約者候補を演じさせたのは俺だから完全に俺が悪い。
あの兄と完全に決別しても当然だと思うし、お前から殴られても文句はねぇ」
「殴らないよ」
「あ? なんでだよ殴れよ」
どういう要求?
そもそも内容がどうであれ、俺が騙していたことが問題なのだからキーンは別に悪くない。
俺は女装に気づいているキーンに早々に気づいて取引を持ちかけているんだから今更キーンが悪いなんて思わない。
「本音を言うとこの箱庭から連れ出してくれたのはキーンだから、感謝してるくらい」
メイドが持って来てくれたコーヒーのおかわりをカップに注ぐ。キーンはそれを訝しげな表情で見つめて押し黙った。
この箱庭が悪い訳ではない。
なにもないこの箱庭。退屈を退屈だと思えなくなるほどの小さな世界に文句など当然なかった。
体は子供だけれど中身は大人だから、この場所以外を夢見ることはなかった。引きこもることは苦ではなかったから。
でも、とても楽しかった。
かわいくなること。令嬢としての立ち振る舞いやマナーや勉強。
兄上や使用人以外と話すことは新鮮だったし。
だから、そのこと自体はとても楽しい記憶として残っている。
だからこそ、傷付けてしまった彼に申し訳ない。
あの日、俺との思い出が全て傷と変わった彼に申し訳ない。
彼にとって俺は、間違いなく出会わなければ良かった存在なのだろうから。
「はー」
またコーヒーを飲み干して深くため息をつくキーンは酷い眉間のシワだった。
こんなところは育たない方がよかっただろうにと眺めていると、眉間のシワが「なんで」と呟いた。どうした?
「なんで誰も俺のことを責めないんだろうな。
正直そういうのが一番困る」
「は?」
「困る」
「二度も言うか」
正直こっちは困られても困るんだけど。
「俺のせいだろ? 完全に俺のせいだろ? 内心俺のせいだと思ってんだろ」
「いや、思ってないし」
「責めろよ、なあ。まじあの人もお前もぜんっぜん責めてこねぇからよ。自責の念で俺がどうすればいいのか分からねぇんだよ!」
ごめんこれどういうジャンルの怒り?
「俺はもう王族の血を穢したのに誰も責めてこねぇという自責の念を背負ってんだよ、これに新たな自責の念を増やしてくんじゃねぇよ。
前者はまだいい。生まれてくる子に罪はない精神なのは良いと思ってるし納得できる。
だがな、後者は違ぇだろ。原因俺じゃん。100%俺が悪いじゃねぇか! 責めろ! 殴れ!」
「拗らせすぎでは?」
特殊なMみたいになってるんだけど。
人って自責の念で板挟みにされるだけでこんなに壊れるもんなの?
「だのに第一王子からはお誕生日おめでとうと言われた。その日誕生日じゃねぇし。一体何年前の誕生日を祝われたんだよ俺は。あの人と同じ時を生きているのかスゲェ怖くなったわ。俺にとっての4年はあの人にとっての半年なのか?」
「え! お誕生日おめでとうって言えたんですか!?」
「はしゃぐんじゃねぇ。敬語を外せ。そして俺を殴れ」
「殴らんわ」
はしゃいでない。はしゃいでない。
そんな俺が傷付けてしまった人がお礼を言えるまでに成長したからって喜ぶなんてどんな神経してるんだって話になる。
うん。どんな神経してんだ俺。
「お前の兄からは礼を言われた。怖くて理由は聞かなかった。
悪いことは言わねぇがお前、ジュタと縁切った方がいいぞ」
「まあ兄上は昔からそうなんで。今更……」
あの人、俺をこの箱庭に縛り付ける為なら何でもする。俺が多少どうなろうとも構わないんだよな。
屋敷の外の世界に出たから傷付いたんだよ、だから此処に居なさいという精神だ。
うん。言葉にすると言い知れぬ気持ち悪さがある。
「お前もやばいやつかよふざけんなよ。俺の周りにまともな奴はいねぇのか」
「キーンを前にしたらまともな奴は裸足で逃げ出すからほら」
「あ?」
顔こわ。
そういう怖さは成長しなくてよかったと思うの。
「まさか俺から殴られるために来たの?」
4年ぶりに?
4年前のことを殴られに?
