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蒼の章
第63話「自称するモノ」
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「は? どういうことだよ」
宵闇が尋ねれば、アルフレッドは平然と言った。
「単純な話です。あいつが出られないのであれば、僕たちだって同じく出られない可能性がある」
「確かにな」
言ったのは真緋だ。
「察するに、青藍がここに捕らわれているのは、この森に満ちる“木”の力が作用するからだろう。そして、それを為すだけの魔力がここには満ちている。
少なからず我々にも影響するだろうな」
これに対し、宵闇は思考を巡らせ問いかけた。
「……じゃあ、もしかすると俺は特にか?」
五行思想を参考にしての言葉だった。実際、その思想とこの世界の摂理には若干の差異はあるものの、大筋では似通っている。
真緋は首肯して言った。
「恐らくな。……例えばの話だが、お前が長期間ここにとどまった場合、下手をすれば消滅もありうるかもしれん」
その言葉に、彼はビクリと肩を震わせ驚いた。
「え、ヤバ。……けど、今はなんともねぇんだが?」
これにはアルフレッドが首を振る。
「あくまで、長期間とどまれば、という話です。それこそ数百年単位で。……それに、僕の魔力と区別がついてないのもあると思います」
なぜか溜息でも吐きそうに言った青年を見遣りつつ、宵闇は納得して頷いた。
「あぁ。そういうこと。……あ、でも、少なくとも俺が出られない確率は高いのか」
「そうだ」
継いで真緋は言った。
「加えて、我らにも影響する可能性は十分にある。
あくまでこれは推測だが。青藍の言から、このイリューシアの森は木々それ自体が大規模な魔力的構造物――ニンゲンの言う魔術の構成要素となっているのかもしれんからな」
アルフレッドも頷いた。
「僕もそのあたりだろうと思っています。
といっても、僕たちが魔術と認識するモノよりもはるかに原始的かつ変則的なものでしょう。加えて、効果範囲が桁外れに広い。
僕でもこれだけの魔術は扱いきれないでしょうね」
青年の言葉に、宵闇はむしろ安堵するような仕草をした。
真緋が付け加えて言う。
「その具体的な効果、あるいは我らへの影響如何については、今のところ全体が巨大すぎて想像するしかない。実際に試した方が速かろう」
つまりは、いったん外に向かってみるしかない、ということだ。
「それに青藍を外に出すにはどちらにしろこの仕掛けは壊さねばならんのだ。幸い、ここには我も月白もいる。もちろんアルフレッドも術に長けていよう。多少解析に時間がかかろうと、方法次第で壊すことは可能だと思われる」
特にこれを否定する言はなく、また、これ以上の推論は重ねるだけ無駄だった。真緋が既に言った通り、やってみなければなんとも言えない。
一度会話が途切れる中、宵闇が言う。
「で、俺はいい加減気になってしょうがないんだが。そもそも、あいつはなんでこの森から出られなくなってんだ? 誰がこんなデカい罠仕掛けたんだよ」
アルフレッドも戸惑いを見せつつ言った。
「その本人いわく、この場は“神”があいつを逃がさないよう創り出した檻だと」
「…………」
宵闇としてはなんとも反応しづらい答えに押し黙った一方、まるで当然のように頷いたのは――真緋だった。
「それはそうだろう。むしろ、他に我らをどうこう出来るモノなど、ここに集う互い以外では“神”しかいない。それに、我らをこの地に配したのは誰あろう“神”だ。
我らが勝手に動かぬよう留めおこうとするのは、あちらからすれば当然だろう?」
常識を述べるようなその彼女の様子に、月白さえ身じろぎ、宵闇やアルフレッドは異質なものを見る目で思わず真緋を見つめる。
「…………ディー?」
宵闇の「何を言ってるんだ?」とでも言いたげな呼びかけに続き、アルフレッドも確かめるように尋ねた。
「恐らくですが、あなた方が言う“神”、とは……、我が国やイスタニアでそれぞれ信仰される神々とは別の存在、ですよね?」
真緋は碧眼を瞬いて言った。
「ああ。当然だ。ニンゲンたちが言う神とは空想の産物だろう? 我と同一視されていたバスディオしかり、な。
