転生・小野小町(♂)の受難~DK 冥官修行録~

葛城 惶

文字の大きさ
21 / 50
一 奥の細道

夏草や......(三)

しおりを挟む
 結局、南元さん達はそのまま鎌倉に帰り、菅生の一家は藤原さんのお宿に泊まってもてなされたようだ。


 後日、菅生から聞いた話では、南元さんと政子さんは別れたそうだ。菅生の姉さん、静さんは義雄さんと交際を始めて、静さんが大学を出たら結婚するらしい。

 昔は昔だけど、清算はしなくちゃならないって小野崎先生が言ってた。根が深そうだもんな、色々。

 でも、親子や兄弟で殺し合うって哀しいよな。武士ってなんだろ。





 帰りの車の中、俺は半分暗い気持ちだった。菅生の姉さんは良かったけど、南元さんと政子さんは大変だろうな。

「北条政子も頼朝のことは真剣に好きだったんだと思うよ。それがどっかですれ違っただけなんだよ」

と水本が言う。

「頼家も実朝も頼朝の子どもだけど、政子の子どもじゃなかったという説もあるし......」

 だからって殺しちゃダメでしょ。結果的に実朝の後は京都から源氏の血筋だけど全く関係ない人を連れてきて、実質、鎌倉幕府は北条氏が政権を握ったんだよね。
 つまりはお父さんの義時が幕府をぶん取った形。しかも北条氏って平氏なんだって。わけわからん。

「政治なんてそんなもんだ」

苦々しげに言う小野崎先生こと小野篁さん.......ここもなんか嫌な思い出がありそう。

「そう言えば......」

 俺はふっと松尾のじいちゃんの言葉を思い出した。

「将門さんは、なんか平泉に嫌な思い出があるのかな」

小野崎先生は、あぁ......と小さく呟いた。

「彼がこだわっているのは、平泉じゃない。『藤原』だ」

え?

「平将門は藤原秀郷ふじわらのひでさとという男に討ち取られている。......奥州藤原氏の祖先だ」

あ、そこなの?

「まぁ古傷のコメカミが痛むんだろう。そういうことはよくある。......まぁ小野君も父上には頼朝の話はしない方がいいな」

うちの親父?なんで?


「藤原氏が奥州の主になる少し前の時代だが、朝廷から任ぜられて陸奥六郡を治めていた武士がいた。だが、朝廷への翻意を疑われて源頼義という源氏の武士に討たれた......頼朝の祖父だな」

あの、その人と親父が何か?

「君の父上はお婿さんだったよね。......元の名字は?」

「安倍......ですけど?」

「その武士の名前はね、安倍貞任あべのさだとうというんだ」

 はあぁ?偶然でしょ、それ。

「お父上は額にホクロとか無かったか?」

「あります......けど」

 確かおでこの真ん中にホクロあったな。結構大きいの。

「安倍貞任の首は討ち取られたあと、額を木材に打ち付けられて京都に送られたんだ」

 ひえぇ痛そう......って、千年前だよね、それこそ。

「恨み辛みはともかく、陸奥六郡は自分が守る、という矜持は消えてないんだろうな。今も......」

 あ、それで自衛隊なのか。震災の時にも真っ先に駆けつけたって言ってたもんな。男の意地ってやつですか。

 息子はヘタレです。ごめんな、親父。


 


 あれやこれや話しているうちに車は盛岡の駅についた。
 駐車場に親父の自慢のジムニーが止まっていた。カッコいいんだけど、お尻痛いんだよね、あれ。

 親父は制服のまんまで、先生達に挨拶して、俺たちをホテルに運んだ。親父の官舎は滝野沢ってところにあって盛岡からはちょっと遠い。なので、わざわざホテルを取ってくれたらしい。ありがとうな、親父。

 親父はホテルで着替えて、俺たちを焼肉屋に連れていって、満腹になるまで食わせてくれた。

 俺たちは未成年だからアルコール無しだけど、親父はビールをガンガンいってて、酔っぱらって、

「息子を末長くよろしくお願いします」

なんてトンチンカンなこと言ってた。

「はい、喜んで」

って、水本、お前も悪乗りしないの。

 でも、久しぶりにいっぱい喋って、笑って楽しかった。
 翌朝、新幹線の切符と一緒に、俺たちに弁当と土産を持たせて、ホームで見送りしてくれた。

「正月には帰ってきてよ」

と言うと、嬉しいんだか寂しいんだかわかんないような変な顔で、

「おぅ!」

って返事してた。

 俺たちは電車に乗ってすぐに寝てしまって景色もあんまり見れなかったけど、なんか楽しかった。
 最寄りの駅には、今度は水本のお父さんが迎えにきてくれていて、俺たちを家まで送り届けてくれた。........って、まあ斜向かいなんだけどさ、俺たちの家。

 今日は、水本のお父さんは半休取ったって言ってたから、ゆっくり旅の話、聞かせてやれよ。


 俺は誰もいない家の玄関の前に立った。
 はぁ.....とちょっとばかり重い息をついて鍵を差し込んだ。

 と同時に、庭先から二人ぶんの大きな声がした。

「お帰り!」

 手を振る牛頭さんと馬頭さんのニコニコな笑顔がなんか凄く嬉しかった。


 後から牛頭さん達に聞いたんだけど、松尾のじいちゃんは芭蕉の頃から、そうして散っていった人達を俳句を詠みながら供養してたんだって。

 今世はその続きらしい。
 前世との関わり方っていろいろあるんだね。



夏草や兵(つわもの)どもの夢の跡

   (松尾芭蕉『奥の細道』)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...