え、こわ。
「まあ。それもあるが。むしろそれが目的だったが」
よかった。他にもあるらしい。
流石にこれだけの為に来られたら困るよ。かなり困るよ。
ジト目を向ける俺の視線から逃れる為にゴホンと咳をしたキーンは懐から封筒を取り出し、その中身をテーブルに置いた。
「……は?」
「ということで。自責の念に挟まれた俺はいっそ自発的に責められることをしようと思った訳だ」
「なんて?」
違う言語か?
複雑な言葉を巧みに操っているのか?
「お前だって未練くらいあるだろ?」
「未練って、」
「まだ好きだろって話」
なんてこと言うんだこいつは。
好きに決まってる。だけど、そんな言えるわけねぇだろ。
俺は好きな人を傷付けたんだから。
押し黙ると、それを肯定と受け取ったキーンがニヤリと笑った。
「再戦だ」
キーンがテーブルの上に置かれた書類をコツンと叩いた。
書類には、クソゲーの舞台だった学園の編入許可書と書いてあった。
「戸籍ないから編入とか無理じゃ……」
「俺の権力を舐めるな」
うわーー。こういう時だけ王族ムーブかましやがって!
「ただ、お前って俺の婚約者候補だったじゃん」
「でも流石に候補から外してるだろ?」
4年も表に出てないし。
男だし。
「お前、病弱設定だから実はまだ婚約者候補なんだよな」
「は?」
「だから、俺の婚約者候補。男の娘として学校に通ってくれ」
「ものすごく同じ轍を踏みそう!!!」
信じていた弟の婚約者候補を好きになったら実は男で騙されていたことが判明したのに、それの4年後にその男がまた女装して弟の婚約者候補として学校に編入してきたらどう思う?
混乱と殺意と嫌悪、果たしてどれだろうか。
「今更、様もくそもねぇだろ。敬語はいらねぇしキーンでいい」
そう言われましても、と思ったけれど兄上と比べればこの程度失礼でもないのだろう。
それにしても、見ない間に大きくなったな。
でも立ち絵よりも幼い気がするから14歳ってところか?つまり俺も14歳になっていたのか。
「コーヒーでいいよね?」
「悪いな」
メイドにコーヒーをお願いしたらもう既に持ってきていた。
流石仕事が早い。この屋敷にコーヒー豆なんてあったのか。
「……」
「……」
懐かしい沈黙。
こんな沈黙、最初のティーパーティー以来なかったからどうすればいいのか分からない。
流石に大きくなったなぁ~!なんて数年ぶりに会うあまり仲の良くない親戚のオジサンみたいな会話の切り出しはおかしいだろうし。
「……あの」
「罪悪感がある」
「あっはい」
恐る恐る会話を切り出そうとしたらコーヒーを一気に飲み干したキーンが語り出した。
聞きますとも。聞きますとも。
俺に用があって久しぶりに来たんだろうからいくらでも聞きますとも。
「突き詰めれば俺のせいだという自覚もある。というか男だと分かっていて婚約者候補を演じさせたのは俺だから完全に俺が悪い。
あの兄と完全に決別しても当然だと思うし、お前から殴られても文句はねぇ」
「殴らないよ」
「あ? なんでだよ殴れよ」
どういう要求?
そもそも内容がどうであれ、俺が騙していたことが問題なのだからキーンは別に悪くない。
俺は女装に気づいているキーンに早々に気づいて取引を持ちかけているんだから今更キーンが悪いなんて思わない。
「本音を言うとこの箱庭から連れ出してくれたのはキーンだから、感謝してるくらい」
メイドが持って来てくれたコーヒーのおかわりをカップに注ぐ。キーンはそれを訝しげな表情で見つめて押し黙った。
この箱庭が悪い訳ではない。
なにもないこの箱庭。退屈を退屈だと思えなくなるほどの小さな世界に文句など当然なかった。
体は子供だけれど中身は大人だから、この場所以外を夢見ることはなかった。引きこもることは苦ではなかったから。
でも、とても楽しかった。
かわいくなること。令嬢としての立ち振る舞いやマナーや勉強。
兄上や使用人以外と話すことは新鮮だったし。
だから、そのこと自体はとても楽しい記憶として残っている。
だからこそ、傷付けてしまった彼に申し訳ない。
あの日、俺との思い出が全て傷と変わった彼に申し訳ない。
彼にとって俺は、間違いなく出会わなければ良かった存在なのだろうから。
「はー」
またコーヒーを飲み干して深くため息をつくキーンは酷い眉間のシワだった。
こんなところは育たない方がよかっただろうにと眺めていると、眉間のシワが「なんで」と呟いた。どうした?