とはいえ、ニンゲンたちもそこはかとなく“神”の存在を感じるからこそ、そのように空想を広げるのだと我は思っていたがな」
相変わらず常識を言うような彼女に対し、宵闇は相変わらず引き攣った表情をさらし、アルフレッドや月白も反応に迷うなか、面白そうに笑みながら真緋は言った。
「この世に“神”は実在するぞ。何しろ、この世界を創造された御方だ。そしてもちろん、我らの創造主でもある。あの方無しに、この世界も我らも存在しえなかった」
宵闇からすれば到底受け入れられない話だ。
彼は混乱も露に頭を抱え口走る。
「あー。ちょっと待て、ちょっと待て? 俺、今、情報が多すぎてついていけない。
するってーと何か? その口調だと、ディーは実際にその神とやらと会ってんのか?」
真緋は再度頷く。
「むしろお前たちも会っているはずなのだが……」
半ば呟くように言った彼女の言に――。
「私にその記憶はない」
「俺にもねぇよ」
「…………」
三者三様の答えが返る。
「そうか…………。特に宵闇、お前は前の生での記憶が鮮明だろう。それが尽きた直後だ。本当に覚えていないのか?」
因みに、宵闇や真緋の前世云々については、既に情報共有が為されている。
それを持ち出し、なおも重なる問いに、宵闇もまた眉間に皺を寄せ、記憶を手繰るように瞑目した。
「……まあ、確かにその点については俺もずっと気になってたんだがな。ひとかけらとして覚えてねえんだよ。ホント、ふと気づいたらこの世界、というか、こっから北西の山の中にいたんだ」
唸りながらの答えに、真緋は思考に沈むように呟いた。
「……この、記憶の有無の違いは、果たしてなんの意味があるのだろうな……」
宵闇もまた首を振りつつ言った。
「さぁなあ。可能性としては、俺やハクにその記憶があると“神”とやらにとっては都合が悪かったか。あるいは俺の場合、“神”の存在を全力で否定した末、自己暗示で忘れたか、ってところかな。ひとまず」
「いずれにしても、まさに“神”のみぞ知る、だ。これ以上は無意味だろう」
月白が淡々と言えば――。
アルフレッドがふと話題を転換するように言った。
「ところで――。あなたは最初から“あの場所”に、鎖でつながれた状態でいたんですか」
宵闇が先程言及した、「気づいたら山の中にいた」という発言を掘り返す問いだった。
アルフレッドはその点の詳細を今まで碌に聞いたことがなかったのだ。
彼の言った“あの場所”というのは、もちろん、彼と宵闇が初めて出くわした場所――宵闇いわく、“北西の山の中”――を指すわけだが。
なぜ宵闇があの場所にいたのか。しかも、明らかに魔術的処理をされた金属製の鎖に雁字搦めにされていたのか。そういった部分を詳しく訊いてはいなかったのだ。
アルフレッドの問いに、宵闇は軽く頷いた。
「そうそう。そんでお前がやってくるまでずーっと行動不能。正直、この広い森の中動き回れただけ、青藍の方がまだマシだ」
そう言いながら、宵闇はハクに視線を移して話題を振る。
「で、ハクは元々洞窟の中にいたんだろ?」
「ああ」
月白からは端的な答えだけが返ったが、アルフレッドは既に宵闇を介して知っていることだった。
一方、真緋にとっては初耳だ。
青藍に続き、宵闇と月白も厳重に行動を制限されていたと知り、真緋は半ば呆気にとられて呟いた。
「……なんともまあ、念入りなことだな」
「そう言うディーは、どうだったんだ?」
何気ない宵闇の問いに、彼女は多少言い迷う。
「……今となっては心苦しいが、我にそういった拘束はなかった。“神”からは、ただ『むやみに動くな』とだけ言われていてな」
言いようのない反応が返る中、代表するようにアルフレッドが言った。
「……それだけで100年以上もバスディオ山に?」
若干呆れの混じるこの問いに、真緋も苦笑しながら頷いた。
「ああ。なにせ、我の力は大きい。人型を取れるようになったのも最近のこと。我自身に恐れもあってな。
ただひたすら、山の頂で微睡み、時折、この世の理について思考する日々だった」
宵闇は顔を歪めて身震いする。
「あんたよくそれで耐えられたな。俺は似たような毎日を強制的に送らされたが、ホント思い出したくもねえ。ルドヴィグじゃないが、退屈極めて発狂寸前だった」
これに、アルフレッドは今更のように問いかける。
