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二 通小町
いにしえの......(二)
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「コマチ、本当にもう大丈夫なのか?」
.「うん。大丈夫。完璧だぜ」
明日香村では散々だったけど、あの母子と会ってからは絶好調になった俺。
水本はあれから心配してすぐに戻ってきてくれたし、清原と色部も見学を早目に切り上げて俺の様子を見に来てくれた。結構、優しいんだよね、こいつら。
で、俺たちは、夕飯のあと、ロビーで小野崎先生と地学の長柄先生の特別授業。
万葉集や古事記、日本書紀の時代についてのお話を伺った。
実は結構好きな奴がいるらしくて、長柄先生には古墳好きな奴らが群がり、小野崎先生は万葉集にロマンを感じる女子に質問攻めに会ってた。
長柄先生は出身が奈良で考古学専攻ということで、古代の話はめっちゃ詳しい。
古代は古墳の墳丘の上で祖先祭祀をしたりしていて、死後の世界の概念は仏教伝来以後とまったく違うんだって。
ーだから、奈良、大和の地には古い、もう形も無い御霊がずっといるんだー
って小野崎先生がぼやいていた。
本人達は子孫を見守っているつもりだし、成仏という概念が無いから、『そのまんま』なんだって。
つまり管轄外ってわけね。
ちなみに日本史の平野先生は一年生の担任を持っているので、今回は不参加。
『どうも京都には来たくないらしい』
と、こっそり小野崎先生が言っていた。そりゃあ、平将門は三条河原に首を晒されているから、いい印象無いんだろうな。わかるけど。
気になったので首を巡らせると、深草くんは女子と万葉集の話をしていた。
俺がホッとしてふっと外を見ると......。
『お兄ちゃん♪』
昼間の男の子、すなわち小野崎先生いわくの他戸親王さまが、ガラス越しに手を振っていた。
俺はギョッとして、一瞬固まったけど、失礼のほうがヤバそうなんで、こっそり外に出て、男の子に近づいた。
「昼間はありがとう。こんな遅くにどうしたの?」
いくら御霊とは言え、小さい子どもが夜一人歩きなんていけません。
「母上がね、お兄ちゃんのこと心配して、様子を見てきなさいって」
やはりにっこにこの愛らしい笑顔で言う。とても怨霊とは思えない。
「ありがとう。もう大丈夫です。あ、ちょっと待っててね」
俺はデイバックに入れていたオヤツのグミとチョコレートを男の子に手渡した。
「くれるの?」
「昼間のお礼...。こんなものしかないけど」
「ありがとう」
再びキラッキラの笑顔で答える男の子。可愛いわ、ほんと。
「コマチ、どうした?」
とそこに顔を出す水本と腐才女コンビ。
「あら、可愛い。コマチ君の知り合い?」
お前らにも見えてるのね、俺はちょっと安心して、昼間助けてもらった、ってだけ言った。
「本当に?ありがとうね!」
水本や腐才女からもクッキーやら飴やらのお菓子のプレゼントを両手いっぱいに抱えて、親王さま、本当に嬉しそう。
「ありがと。みんな気をつけて行ってね。あ、お兄ちゃん、あれは後で燃やしてね」
べこりんと可愛くお辞儀しつつ、俺にこっそり耳打ちして、手を振って、男の子は闇の中に走っていった。遠くにほんの小さく光りが見えたから、皇后さま、お迎えに来たのね。
「可愛いかったわね」
「理想のショタだわ。弟に欲しいくらい」
色部、お前、親王さまになんてことを。祟られる前に不敬罪で捕まるぞ。
きゃいきゃいはしゃぐ女子達の後ろで、小野崎先生は再び硬直していた。
「女は強い......」
今さらですよ、先生。
いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に にほひぬるかな
(伊勢大輔 百人一首 第61番)
.「うん。大丈夫。完璧だぜ」
明日香村では散々だったけど、あの母子と会ってからは絶好調になった俺。
水本はあれから心配してすぐに戻ってきてくれたし、清原と色部も見学を早目に切り上げて俺の様子を見に来てくれた。結構、優しいんだよね、こいつら。
で、俺たちは、夕飯のあと、ロビーで小野崎先生と地学の長柄先生の特別授業。
万葉集や古事記、日本書紀の時代についてのお話を伺った。
実は結構好きな奴がいるらしくて、長柄先生には古墳好きな奴らが群がり、小野崎先生は万葉集にロマンを感じる女子に質問攻めに会ってた。
長柄先生は出身が奈良で考古学専攻ということで、古代の話はめっちゃ詳しい。
古代は古墳の墳丘の上で祖先祭祀をしたりしていて、死後の世界の概念は仏教伝来以後とまったく違うんだって。
ーだから、奈良、大和の地には古い、もう形も無い御霊がずっといるんだー
って小野崎先生がぼやいていた。
本人達は子孫を見守っているつもりだし、成仏という概念が無いから、『そのまんま』なんだって。
つまり管轄外ってわけね。
ちなみに日本史の平野先生は一年生の担任を持っているので、今回は不参加。
『どうも京都には来たくないらしい』
と、こっそり小野崎先生が言っていた。そりゃあ、平将門は三条河原に首を晒されているから、いい印象無いんだろうな。わかるけど。
気になったので首を巡らせると、深草くんは女子と万葉集の話をしていた。
俺がホッとしてふっと外を見ると......。
『お兄ちゃん♪』
昼間の男の子、すなわち小野崎先生いわくの他戸親王さまが、ガラス越しに手を振っていた。
俺はギョッとして、一瞬固まったけど、失礼のほうがヤバそうなんで、こっそり外に出て、男の子に近づいた。
「昼間はありがとう。こんな遅くにどうしたの?」
いくら御霊とは言え、小さい子どもが夜一人歩きなんていけません。
「母上がね、お兄ちゃんのこと心配して、様子を見てきなさいって」
やはりにっこにこの愛らしい笑顔で言う。とても怨霊とは思えない。
「ありがとう。もう大丈夫です。あ、ちょっと待っててね」
俺はデイバックに入れていたオヤツのグミとチョコレートを男の子に手渡した。
「くれるの?」
「昼間のお礼...。こんなものしかないけど」
「ありがとう」
再びキラッキラの笑顔で答える男の子。可愛いわ、ほんと。
「コマチ、どうした?」
とそこに顔を出す水本と腐才女コンビ。
「あら、可愛い。コマチ君の知り合い?」
お前らにも見えてるのね、俺はちょっと安心して、昼間助けてもらった、ってだけ言った。
「本当に?ありがとうね!」
水本や腐才女からもクッキーやら飴やらのお菓子のプレゼントを両手いっぱいに抱えて、親王さま、本当に嬉しそう。
「ありがと。みんな気をつけて行ってね。あ、お兄ちゃん、あれは後で燃やしてね」
べこりんと可愛くお辞儀しつつ、俺にこっそり耳打ちして、手を振って、男の子は闇の中に走っていった。遠くにほんの小さく光りが見えたから、皇后さま、お迎えに来たのね。
「可愛いかったわね」
「理想のショタだわ。弟に欲しいくらい」
色部、お前、親王さまになんてことを。祟られる前に不敬罪で捕まるぞ。
きゃいきゃいはしゃぐ女子達の後ろで、小野崎先生は再び硬直していた。
「女は強い......」
今さらですよ、先生。
いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に にほひぬるかな
(伊勢大輔 百人一首 第61番)
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