かわいい悪役令嬢俺とクソゲー世界

あくるめく咲日

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学校の章

クソゲーの始まり

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朝。パチりと目が覚めた。
目覚ましの音が鳴る前に起きるなんて、オレも成長したもんだな。
なんて感心しながら目覚まし時計に手を伸ばすと、目眩がした。なんだ。どういう事だ。
目覚まし時計によると、どこからどう見ても13時を回っていやがる。
「ち、遅刻だ!!」
ガバッと上質な布団を蹴りあげてからはもう早かった。
寝ぼける体に無理やりスラックスを履かせてワイシャツを羽織る。このまま校舎に入ったら絶対怒られるけど、走りながらボタンを留めれば問題ない……はず。
鞄を引っ掴んで靴をサンダルのように引っ掛けて走り寮から慌ただしく飛び出す。
「あいつもあいつで、なんで起こさないかなー!」
いつもならば起こしてくる優しさを持っていたハズのルームメイトは何故か今日に限っては起こしてはくれなかったらしい。
お陰で13時なんてこの学校の歴代遅刻記録更新しそうな時間になってしまった。
嘆いても仕方がないけれど嘆かずにはいられない。

脇目も振らずに必死に走る。
しかし、ふと視界の端に何かを捉えた。
人ーーか?

はて。こんな時間に寮から校舎に向かう生徒なんてオレ以外居ないだろうし、この学園は外部から人はほとんど来ない。
つまり、こんな時間に外をうろついているなんて類友か不審者の2択だ。

ところで、オレは友達がいない。
それはオレがドジで頭が良くないけれどその欠点が霞んでしまうほど足が早くて目が良くて魔法ができてしまうからだ。9割くらい僻みだろう。
だから思った。
もしも類友ならば、友達になれるのでは?と。
僻まれ続けて10数年。
友達も居なくても元気にやってきたが、学校という社会で思い知らされた『ペア』を作らねば生き残れない現実。
この間先生からは遂に先手を打たれて「君はもう先生の隣に居ようか。みんな2人ペア作って~」という人の心が無いのかと泣き叫びたくなるようなほどの酷い仕打ちをされた。

類友であるならば度し難い遅刻仲間であるならば、きっとーー。
あともしも不審者だったら遅刻の原因にしよう。
よし。

僅か3秒の間、初めてこんなにも頭を働かせたオレは視界の端に映った人に向かって方向転換をしーー


フリィシュ・スタージェは遠目にでも分かるその人物のあまりの可愛さに足を縺れさせ、転倒した。

良すぎる視力が仇となった瞬間だった。




ーー視点切替ーー
ーQー

学園に足を踏み入れてすぐ。
物珍しくて辺りを見渡すと、遠目で人がいるのが見えた。
こんな時間に?授業中では?それとも昼休みか? と思っている暇はなく、その人がグラッと倒れた。

…………無視しても良いかな。
俺は別に心根が純粋だったり優しいとかそういう訳では無い。
ただ人生二周目だから心に余裕があるだけ。大抵のことはそういうこともあるよねと許せるし、面白そうな相談であればそれに乗ることもある。
つまり、この遠く離れた距離に居る見ず知らずの生徒が転んだからと言って助けに行くような人間ではない。
そもそも俺みたいな超絶可愛く成長を遂げてしまった令嬢が助けに行ってみろ。
惚れられてしまう。
こう言うのは惚れられてしまう。
クソゲーとはいえ乙女ゲーム経験者から言わせてもらうと大変ベタな出会いと言える。
いや、クソゲー的に言ったら悪役令嬢の恋愛は展開しないから大丈夫なんだろうけれども。

とにかく、見なかったことにしよう。
兄上だったら見て見ぬふりをするし。キーンだったら「大丈夫かー?」とその場で声をかけるだろうけど。
……じゃあ、彼なら?

助けるだろうな。
ゆっくり歩いて近付いて、じっと見つめて怪我がないか確認して。そしてなにか言葉を発するか、そのまま立ち去るのだろう。
うん。

俺は転んだまま何故か立ち上がらない生徒の方に向かっていった。
どうしてかは分からない。
ただ、もしかしたら。彼がきっと取るであろう行動を真似たら少しでも近付けるんじゃないかと。
あの純な彼の隣に立つことは二度と叶わなくとも、俺の中の彼が好むことをしたくなったのかもしれない。

「あの、お怪我はございませんか?」
本当はしゃがんで揺さぶりたい所だけど、淑女なので。
俺はかわいいかわいい淑女なので少し屈んで声をかけるだけに留めると、地面に伏していた顔面がゆっくりと持ち上がる。

「!?」
バチッと目が合った瞬間に目の前の生徒はゴツンッと地面に額を打ち付けた。

どういうこと?
俺が可愛すぎるからってこの学校に通う生徒がこんなベタなリアクションするだろうか。
なんたってこの学校はクソゲーくんトリセツ曰く、99%が貴族関係で平民は1%だというのに。
しかもその1%はクソゲー世界のヒロイン。
そう、乙ゲ主人公ちゃんである。

ピンク頭で翡翠色の瞳という、自然発生しないタイプのカラーリングのくせに平民でどこにでもいるようなありふれた子という無茶な設定はクソゲーだからなのか。
それとも乙ゲあるあるなのか。

平民の中に居たら普通に浮くけれど、この場合ありふれていると言うのは容姿のことかのか精神のことなのか分からないから何も言えない。
いや、精神は間違いなくありふれてはいないだろう。
なんたって俺とこのクソゲーという戦場を駆け抜けた女の子だ。戦友とも言える。
もしかして、その戦友を間近で見れる日も来るのだろうか。それはちょっとワクワクする。友達にはなりたくないけれど戦友として陰ながらエールは送りたい。