「…………そういえば、今まで聞きませんでしたが、あなたがこの世界に生じて以降、一体どれほどあそこにいたんですか?」
対する宵闇は、うんざりを絵に描いたような表情で言った。
「さあ? 日が昇る回数は1000回超えて以降、なんだか馬鹿らしくなって数えてねえし。それこそ、100年近く……にはなってたんじゃねえか? もうほとんど寝て過ごしたから曖昧だが」
「…………」
「なんだ、アル。なんか引いてる?」
つらつらと述べた宵闇に対し、なぜかアルフレッドは尻で後退って言った。
「いえ。言動が幼いのはあなたも一緒だったんだな、と」
そんな言葉に宵闇は、というと――。
「おい! さすがにそこは“幼い”じゃなくて“変わらない”にしろよ! …………まあ、確かに前よりハッチャけてんのは自覚してるけど!」
「フフ」
一方、それを傍から聞く真緋は、抑えきれずに笑って言った。
「――そうだぞ、アルフレッド、未だ生物の枠を出ないお前と比べれば、我らに起こる変化は至って軽微だ。
我のこの性格もこの世界に生じてよりほとんど変わっていない。…………とはいえ、全く変わらない、というわけでもないがな。そうだろう、月白」
「ああ。……そうだな」
問われた彼は、珍しく口端をわずかに上げて言った。
「私は自由を得てから――いや、アレクシスやシリンと出会ってから、大きく変わった。…………今もなお、変わり続けている。面白いことだ」
「はは、確かに」
これには宵闇も同意した。
「まぁつまり、どんな存在だろうが相互に関係しあって変わってく、ってことだな。
裏を返せば、独りじゃなんにも起こらない」
その感慨深げな言葉を、特にアルフレッドは視線を落として聞いていた。
彼の表情からはいかなる感情も思考も読み取れなかったが……。何やら思い返してはいるようだった。
…………ところで、まるで何かが収束したような感じになっているのだが――。
ぜひここで思い出したいのは、肝心な部分が1つとして決まっていないことだろう。
「で、だ! 話は完全に戻るんだが!」
宵闇が強引に話題を引き戻す。
折しも、気が済んだ青藍が泉から上がり、人型になりながら機嫌よさげに駆け寄ってきている。
時刻は既に夕闇も迫る頃。
特に、森の外れではイサナが待機しているのだ。彼の身の安全を早急に確保するためにも、彼らは次の行動を起こすべく銘々に立ち上がり動き始めた。
宵闇が尋ねれば、アルフレッドは平然と言った。
「単純な話です。あいつが出られないのであれば、僕たちだって同じく出られない可能性がある」
「確かにな」
言ったのは真緋だ。
「察するに、青藍がここに捕らわれているのは、この森に満ちる“木”の力が作用するからだろう。そして、それを為すだけの魔力がここには満ちている。
少なからず我々にも影響するだろうな」
これに対し、宵闇は思考を巡らせ問いかけた。
「……じゃあ、もしかすると俺は特にか?」
五行思想を参考にしての言葉だった。実際、その思想とこの世界の摂理には若干の差異はあるものの、大筋では似通っている。
真緋は首肯して言った。
「恐らくな。……例えばの話だが、お前が長期間ここにとどまった場合、下手をすれば消滅もありうるかもしれん」
その言葉に、彼はビクリと肩を震わせ驚いた。
「え、ヤバ。……けど、今はなんともねぇんだが?」
これにはアルフレッドが首を振る。
「あくまで、長期間とどまれば、という話です。それこそ数百年単位で。……それに、僕の魔力と区別がついてないのもあると思います」
なぜか溜息でも吐きそうに言った青年を見遣りつつ、宵闇は納得して頷いた。
「あぁ。そういうこと。……あ、でも、少なくとも俺が出られない確率は高いのか」
「そうだ」
継いで真緋は言った。
「加えて、我らにも影響する可能性は十分にある。
あくまでこれは推測だが。青藍の言から、このイリューシアの森は木々それ自体が大規模な魔力的構造物――ニンゲンの言う魔術の構成要素となっているのかもしれんからな」
アルフレッドも頷いた。
「僕もそのあたりだろうと思っています。
といっても、僕たちが魔術と認識するモノよりもはるかに原始的かつ変則的なものでしょう。加えて、効果範囲が桁外れに広い。
僕でもこれだけの魔術は扱いきれないでしょうね」
青年の言葉に、宵闇はむしろ安堵するような仕草をした。
真緋が付け加えて言う。
