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一 奥の細道
しずやしず......(五)
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それにしても緑がキレイだな。
観光バスが一台、二台すれ違う。
「中尊寺など、有名な観光地ですからね」
菅生のお姉さん、見つかるかな。
観光旅行の人達を横目に見ながら、俺たちは少し南に走った。
「ここが、高舘の義経堂だ」
源義経の最期の地、だそうだ。
昔、ここには判官館、源義経の住んでいた建物があって、追い詰められた義経はここで自害した、という。
「お?駒治くんか?」
駐車場で車から降りると、お堂を上がる階段の手前で小柄な老人が、身体に似合わぬデカいカメラを肩に、こちらに手を振っていた。
「松尾のじいちゃん?」
「久しぶりだな~。元気だったか?」
老人、松尾のじいちゃんはスタスタと俺たちのほうに歩み寄ってきて、にっこり笑った。
「誰?」
俺の肱を水本が突っついた。
「えっと......東京のばあちゃんの弟さんで、松尾貴彰さん。今は旅行カメラマンでライターさん」
「え?ライター?カメラマン?カッコいい」
水本が途端に眼を輝かせる。
「ペンネームとかあるんですか?」
「あるよ」
松尾のじいちゃんはケラケラ笑って言った。俺は知ってるけど、あえて言わない。
洒落にならないし、なんとなくイヤな予感がするんだもの。
小野崎先生と無言で目線交わしてるし、牛頭さん、馬頭さんとも知り合いみたいな空気。
「貞佳から連絡もろうてな。......お前さん達の尋ね人は、ほらあそこだ」
じいちゃんも嘘つき。俺、親父に平泉に行くとは言ったけど、細かい話はしてないよ。小野崎先生と知り合いなんだろ?
ともかく、松尾のじいちゃんの指差す先、階段の下から見上げてると、お堂の前に髪の長い女性が佇んでいた。
「菅生のお姉さんかな......」
「行きましょうか......」
数人の観光客が降りてくるのと入れ違いに階段を上がる。なんだか、馬頭さんが不思議そうな顔をする。
「馬頭さん、どうしたの?」
「気配が無いんですよね。弁慶も義経も」
義経の最期の時に、武蔵坊弁慶はこのお堂の前に仁王立ちして敵の侵入を防ぐために戦い、立ったまま亡くなったそうだ。
「あれだけ強い執念なのに......」
「転生したんだろう。千年近い時が経っているんだ」
小野崎先生が何気なく呟いた時、俺は女性がボロボロ涙を溢していることに気づいた。
その唇から、小さな呟きが漏れている。
『どうして.......どこにいるの......あなた.....』
そうは言われても......。
俺たちは彼女のごく近くに寄りながら、そのあまりの鬼気迫る様に、どうしてもそれ以上近づけず、声を掛けることもできなかった。
「あ......の...、どうかされましたか?」
ふいにお堂の裏手から声がして、ひとりの若い男性がひょこっと顔を出した。
そして、泣いている女性......たぶん菅生のお姉さんに近寄り、ハンカチを差し出した。
見た目も仕草も爽やか系なイケメンだ。
若い女性、菅生のお姉さんは、その青年を振り向き、目を見張ると、なんとその青年の腕に歩み寄り、泣き崩れた。
え?どしたの?
その青年もびっくりしたようで、背後から来たもうひとりのかなり体格のいい男の人を振り返った。
パチリと小さく小野崎先生が指を鳴らした。
すると、青年ともうひとりの男は、はっとしたように顔を上げ、そして菅生のお姉さんを抱きしめた。
「しず......か?」
お姉さんはほんの少し顔を上げて頷くと、その場に崩折れた。
気を失ったみたいだ。どうしよう。俺たちー呆然と立ちすくむ俺と水本を見て、その青年が言った。
「お知り合いですか?」
「え、ええ、まぁ.....」
口ごもる俺たちと青年の間に、松尾のじいちゃんが、ひょこっと顔を覗かせた。
「案配が悪いんじゃろ。義雄君、君のところで少し休ませてやったらどうや?」
「羽祥さんがそう言うなら......。あ、僕は藤原義雄っていいます。僕ん家はこの近くで旅館やってるんで、皆さんも良かったら......」
青年が、お姉さんの体を支えながら、ペコリと頭を下げた。
「この子は俺の姉さんの孫とその友達......と」
「小野のじいちゃんのお弟子さんと、学校の先生」
俺がさらっと紹介すると、青年、義雄さんがにっこり笑った。
「弁慶、お前さんならそのお嬢さん、運べるやろ。車まで運んだり」
「松尾さん、俺は弁慶じゃなくて一慶ですよ」
体格のいい男の人は、苦笑いすると、菅生のお姉さんをひょい......と抱き抱えて階段をスタスタと降り始めた。
「ほれ、お前さん達も」
松尾のじいちゃんが言った。
俺たちはじいちゃんについて階段を降り、義雄さんと一慶さん、菅生のお姉さん、松尾のじいちゃんは、『旅荘ふじはら』とロゴの入ったステーションワゴンに、俺たちは牛頭さんのステーションワゴンに乗り込んだ。
「後を迷わずについてきてくださいね」
運転席の一慶さんが窓から顔を出して、ニカッと笑い、車はゆっくりと滑り出した。
「やっぱり転生してたな」
小野崎先生がほっとしたように笑った。
あ、義雄さんが義経さんなんですか?菅生のお姉さん、もとい静御前さま、再会おめでとう。
え?でも義雄さん、名字が藤原さんでしたよ?違くないですか?