ちなみに平民は彼女1人だ。
比率計算間違えてると思う。1%って、100人に1人なら1%なんだから仮に1000人だったら10人居ないと1%にならないのに。
何だこのゲーム。昔から思ってたけど何が楽しいんだこのゲーム。

まあ、貴族関係って従者も入ってるから従者かもしれないな。
仕方ないからもう一度声をかけてみよう。
「申し訳ございません、驚かせてしまいましたでしょうか。あの、お怪我はございませんか?」
「っ!」
ガバッと勢い良く顔が上げられ、目が合う。今度は逸らされることがない。
むしろ、めちゃくちゃ見られているような。
「「…………」」
なんか喋れや。
分かるけども。
転んだだけでも恥ずかしいのに起き上がったら超絶なきゃわな子が自分を心配そうに覗き込んでいたらそんな反応になるのも分かるけども。

俺は明日からの編入の為に色々手続きをしないといけないから午後一に来たのであって。
見ず知らずの転んだ男子生徒と悠久の時を見つめ合う為にここに来たんじゃない。
「あ、あの!」
「はい」
沈黙。
なんか喋れや。
彼の言葉ならいくらでも待つが、それ以外の言葉を待ってやるほど俺は寛容ではない。
もう何かまくしたてて逃げようかな。と思った時、目の前の男子生徒は叫んだ。

「愛し合いませんか!」
「お断りします」

こいつは転んだ哀れな男子生徒じゃない。哀れな不審者だ。
起き上がった不審者はワイシャツのボタンすら止めていないらしく、どうやら露出狂の気もあるらしい。

うん。

聞かなかったことにしよう。
見なかったことにしよう。
居なかったことにしよう。
くるりと優雅に回ってから歩き出すと「かわいい!」という謎のSEが脳にキーンと響いたけれど気の所為だろう。

さて、ここから校舎に向かって職員室に行って寮に行くのか。
俺の寮が兄上と同室と聞いた時、なるほどこれで兄上は納得したのかと遠い目をしてしまったけれど今日は兄上と一緒に寝よう。
俺は自分の可愛さは自覚しているけれど、実は変態という類からそう言う目を向けられたことがない。
初めての生理的嫌悪が皮膚の上で鳥肌として主張している。

「待ってください! やましい意味ではありません!」
「仮にやましくなくてもお断りします」
あまりにもうるさいからって幻聴に答えてしまった。
変態の対処法について誰かまともな人から教わりたい。ちなみに物理行使は俺が相手を殺しかねないのでそれ以外で。

「オレはただ、貴女と激甘ハッピー子沢山エンドを迎えたいと思っているだけなので何もやましいことは考えていません!」
「きも」
やましさの塊が何か言ってる。
なんだ。その激甘ハッピー子沢山エンドって。
ねぇよんなもん。
クソゲーくんにもねぇよ。
ああもう。
「やましさの塊さん」
「こんなに誠実に貴女の愛を乞うオレを煩悩大臣みたいに呼ばないでください!」
「誠実……?」
何を言っているんだろうか。この人。本当にやばい人なのかもしれない。
「どうしてもあだ名で呼びたいのでしたら、貴女のハートの狩人とでも」
「やましさの狩人さん、着いてこないでくださいますか?」
「貴女は恥ずかしがり屋なんだね」
殴ってもいいだろうか。

言葉が通じているはずなのに通じなければもうこれは殴るしかないのでは無いだろうか。
グーは骨を壊すからやめておくとして、軽いビンタならワンチャンいけるのでは?
首が180度ほど回る程度だ。きっとこの手の変態は首がグルグル回るタイプだから大丈夫だろう。
もしものことがあっても残酷な描写ありのタグをそっと付け足しておけばそれで問題ないだろう。

よし。
くるりと回ると変態と目が合った。
「かわいい!」うるさいSEだ。
俺は身長がまだ伸び悩んでいるので、ヒール込みで女子平均より少し高めだけれど。それと同じくらいの目線ということは中々低めなようだ。
……どうしてだろうか。
今はものすごく関係ないはずなのにクソゲーくんのヒロインが脳裏を過ぎ去った。
なんだか凄く嫌な予感がする。気の所為であって欲しい。凄く気の所為であって欲しい。

そっとビンタをしようと構えていた手を下ろした。
人懐っこい笑顔を浮かべながら疑問符を飛ばしている姿はまさに犬のようで。
やましい狩猟犬と呼んであげた方がいいのかもしれない。

さて、実を言うとこの生徒を見てから嫌な予感はずっとしていたんだが。見て見ぬふりをしてきた。
いやまさか。そんなはずは。

だって、目の前の生徒は何度も繰り返すが男子生徒なのだ。
男だ。
ピンク頭で翡翠色の瞳をしていようが、男なのだ。

「失礼ですが、スタージェさんでございますか?」
「え!? 確かにオレはスタージェ! フリィシュ・スタージェだけど、なんで知ってるんですか!? ハッ、これが運命……?」

頭を抱えた。
ヒロインの変更しても変わらない事で有名なデフォルト名は、フィリー・スタージェだ。
フリィシュね?そう。男名だとそうなるんだ。まあ俺も悪役令嬢と名前違うもんね。
そういうことあるよね。クソゲーくんのバーーーカ!

女装してなければこの場で地団駄を踏んで「やっってられるかーー!!!」と叫び散らかしていたところだ。
ピンク頭を揺らして翡翠の瞳を輝かせるこいつがヒロインだと?男装という一縷の望みも抱けないこいつが?
俺の戦友だと?はぁ?

悪役令嬢も男で?
ヒロインも男?
バカにしてんのか?俺らを。
そんなのは悪い天丼の例だぞ、クソゲーくん。
最悪な形で天丼してくるんじゃねぇよ。
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