「その具体的な効果、あるいは我らへの影響如何については、今のところ全体が巨大すぎて想像するしかない。実際に試した方が速かろう」
つまりは、いったん外に向かってみるしかない、ということだ。
「それに青藍を外に出すにはどちらにしろこの仕掛けは壊さねばならんのだ。幸い、ここには我も月白もいる。もちろんアルフレッドも術に長けていよう。多少解析に時間がかかろうと、方法次第で壊すことは可能だと思われる」
特にこれを否定する言はなく、また、これ以上の推論は重ねるだけ無駄だった。真緋が既に言った通り、やってみなければなんとも言えない。
一度会話が途切れる中、宵闇が言う。
「で、俺はいい加減気になってしょうがないんだが。そもそも、あいつはなんでこの森から出られなくなってんだ? 誰がこんなデカい罠仕掛けたんだよ」
アルフレッドも戸惑いを見せつつ言った。
「その本人いわく、この場は“神”があいつを逃がさないよう創り出した檻だと」
「…………」
宵闇としてはなんとも反応しづらい答えに押し黙った一方、まるで当然のように頷いたのは――真緋だった。
「それはそうだろう。むしろ、他に我らをどうこう出来るモノなど、ここに集う互い以外では“神”しかいない。それに、我らをこの地に配したのは誰あろう“神”だ。
我らが勝手に動かぬよう留めおこうとするのは、あちらからすれば当然だろう?」
常識を述べるようなその彼女の様子に、月白さえ身じろぎ、宵闇やアルフレッドは異質なものを見る目で思わず真緋を見つめる。
「…………ディー?」
宵闇の「何を言ってるんだ?」とでも言いたげな呼びかけに続き、アルフレッドも確かめるように尋ねた。
「恐らくですが、あなた方が言う“神”、とは……、我が国やイスタニアでそれぞれ信仰される神々とは別の存在、ですよね?」
真緋は碧眼を瞬いて言った。
「ああ。当然だ。ニンゲンたちが言う神とは空想の産物だろう? 我と同一視されていたバスディオしかり、な。
とはいえ、ニンゲンたちもそこはかとなく“神”の存在を感じるからこそ、そのように空想を広げるのだと我は思っていたがな」
相変わらず常識を言うような彼女に対し、宵闇は相変わらず引き攣った表情をさらし、アルフレッドや月白も反応に迷うなか、面白そうに笑みながら真緋は言った。
「この世に“神”は実在するぞ。何しろ、この世界を創造された御方だ。そしてもちろん、我らの創造主でもある。あの方無しに、この世界も我らも存在しえなかった」
宵闇からすれば到底受け入れられない話だ。
彼は混乱も露に頭を抱え口走る。
「あー。ちょっと待て、ちょっと待て? 俺、今、情報が多すぎてついていけない。
するってーと何か? その口調だと、ディーは実際にその神とやらと会ってんのか?」
真緋は再度頷く。
「むしろお前たちも会っているはずなのだが……」
半ば呟くように言った彼女の言に――。
「私にその記憶はない」
「俺にもねぇよ」
「…………」
三者三様の答えが返る。
「そうか…………。特に宵闇、お前は前の生での記憶が鮮明だろう。それが尽きた直後だ。本当に覚えていないのか?」
因みに、宵闇や真緋の前世云々については、既に情報共有が為されている。
それを持ち出し、なおも重なる問いに、宵闇もまた眉間に皺を寄せ、記憶を手繰るように瞑目した。
「……まあ、確かにその点については俺もずっと気になってたんだがな。ひとかけらとして覚えてねえんだよ。ホント、ふと気づいたらこの世界、というか、こっから北西の山の中にいたんだ」
唸りながらの答えに、真緋は思考に沈むように呟いた。
「……この、記憶の有無の違いは、果たしてなんの意味があるのだろうな……」
宵闇もまた首を振りつつ言った。
「さぁなあ。可能性としては、俺やハクにその記憶があると“神”とやらにとっては都合が悪かったか。あるいは俺の場合、“神”の存在を全力で否定した末、自己暗示で忘れたか、ってところかな。ひとまず」
「いずれにしても、まさに“神”のみぞ知る、だ。これ以上は無意味だろう」
月白が淡々と言えば――。
アルフレッドがふと話題を転換するように言った。
「ところで――。あなたは最初から“あの場所”に、鎖でつながれた状態でいたんですか」
宵闇が先程言及した、「気づいたら山の中にいた」という発言を掘り返す問いだった。