「なんで誰も俺のことを責めないんだろうな。
正直そういうのが一番困る」
「は?」
「困る」
「二度も言うか」
正直こっちは困られても困るんだけど。
「俺のせいだろ? 完全に俺のせいだろ? 内心俺のせいだと思ってんだろ」
「いや、思ってないし」
「責めろよ、なあ。まじあの人もお前もぜんっぜん責めてこねぇからよ。自責の念で俺がどうすればいいのか分からねぇんだよ!」
ごめんこれどういうジャンルの怒り?
「俺はもう王族の血を穢したのに誰も責めてこねぇという自責の念を背負ってんだよ、これに新たな自責の念を増やしてくんじゃねぇよ。
前者はまだいい。生まれてくる子に罪はない精神なのは良いと思ってるし納得できる。
だがな、後者は違ぇだろ。原因俺じゃん。100%俺が悪いじゃねぇか! 責めろ! 殴れ!」
「拗らせすぎでは?」
特殊なMみたいになってるんだけど。
人って自責の念で板挟みにされるだけでこんなに壊れるもんなの?
「だのに第一王子からはお誕生日おめでとうと言われた。その日誕生日じゃねぇし。一体何年前の誕生日を祝われたんだよ俺は。あの人と同じ時を生きているのかスゲェ怖くなったわ。俺にとっての4年はあの人にとっての半年なのか?」
「え! お誕生日おめでとうって言えたんですか!?」
「はしゃぐんじゃねぇ。敬語を外せ。そして俺を殴れ」
「殴らんわ」
はしゃいでない。はしゃいでない。
そんな俺が傷付けてしまった人がお礼を言えるまでに成長したからって喜ぶなんてどんな神経してるんだって話になる。
うん。どんな神経してんだ俺。
「お前の兄からは礼を言われた。怖くて理由は聞かなかった。
悪いことは言わねぇがお前、ジュタと縁切った方がいいぞ」
「まあ兄上は昔からそうなんで。今更……」
あの人、俺をこの箱庭に縛り付ける為なら何でもする。俺が多少どうなろうとも構わないんだよな。
屋敷の外の世界に出たから傷付いたんだよ、だから此処に居なさいという精神だ。
うん。言葉にすると言い知れぬ気持ち悪さがある。
「お前もやばいやつかよふざけんなよ。俺の周りにまともな奴はいねぇのか」
「キーンを前にしたらまともな奴は裸足で逃げ出すからほら」
「あ?」
顔こわ。
そういう怖さは成長しなくてよかったと思うの。
「まさか俺から殴られるために来たの?」
4年ぶりに?
4年前のことを殴られに?
え、こわ。
「まあ。それもあるが。むしろそれが目的だったが」
よかった。他にもあるらしい。
流石にこれだけの為に来られたら困るよ。かなり困るよ。
ジト目を向ける俺の視線から逃れる為にゴホンと咳をしたキーンは懐から封筒を取り出し、その中身をテーブルに置いた。
「……は?」
「ということで。自責の念に挟まれた俺はいっそ自発的に責められることをしようと思った訳だ」
「なんて?」
違う言語か?
複雑な言葉を巧みに操っているのか?
「お前だって未練くらいあるだろ?」
「未練って、」
「まだ好きだろって話」
なんてこと言うんだこいつは。
好きに決まってる。だけど、そんな言えるわけねぇだろ。
俺は好きな人を傷付けたんだから。
押し黙ると、それを肯定と受け取ったキーンがニヤリと笑った。
「再戦だ」
キーンがテーブルの上に置かれた書類をコツンと叩いた。
書類には、クソゲーの舞台だった学園の編入許可書と書いてあった。
「戸籍ないから編入とか無理じゃ……」
「俺の権力を舐めるな」
うわーー。こういう時だけ王族ムーブかましやがって!
「ただ、お前って俺の婚約者候補だったじゃん」
「でも流石に候補から外してるだろ?」
4年も表に出てないし。
男だし。
「お前、病弱設定だから実はまだ婚約者候補なんだよな」
「は?」
「だから、俺の婚約者候補。男の娘として学校に通ってくれ」
「ものすごく同じ轍を踏みそう!!!」
信じていた弟の婚約者候補を好きになったら実は男で騙されていたことが判明したのに、それの4年後にその男がまた女装して弟の婚約者候補として学校に編入してきたらどう思う?
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