観光バスが一台、二台すれ違う。
「中尊寺など、有名な観光地ですからね」
菅生のお姉さん、見つかるかな。
観光旅行の人達を横目に見ながら、俺たちは少し南に走った。
「ここが、高舘の義経堂だ」
源義経の最期の地、だそうだ。
昔、ここには判官館、源義経の住んでいた建物があって、追い詰められた義経はここで自害した、という。
「お?駒治くんか?」
駐車場で車から降りると、お堂を上がる階段の手前で小柄な老人が、身体に似合わぬデカいカメラを肩に、こちらに手を振っていた。
「松尾のじいちゃん?」
「久しぶりだな~。元気だったか?」
老人、松尾のじいちゃんはスタスタと俺たちのほうに歩み寄ってきて、にっこり笑った。
「誰?」
俺の肱を水本が突っついた。
「えっと......東京のばあちゃんの弟さんで、松尾貴彰さん。今は旅行カメラマンでライターさん」
「え?ライター?カメラマン?カッコいい」
水本が途端に眼を輝かせる。
「ペンネームとかあるんですか?」
「あるよ」
松尾のじいちゃんはケラケラ笑って言った。俺は知ってるけど、あえて言わない。
洒落にならないし、なんとなくイヤな予感がするんだもの。
小野崎先生と無言で目線交わしてるし、牛頭さん、馬頭さんとも知り合いみたいな空気。
「貞佳から連絡もろうてな。......お前さん達の尋ね人は、ほらあそこだ」
じいちゃんも嘘つき。俺、親父に平泉に行くとは言ったけど、細かい話はしてないよ。小野崎先生と知り合いなんだろ?
ともかく、松尾のじいちゃんの指差す先、階段の下から見上げてると、お堂の前に髪の長い女性が佇んでいた。
「菅生のお姉さんかな......」
「行きましょうか......」
数人の観光客が降りてくるのと入れ違いに階段を上がる。なんだか、馬頭さんが不思議そうな顔をする。
「馬頭さん、どうしたの?」
「気配が無いんですよね。弁慶も義経も」
義経の最期の時に、武蔵坊弁慶はこのお堂の前に仁王立ちして敵の侵入を防ぐために戦い、立ったまま亡くなったそうだ。
「あれだけ強い執念なのに......」
「転生したんだろう。千年近い時が経っているんだ」
小野崎先生が何気なく呟いた時、俺は女性がボロボロ涙を溢していることに気づいた。
その唇から、小さな呟きが漏れている。
『どうして.......どこにいるの......あなた.....』
そうは言われても......。
俺たちは彼女のごく近くに寄りながら、そのあまりの鬼気迫る様に、どうしてもそれ以上近づけず、声を掛けることもできなかった。
「あ......の...、どうかされましたか?」
ふいにお堂の裏手から声がして、ひとりの若い男性がひょこっと顔を出した。
そして、泣いている女性......たぶん菅生のお姉さんに近寄り、ハンカチを差し出した。
見た目も仕草も爽やか系なイケメンだ。
若い女性、菅生のお姉さんは、その青年を振り向き、目を見張ると、なんとその青年の腕に歩み寄り、泣き崩れた。
え?どしたの?
その青年もびっくりしたようで、背後から来たもうひとりのかなり体格のいい男の人を振り返った。
パチリと小さく小野崎先生が指を鳴らした。
すると、青年ともうひとりの男は、はっとしたように顔を上げ、そして菅生のお姉さんを抱きしめた。
「しず......か?」
お姉さんはほんの少し顔を上げて頷くと、その場に崩折れた。
気を失ったみたいだ。どうしよう。俺たちー呆然と立ちすくむ俺と水本を見て、その青年が言った。
「お知り合いですか?」
「え、ええ、まぁ.....」
口ごもる俺たちと青年の間に、松尾のじいちゃんが、ひょこっと顔を覗かせた。
「案配が悪いんじゃろ。義雄君、君のところで少し休ませてやったらどうや?」
「羽祥さんがそう言うなら......。あ、僕は藤原義雄っていいます。僕ん家はこの近くで旅館やってるんで、皆さんも良かったら......」
青年が、お姉さんの体を支えながら、ペコリと頭を下げた。
「この子は俺の姉さんの孫とその友達......と」
「小野のじいちゃんのお弟子さんと、学校の先生」
俺がさらっと紹介すると、青年、義雄さんがにっこり笑った。
「弁慶、お前さんならそのお嬢さん、運べるやろ。車まで運んだり」
「松尾さん、俺は弁慶じゃなくて一慶ですよ」
体格のいい男の人は、苦笑いすると、菅生のお姉さんをひょい......と抱き抱えて階段をスタスタと降り始めた。
「ほれ、お前さん達も」
松尾のじいちゃんが言った。
俺たちはじいちゃんについて階段を降り、義雄さんと一慶さん、菅生のお姉さん、松尾のじいちゃんは、『旅荘ふじはら』とロゴの入ったステーションワゴンに、俺たちは牛頭さんのステーションワゴンに乗り込んだ。
「後を迷わずについてきてくださいね」
運転席の一慶さんが窓から顔を出して、ニカッと笑い、車はゆっくりと滑り出した。
「やっぱり転生してたな」
小野崎先生がほっとしたように笑った。
あ、義雄さんが義経さんなんですか?菅生のお姉さん、もとい静御前さま、再会おめでとう。
え?でも義雄さん、名字が藤原さんでしたよ?違くないですか?
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