アルフレッドはその点の詳細を今まで碌に聞いたことがなかったのだ。
彼の言った“あの場所”というのは、もちろん、彼と宵闇が初めて出くわした場所――宵闇いわく、“北西の山の中”――を指すわけだが。
なぜ宵闇があの場所にいたのか。しかも、明らかに魔術的処理をされた金属製の鎖に雁字搦めにされていたのか。そういった部分を詳しく訊いてはいなかったのだ。
アルフレッドの問いに、宵闇は軽く頷いた。
「そうそう。そんでお前がやってくるまでずーっと行動不能。正直、この広い森の中動き回れただけ、青藍の方がまだマシだ」
そう言いながら、宵闇はハクに視線を移して話題を振る。
「で、ハクは元々洞窟の中にいたんだろ?」
「ああ」
月白からは端的な答えだけが返ったが、アルフレッドは既に宵闇を介して知っていることだった。
一方、真緋にとっては初耳だ。
青藍に続き、宵闇と月白も厳重に行動を制限されていたと知り、真緋は半ば呆気にとられて呟いた。
「……なんともまあ、念入りなことだな」
「そう言うディーは、どうだったんだ?」
何気ない宵闇の問いに、彼女は多少言い迷う。
「……今となっては心苦しいが、我にそういった拘束はなかった。“神”からは、ただ『むやみに動くな』とだけ言われていてな」
言いようのない反応が返る中、代表するようにアルフレッドが言った。
「……それだけで100年以上もバスディオ山に?」
若干呆れの混じるこの問いに、真緋も苦笑しながら頷いた。
「ああ。なにせ、我の力は大きい。人型を取れるようになったのも最近のこと。我自身に恐れもあってな。
ただひたすら、山の頂で微睡み、時折、この世の理について思考する日々だった」
宵闇は顔を歪めて身震いする。
「あんたよくそれで耐えられたな。俺は似たような毎日を強制的に送らされたが、ホント思い出したくもねえ。ルドヴィグじゃないが、退屈極めて発狂寸前だった」
これに、アルフレッドは今更のように問いかける。
「…………そういえば、今まで聞きませんでしたが、あなたがこの世界に生じて以降、一体どれほどあそこにいたんですか?」
対する宵闇は、うんざりを絵に描いたような表情で言った。
「さあ? 日が昇る回数は1000回超えて以降、なんだか馬鹿らしくなって数えてねえし。それこそ、100年近く……にはなってたんじゃねえか? もうほとんど寝て過ごしたから曖昧だが」
「…………」
「なんだ、アル。なんか引いてる?」
つらつらと述べた宵闇に対し、なぜかアルフレッドは尻で後退って言った。
「いえ。言動が幼いのはあなたも一緒だったんだな、と」
そんな言葉に宵闇は、というと――。
「おい! さすがにそこは“幼い”じゃなくて“変わらない”にしろよ! …………まあ、確かに前よりハッチャけてんのは自覚してるけど!」
「フフ」
一方、それを傍から聞く真緋は、抑えきれずに笑って言った。
「――そうだぞ、アルフレッド、未だ生物の枠を出ないお前と比べれば、我らに起こる変化は至って軽微だ。
我のこの性格もこの世界に生じてよりほとんど変わっていない。…………とはいえ、全く変わらない、というわけでもないがな。そうだろう、月白」
「ああ。……そうだな」
問われた彼は、珍しく口端をわずかに上げて言った。
「私は自由を得てから――いや、アレクシスやシリンと出会ってから、大きく変わった。…………今もなお、変わり続けている。面白いことだ」
「はは、確かに」
これには宵闇も同意した。
「まぁつまり、どんな存在だろうが相互に関係しあって変わってく、ってことだな。
裏を返せば、独りじゃなんにも起こらない」
その感慨深げな言葉を、特にアルフレッドは視線を落として聞いていた。
彼の表情からはいかなる感情も思考も読み取れなかったが……。何やら思い返してはいるようだった。
…………ところで、まるで何かが収束したような感じになっているのだが――。
ぜひここで思い出したいのは、肝心な部分が1つとして決まっていないことだろう。
「で、だ! 話は完全に戻るんだが!」
宵闇が強引に話題を引き戻す。
折しも、気が済んだ青藍が泉から上がり、人型になりながら機嫌よさげに駆け寄ってきている。
時刻は既に夕闇も迫る頃。
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